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212.五十音 4 20220320

2020年11月16日―2021年12月5日 
@Nise_gatsu
 

【あ】
あっちのほうだよ。言われて袋小路に進む。突き当たりの塀に開いている小さな穴から覗いても向こうは白くぼやけて何も見えない。振り返ると四方を塀に囲まれている。あっちのほうだよ。と誰かに教えている声が聞こえる。

 

【い】
犬が暗がりに向かって吠えている。まるでそこに何かがいるように。飼い主は犬をなだめているが威嚇はやまない。うるさいからそろそろ僕に向かって吠えるのはやめてくれないだろうか。

 

【う】
渦を巻いて雲が空の一角に吸い込まれていく。青空も一緒に引っ張られて吸い込まれる。地平線がちぎれ遠くの山から順に吸い込まれていく。既に空は暗黒になり海が干上がる。地表から街が剥ぎ取られ地面は舞い上がる。何もかも吸い込まれたのに僕だけ取り残される。

 

【え】
駅を出ると見知らぬ街。見知らぬ帰宅路を見知らぬコンビニに寄り道して見知らぬ自宅に帰る。見知らぬ妻と見知らぬ子供の顔が何故か懐かしい。

 

【お】
追いかけられているような気がする。角を曲がった所で振り返り、立ち止まって追いかけて来る人を待つ。角を曲がって来た人が私の前で立ち止まり振り返って誰かを待つ。次々と私の前に人が並ぶ。通りすがりの人が、何の列ですかと尋ね、最後尾はここですか?と私の後ろに並び始める。

 

【か】
かなり昔の話、光あれと言うと光が現れたのじゃ。創る前の想像とはチト違うものじゃったが仕方ない。それから創るもの全て思った通りのものは一つもなかった。最後にワシに似せてヒトを創ったのじゃが、デフォルメと省略がキツいものが出来上がってしまい、そこは君らには謝っておきたい。

 

【き】
綺羅綺羅と光を撒き散らしながらこの地に舞い降りてきた天使は地上の人間の心の醜さに絶望し深海に身を潜めた。帰らぬ天使を呼びに現れた大天使は地上の人のあまりの愚かさに嘆き地下深くに潜り出てこようとはしなかった。天使がいなくなり既に神は死んでいたので天上には誰もいなくなった。

 

【く】
九時のチャイムがなり講義が始まり難解な理論を説明する声が響く。教師はまだ教室に来ていない。変だなと生徒がザワザワしだそうとしたがまだ誰も登校していない。誰もいない教室の黒板に講義の字と図が現れては消える。

 

【こ】
氷がないかキッチンの旧式冷蔵庫の扉に手をかける。長く放置していた冷凍庫の扉はびくともしない。無理矢理力を入れるときしみながら少し隙間が開き冷凍庫一杯の白くて柔らかくうごめく何かと目が合い迷惑そうに中から扉を閉められる。怖くなり電源をきったが冷蔵庫の動作音は止まらない。

 

【さ】
寒いと思ったら冷蔵庫の扉が開けっ放しだった。冷凍庫の霜は溶け床は水浸しだ。雑巾をとりに振り返るとブヨブヨとした冷凍庫と同じくらいの大きさの白い直方体がウネウネと移動している。バランスを崩して右足を突っ込んでしまう。踏み抜いたらあるはずの床の感触はなく、そのまま吸い込まれる。

 

【し】
白くプルプルと揺れ続ける直方体は部屋の住民を飲み込んだ後も、しばらく部屋の中央でプルプルと揺れ続ける。待っていても誰もこないので冷凍庫に戻り内側から扉を閉める。コンセントにつながっていない冷蔵庫からモーターの音が響く。

 

【す】
隙間から部屋を覗くと白い直方体が部屋の真ん中にいた。ときおり思い出したようにプルプルと震えるている。昼になり窓から日の光がさすと溶け出して丸く床に広がる。日が暮れると再び四角い形を取り戻す。ズリズリ動いて冷凍庫に戻ろうとするが既に私が入っているので白い直方体は入れない。

