第1章 怒りっぽい隣人 (8)
「失礼しました、だと? この小娘が! 謝っても、なんにもならんわい。あのけだものが畑をどんなにめちゃめちゃにしたか、行って見てこい。まん中からぐるっと輪をかいて麦を踏み倒してまわったんだぞ、小娘」
「それは大変失礼いたしました」アンは毅然とした口調でくり返した。「でも、おたくが柵をきちんと直しておけば、ドーリーも柵を壊して押し入らなかったでしょう。おたくの麦畑と、うちの牧草地を区切っている柵は、おたくの敷地にありますからね。先日見たんですけど、柵が傷いた)んでました」
「うちの柵は、立派なもんだ」ハリソン氏は激しく言い返した。文句を言いに来たのに、逆に非難されて、ますます怒ったのだ。
「お前の牛は、あんなに乱暴に柵をぶち破くんだ、たとえ頑丈な牢屋の塀でも囲いきれんわい。それに言わせてもらうがな、この赤毛の小娘、自分の牛だと言うなら、人の畑にうろつき出たりせんよう、しっかと見張ってろ。こんなくだらん黄表紙本きびょうしぼん)なんぞ、すわりこんで読んでる暇があったら」アンの足もとに落ちていたヴァージルの詩集には何の罪もないのだが、ハリソン氏は、それを刺すような目で見て言った。(つづく)
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