夢三夜      

-18. 夢三夜


「煙を噴いて列車は夜の街を走る」001206

列車がホームに入ってくる前から、モータの焼ける臭いがした。何処から漂ってくるのであろうかと考えながら乗り込むと車内はもっと臭っている。次の駅でなかなか発車しないのでホームに出てみてみると隣の車両の下から白い煙がモクモクと出ている。熱のためか外の鋼板が波打っている。待っていても発車する様子がないので、そのまま歩いて帰宅する。

家に入ってもモータの焼ける臭いがした。何処から漂ってくるのであろうかと考えながら風呂に入ると風呂場はもっと臭っている。湯がなかなか熱くならないので見てみると湯船の下から白い煙がモクモクと出ている。熱のためか湯船のプラスチックが波打っている。待っていても湯が沸く様子がないので、そのまま身体を拭いてあがる。

飯を食い終わってもモータの焼ける臭いがしている。何処から漂ってくるのであろうかと考えながら布団に入ると布団の中はもっと臭っている。目を開けてみると布団から白い煙がモクモクと出て部屋中に充満している。布団からチロチロと火が出ている。待っていても消える様子がないので、あきらめてそのまま眠りにつく。

目眩 '010115

 最近、目眩がひどい。朝起きると布団がゆらゆらと揺れている。小舟に乗っているようである。通勤の時は、電車の揺れと自分の揺れが加わってよろよろと隣の人にぶつかったりする。会社ではデスクワークなのでとりあえず揺れいてもなんとかなるのであるが、時々大波にぶつかったようにぐぐぐと机が三十度くらい斜めに傾いてしばらくそのままのことがある。頭では目眩と分かっていても、つい足を踏ん張ってみたりする。

風呂に入ると、湯舟のお湯が揺れているのか、お湯は静かで私が揺れているのか良く分からなくなる。目をつぶってシャワーを浴びていると、台風の中大揺れの船の甲板で雨にうたれているようである。

昼間も、気のせいか風も無いのに風の音が聞こえてくる。降っているはずもないのに靴の中がびしょぬれになっていたりする。いるはずのない船長が大声で乗り組み員に指示している声が聞こえてくる。ビルの窓を開けると、そこは道路なのか海原なのか良く分からなくなる。突然海に飛び込みたくなる。海はこちらに来いと囁き、遠く下に見えるアスファルトは止めろと言っている。

死んだ人 '010114

最近、死んだ人をよく見かける。先週は会社の同期の坂部君が駅のホームを歩いていた。彼とは独身寮でしばらく一緒だったこともあり、入社当初は二人で遊んで回ったりした。しばらくして彼が転勤になったので疎遠になったが、しばらくして会社の女の子と結婚したとの噂が聞こえてきた。去年、突然心臓の病気で亡くなったというのを聞いて驚いた。まだ30ちょっとのはずである。誰も知らない間に離婚していたというので同期の皆はさらに驚いた。駅で見かけた彼は、死んでいるのに元気そうに歩いていた。足早に歩いていたが、なにか用事でもあるのであろうか。死んでからも元気で暮らしているようでなにかほっとした気持ちになった。

ある朝、遅刻しそうになり早足で会社に向かっていると、中学の同級生の江口君が歩いているのにすれ違った。死んでいるので存在感は薄かったが確かに江口君だった。いや、まてよ。彼が首都高のバイク事故で死んだというのは噂で、実は生きていたのではなかったか? すると私が見かけた江口君は、噂の方の江口君だったのだろうか。話し掛けて確認しようかと思ったが、会社に遅刻しそうだったので見送った。

今朝は、死んだはずの自分の姿を見かけた。彼は自分が死んでいるのにも気がつかない様子で向こうの方に歩いていた。私の姿を見つけると、なにか嫌なものを見つけたとでもいいたげな表情を浮かべて自分の家の方へ帰っていった。

私はあとに続いて家の玄関の前まで辿り着いたが、チャイムを押そうとすると家の中から楽し気な子供の声と、死んでいる私の声が聞こえてきたので、どうしてもチャイムを押せなかった。そのまましばらく立っていたが、生きている私は帰宅することを諦め、駅の方へ歩き出した。


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