 

【せ】
背中の肩甲骨のあたりから小さな翼が生えてきた。パタパタ羽ばたく翼を触ると羽毛が気持ちいい。日に日に翼は育ち、羽ばたくと身体が持ち上がるほどに。空を飛びたいという欲求が次第に高まり、ついに崖から飛び降りる。自由落下する僕の目に映るのは、僕から離れ大空を自由に羽ばたく白い翼。

 

【そ】
遭難した。大吹雪で前後左右どころか上下までも混乱する。動かず体力を温存。空腹に耐えかねて下校する小学生にコンビニの場所を尋ねる。案外近かったので肉まんとお茶を購入。ビバーク地点に戻り食す。生き返った心地がする。まだ吹雪は止まない。生きてこの山を降りられるのだろうか?

 

【た】
滝に近づくにつれ轟音が響き小さなボートは揺れる。滝の裏側を見たいと漕ぎ出した事を後悔し始める。滝に突入すると大量の水の落下で呆気なく転覆する。滝壺の渦に巻き込まれクルクルと回転して抜け出せない。周りには滝に巻き込まれたネズミやリスや鹿がクルクルと回り続けている。

 

【ち】
地域対抗大運動会であるオリンピックは「参加することに意義がある」と言われている。しかし、メダルに使用されている金属の酸化されやすさは 銅>銀>金 であり、酸化されない程順位が高い。したがってオリンピックについては「酸化することに異議がある」が正確であろう。

 

【つ】
冷たい隙間風が吹き込む部屋。訪れる人もなく観測する人がいないので私は生存状態と死亡状態が重なりあったまま存在している。いつか誰かがこの部屋の扉を開け私を観測した時に私の状態が決定する。その時をただ部屋の中で待っている。食料も水もないこの部屋で、数ヶ月。

 

【て】
手のミイラを入手した。願い事を三つ叶えるという猿の手。放っておくと勝手に歩いてどこかに行ってしまうので手首輪と鎖をつける。朝晩には散歩をせがむ。餌は何をあげても食べない。自分で調達しているようだ。願いを三つ叶えるというので猿の手を生前の姿に戻してもらう。

 

【と】
止まらずに次の駅まで進む快速列車。今通過したのが終点だったような気がする。他の路線と開通したのだろうか。窓の外の風景は住宅地となり列車はもう線路の上を走っていない。砂浜を突っ切り海に飛び込んでも快速列車は止まらない。

 

【な】
なかなか始まらない映画を暗闇の中でじっと待つ。スクリーンが24分割され同じ映画が時間差で上映されはじめる。上映時間の24分の1を観賞すると全部観たことになるという理屈らしい。観客の入れ替わりが激しい。観客は同時に泣いたり笑ったりよもやよもや呟いたりと忙しい。

 

【に】
似ている何かがドアの隙間からこちらの様子を伺っている。何かに似ているのは確かだが、何に似ているのかはわからない。彼に背中を向けて反対側のドアの隙間から隣の部屋の様子を伺う。向こうでは何かに似ている何かがこちらに気がつかないフリをして背中を向けている

 

【ぬ】
盗まれた手紙が訪れ本来の受取人に渡してくれと依頼してきた。宛名も差出人も消されていたので中身を確認すると白紙だった。何も伝えたくない差出人と何も知りたくない受取人を探しに出かける。長い長い旅のあと手紙を自分の右ポケットから左ポケットに移し配達を終える。

 

【ね】
眠っている内に乗り過ごし知らない駅で降ろされる。駅舎の外は街灯が一本だけでその向こうは暗闇で何も見えない。待合室のベンチに座って何かを待つ。駅舎の裏の方から何かがクスクス笑っている声が聞こえてくる。駅舎が揺れ、線路の上を走り始める。

 

