歩く方法      

-4. 歩く方法 010212


まず、立っている自分に気がつく必要がある。その時点で両足の爪先と踵に囲まれた四角形の内部に重心が納まっていることを確認する。重心が外れている場合は、体が倒れているか、いままさに倒れている最中であるので注意が必要である。

歩行する場合には基本として裸足による歩行があるが、通常足を保護するための靴、靴下、長靴、下駄、足袋、雪駄等を足に装着して歩く方法がある。足を保護するとはいえ、これらを同時に装着することは困難であるので適宜最適な方法を選択されたい。また、靴の中に小石、安全ピン、安全剃刀等が混入されていた場合は靴の本来の目的である足の保護と逆の効果を発揮するので留意されたい。また、悪意をもってこれらの異物が混入されていた場合は可及的速やかに原因を究明し、下手人を締め上げることが望ましい。

直立していることを確認した後、片足を踏み出すことを試みる。あらかじめ左右どちらの足を踏み出すか決めておくのが望ましい。両足を踏み出した場合、その後連続して跳躍して進むことになり大腿筋の鍛練になるが、身体移動という目的には必ずしも適さない。両足ともに踏み出さない場合は顔面が地面に衝突し痛い上に、これも身体移動という目的とは合致しない。最初に踏み出す足は通常、利き足が選択されることが多い。利き手と比較して利き足を自覚している人は少ないが、利き酒を自覚している酒と比較すれば多いと言えよう。聞き耳頭巾を自覚している頭巾と比較するのも良いかも知れない。キッキー!どうしたんだ!?ジェーンを自覚しているターザンと比較するのも良いかも知れない。簡単に判別する方法としては、お箸を持つ方が利き足であることは良く知られている。

左右差し出す足を決めるのにはいくつか方法がある。歩行者が右手に鞄を持っている場合は、重心が若干右側に寄っているので、左足を上げるのが自然である。あなたが、黒塗りの街宣車に乗って大音量で演説しているならば右側である。マルクス主義を信奉しているならば左側である。ソ連崩壊後は注意が必要である。左派右派どちらにも属さないノンポリならばやはり跳躍して進むことを覚悟せねばなるまい。

とりあえず右足を地面から引き上げた後、さらに重心を前方へ移動させる。右側の股関節膝関節を曲げ右足を前方に持ち上げる。この状態で左足の安定性を確認する。左足裏が安定していない場合、則ち落とし穴の縁に立っていた場合、底なし沼に立っていた場合、砂地獄に立っていた場合、はじめから寝ていた場合、水上の回転する丸太の上に立っていた場合、サーカスの綱渡りの途中であった場合、速やかに差し上げた右足を元の位置に戻す必要がある。その後の対応はそれぞれの場合により異なるのでテキストを参照されたい。

左足の安定を確認した後、右足の着地予定位置を予想する。予想位置が堅い地面であるならば次のステージへ移動する。予想位置が落とし穴、砂地、底なし沼、綱、水上の丸太等の場合、速やかに差し上げた右足を元の位置に戻す必要がある。但し、右足の着地地点がM男である場合には速やかに踏み締めないとM男の満足が得られず、人間関係に齟齬を生じる可能性がある。

右足が安全に着地したのを確認した後、次にどちらの足を動かすかについて考察する必要がある。則ち、この一連の動作が歩行であるかスキップであるかの決定を迫られることになる。歩行の場合は、右左右左右左右左であるが、スキップの場合は右右左左右右左左右右左左右右左左である。歩行上級者ともなれば右右右右左左左右右左右右右右右右左左左右右左左左左左左左や、右右右右右右右右右右右右右右右右右左右右右右右右右右右右右右右右右右右左や、右石右右右石左左石左右右左右石右右石右右石右左左左右右左左石左左左石左左や右左石ナロ石ナエなどの高等な技が可能であると言われている。

ここでは初心者向けに通常の歩行、則ち左足を進めることにしよう。右足を動かした手順通りに左足を動かす。手順を忘れることが多いのでこのテキストを印刷し、常に復唱することが望ましい。左右が対称であるので前方に鏡を設置すれば参考になるだろう。

さて、以上述べた方法で前方に進行する歩行方法がマスターできたことと思う。次回は止まる方法について述べたいと思う。次回以降の講議は必ずしも歩行には必須とはいえない。止まることが出来なくて目的地を行き過ぎたとしても、地球は丸いのでどんどん歩いていけば元の場所に戻るはずである。


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