エスカーエレベー      

-9. エスカーエレベー 000808


「エスカレーターとエレベーターの差異」

デパートで買い物なんていうときに私はエスカレーターで登りたがるのに、家内はエレベーターに乗りたがります。家内に言わせると一階一階登るのはまどろっこしいそうです。私はなかなか来ないエレベーターをじっと待っている間はイライラするし、狭い箱の中視線を何処に置くべきか非常に困って息が詰まるのでエレベーターはあまり好きではありません。

たとえば会社のエレベーターが混んでて目の前に同僚の女性が立ったりすると、もうどうして良いかわかりません。変に体を動かした拍子に体が触れてしまい、変な人と誤解されたら困る。いや、もう既に変な人と思われているかも知れないが、変態と思われたら困る。いや、もう既に変態と思われているかも知れないが、その証拠を握られるのは困る。などといろいろな思いがぐるぐると駆けめぐります。芭蕉が死ぬ前に駆けめぐった枯れ野というのはきっとエレベーターに違いないということに思い当たります。エレベータはこれからの俳句に必要不可欠であろうと言えます。問題はエレベーターの季語を何時にするか?ということでしょう。

こういうふうに無駄に緊張するのは、単に自意識過剰であるとも言えるが、女学生でもあるまいし、この年で自意識過剰というのも、これまた恥ずかしい。こういう時には、目の前に立っている女性のうなじが否応なしに眼に入ります。柔らかそうであるが、これは食べたらおいしい物であろうか? 昔から言うではないか、うなじ美味し、かのやま〜。などと考えている内に目的の階に到着する。どっと疲れが出てくる。

エレベーターの長所というとなんでしょう?エスカレーター好きの私でも、さすがに超高層ビル41階までエスカレーターで登れといわれるのは御免被りたい気分です。エレベーターは一時的な密室というのが良いと言う人もいるかもしれない。ワイヤーが切れれば無重力が体験出来るのが良いと言う人もいるかもしれない。停電すれば閉じこめられるというのが良いと言う人もいるかもしれない。間違えた階のボタンを押してもキャンセルできないので、無用の階に停止して扉が無駄に開いて閉じるようすを見て、人生のわびさびを悟るというところが良いと言う人もいるかもしれない。やっぱりエレベーターは俳諧に必要不可欠なのかもしれない。

そういえば、エスカレーター式に進学と言いますが、エレベーター式に進学とは言いません。死刑台へのエレベーターとは言いますが、死刑台へのエスカレーターとは言いません。エレベーターとエスカレーターの違いは、エレキングとエスカフローネの違いに似ているのかも知れません。その可能性は無いとは言えない、と言えるかも知れない。と昔新聞に書いてあった。と、昔おばあちゃんが言っていた、というのが親父の遺言であります。問題は私の親父がまだ生きているということですが、それは些細な事項である。

手元の英和辞典によりますと、elevator:物を揚げる人、装置、escalate:段階的に拡大する。ということらしいです。辞書に従うならば、エレベーターで階を降りるのは禁止にすべきであろう。また、エスカレーターに乗った人は強制的に拡大するがよかろう。何を拡大するかは未定である。自意識の過剰を拡大するもので無いことを願うところである。


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