第1章 怒りっぽい隣人 (10)

「よろしい。念を押すぞ、二度とないようにな」ハリソン氏は、いくらか落ちつきを取りもどして言った。とはいうものの、まだ冷めやらぬ怒りにまかせて、どしんどしん足を踏み鳴らして帰った。遠ざかりながらぶつぶつ文句を言うのが聞こえていた。
 アンは動転した心地で、たったと庭を横切り、やんちゃなジャージー牛を、乳しぼりの狭い囲いに閉じこめた。
「もう逃げられないわよ、囲いを壊しでもしない限り」アンは思った。「この子ったら、今はとてもおとなしいのに。カラス麦を食べすぎて、具合が悪くなったのね。先週シアラー(11)さんがドーリーを買いたいと言ってきたとき、売っておけばよかった。でもあのときは、家畜の競売があるまで待って、ほかの牛とまとめて競せ)りに出すほうがいいと思っていたんだもの。それにしても、ハリソンさんが変わり者だというのは本当ね。あの人が心の同類じゃないことは、たしかだわ」
 アンは常日ごろから、心の同類がいないかどうか辺りに気を配っているのだった。(つづく)
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