【の】
のんびりと野天風呂に浸かって紅葉を眺めていると、揺れた。湯面に小さなさざなみと大きな波紋が交差し紅葉が一斉に木から離れて舞い落ちる。風呂の底にひびが入ったのか湯が抜けてしまい全裸で紅葉を貼り付けて仮装した人になる。

 

【は】
端を歩いていると後ろからサラリーマンに突き飛ばされホームから転落した。目をあけると目の前を歩いている学生にぶつかっている。気がつくと前を歩いている二人がバランスを失い転ぶ。悲鳴に驚いてスマホから目をあげると線路に落ちた二人を見たOLが叫んでいる。

 

【ひ】
避雷針は自身に落雷させる為に存在するのではなく、上空の帯電をあらかじめ地面に流すことにより雷が発生しないようにしているんだ。僕は君の避雷針になりたい。という恋の告白がよく理解できず怒りのあまり雷を落とした。

 

【ひ】
姫のキスで呪いは解け王子は元の蛙の姿に戻り沼に帰ってしまいました。姫は魔女の薬を飲み蛙になり乾燥して倒れているところを王子さまに助けられました。姫は魔女に声を奪われたので鳴けません。二匹寄り添った蛙が一匹だけ鳴いているはそういう訳なのです。ケロケロケロ

 

【ふ】
ふと電車の中を見回すと乗客はみなマネキン人形だった。ひどく揺れて人形が倒れると車掌がやってきて引き起こす。駅では駅員がマネキンを抱えて電車に運び込み運び出す。誰もいない運転席をみていると車掌は私を抱き抱え運転席に座らせる。警笛が鳴り電車が動き出す。

 

【へ】
変だなと思って外を見ようとすると巨大な眼がこちらを見ている。カーテンを閉めると眼は移動して部屋の鏡の中にいる。鏡をテーブルに伏せると眼は扉のガラスやコップに次々と移動する。光るものをすべて始末したあと、私の眼の中から私の手足を見つめている眼に気がつく。

 

【ほ】
本当の事はわからないと投げやりに君は言う。それが本当かどうか確認することは難しいけど、君が全ての本当ではないことを確認してしまえば、あとは本当の事が残る。これは論理的に本当の事だから君が調べる必要はないよ。

 

【ま】
間取りが変わっている家。台所のドアを開き奥の脱衣所にて全裸になる。壁を押し開け玄関を通り風呂場へ。湯に浸かっても国道の中央分離帯で車が左右を走っている状態では気が休まらない。体を洗うために横断歩道を渡り隣町の公園に向かう。

 

【み】
みたらし団子は”見たら死”なのでみたらし団子を見たという人はいない。みたらし団子は目隠しをして作る必要がある。作る時、食べる時に形はわかるが、どんな色をしているのか誰もしらない。団子を、見た人はみだらな死をとげると言われている。

 

【む】
昔昔、お婆さんが川で洗濯していると川上から大きな桃が流れてきて中からお爺さんが出てきました。お爺さんは育ててくれた恩返しに鬼を退治したり熊と相撲をとったり無理難題を出して求婚者を追い払ったりしました。最後、お爺さんは月に帰ってしまったのでお婆さんは一人に戻りました。

 

【め】
面倒くさいけど汚れものは溜まる。お婆さんはまた川に洗濯にいきました。川上から大きな桃が流れてきましたが、お婆さんは拾おうとはしませんでした。また再び彼を失ってしまうような悲しい思いは二度としたくない。お婆さんは万感の思いを込めて流れていく桃を見送ります。

 

【も】
もう何も思いつかないくらいこの方法(※)で作文しているので、かえって目が冴えるのであった。ものもらい。森の中の人。モンタージュ。もしもし亀よ。森田公一とトップギャラン。モンダミン。漏れなく抽選で。喪服。藻が絡みつく。申し込み締め切りを過ぎて。
(※)眠れないときはなにか同じ文字で始まる単語を脈絡なく思い浮かべ続けると眠れる」という方法

