第1章 怒りっぽい隣人 (7)
「いったい何をお困りか、説明していただけませんか」アンは、できうる限りの威厳をもって言った。教員生活が始まったら、威厳のある口ぶりで話せるように、このところ熱心に練習していたのだ。しかし怒り心頭に発しているJ・A・ハリソンには、重々しい口ぶりも、大した効き目はなかった。
「何をお困りか、だと? ふざけるんじゃない。大いにお困りだよ、まったく。あんたのおばさんのジャージー牛が、またうちのカラス麦(オート)(10)畑に入って荒らしたんだ、まだ半時とたってない。いいか、これで三度めだぞ。先週の火曜、昨日、そいから今日だ。わざわざここへ出向いて二度としてくれるなと、おばさんに念を押したのに、またやったじゃないか。おばさんはどこだ、小娘。ちょいと話がある。こうなれば一つ言わせてもらうぞ、このJ・A・ハリソンの考えを」
「ミス・マリラ・カスバートのことでしたら、私のおばではありません。それに今日は、東グラフトンに出かけています。遠縁の親戚が重病で、見舞いに行きました」アンは、一言言うごとに、さらに重々しく威厳を強めた。
「牛がおたくの畑に入ったというなら、たしかに失礼しました。でもあの牛は私のであって、カスバートさんのじゃありません。三年前、まだ子牛だったとき、マシューが私にくれたんです、ベルさんから買ったんです」(つづく)
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