 

【や】
休みの看板がでていたので昼飯は別の店に。飲食店は軒並み休業中。コンビニでパンを買って公園へ。公共の場所でマスクを外したとたんマスク自警団に囲まれ警告される。パンと牛乳をもったまま食べられる場所を探して街を彷徨い歩く

 

【ゆ】
ゆるやかな斜面を滑り落ち続ける家。この家で生まれ家とともに滑り落ちる私たち。嫁に行く事になり花嫁衣装で家を出る娘。ようやく斜面の終わりが見えてくる。家と共に崖に向かって滑り落ちる私たち。

 

【よ】
よく見ると鏡の中の顔に見覚えがない。知らない人が私と同じ表情でこちらを見返している。気のせいか歯磨きのリズムがちょっとずれているような気がする。鏡の向こうで歯磨きしている人の背中から手を入れて人形のように操っている人が見えるような気もする。

 

【ら】
ラムネがラッキーアイテムと朝のTVが言う。コップの中で泡が螺旋を描いて昇っていく。じっと眺めて日が暮れるころ泡は消えコップ表面の水滴も乾いてなくなる。生ぬるい砂糖水を眺める私が西日に照らされる。空のラムネ瓶を振るとカラカラと音がする。占いが当たったのかどうかはよくわからない

 

【り】
リンゴが一つテーブルの上。紙にスケッチしてみる。描かれたこの赤い、いびつな球体をリンゴと認めるのであれば、テーブルの上のリンゴからいびつな赤い球体を引き算したものは非リンゴとなるのであろうか。光を反射してリンゴの香りのする赤くない不定形のリンゴのようなもの。

 

【る】
留守番を頼まれ他人の家に一人で居るのは居心地が悪い。宅配便の荷物を受け取り部屋の隅に置く。呼び鈴が鳴り、次の荷物を受け取る。休み間もなく次から次に荷物が届き、その度にダンボール箱が積みあがっていく。部屋から荷物があふれ出し、玄関の外に締め出されても荷物を受け取り続ける。

 

【れ】
レンガの家はオオカミが体当たりしてもびくともしません。狼はあきらめて帰ってしまいました。ほっと一安心。子豚たちが家から出ようとするとレンガで塞いだ扉が重すぎてどうしても開きません。さあ今度は脱出ゲームの始まりです。とりあえず意味ありげに壁に飾ってある絵を調べてみましょう

 

【ろ】
廊下を歩くと教室から子供たちの声が聞こえる。窓から覗くと勢いよく手を挙げて答えようとする子供達が見える。次の教室は小テスト中なのか皆机に向かっている。別の教室は自習なのか皆思い思いに過ごしている。いくら歩いても廊下は終わらない。教室の生徒全員が一斉に顔を挙げてこちらを見る。

 

【わ】
ワニが出たというので公園に行ってみる。ブランコに顎を載せて揺れるワニがいた。シーソーで上下運動しているワニ。どうやって登ったのかジャングルジムのてっぺんで日向ぼっこしているワニ。公園全体が巨大なワニの背中にのっている。この世界を載せている巨大な亀がワニへと交代する日も近い。

 

【を】
ヲリハルコンの剣は大魔王の胸に深々と突き刺さる。動きが止まった大魔王に魔導士が禁断の呪文を唱える。虚空から猛スピードの3tトラックが現れ大魔王を跳ね飛ばす。勇者の最終奥義「事故を見たら写メは撮るが救急車は呼ばない」が炸裂し悪は滅びた。

 

【ん】
ンマの塩焼きとはサンマの代わりに岩塩を細長い形に削り粗塩をふりかけ炭火で焼いたもの。大根おろしとレモン汁を大量に振りかけるといずれ溶けてなくなってしまう。何も載っていない皿を眺めて絶滅してしまったサンマについて想いをはせる料理である。

 


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