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211.五十音 3 20220320

2019年11月10日―2020年11月14日 
@Nise_gatsu
 

【あ】
あっさりと世界が終わった。予想していたよりも

 

【い】いつものように座ろうとすると椅子が見当たらない。テーブルも消えている。椅子とテーブルが置かれているはずの床がない。居間を囲っている壁もない。そして私自身も見当たらない

 

【う】
後ろ向きに歩く。暗闇の中、目をつむりソロソロて踵を進める。次第に地面が柔らかくなりくるぶしまで埋まるようになる。光は一向に見えてこない。戻るかこのまま進むか迷い始める

 

【え】
絵本の中のお姫様はいつまでも幸せに暮らしましたとさ。固定された幸福に飽き飽きしたお姫様は夜中にこっそりとお城を抜け出し国民を殺害していきました。お姫様は幸せでしたが罪のない国民を手にかける時だけは不幸になる事ができました。

 

【お】
音速で歩く亀に、どうしてそんなにのろいのかと光速で進む兎がからかいました。二人は競争しましたが相対論によりうさぎの時間は止まってしまったため自分が亀に勝った事は宇宙が終わっても知ることはありませんでした

 

【か】
か弱き仔犬のひと鳴きが辛うじて保たれていた鉄塔のバランスを崩す。黒い鉄の棒の頂上は霞んでみえない。あまりにも高すぎるのでゆっくりゆっくりと傾きを増してくる。頂上が傾いていくスピードが音速を超えソニックブームが生じる。その爆発音を聞く人もいない。なおもゆっくりと傾き続ける。

 

【き】
金のオノですか?銀のオノですか?いえ、私が落としたのはどうしようもないOh! No!です。

 

【く】
蜘蛛は害虫を捕ってくれる益虫だから逃がしてあげなさいと言う母に、だって気持ち悪いんだもんと叩きつぶした事を今頃後悔している。人類が存続することのメリットを超越者に主張する国連演説が終わったわずかな静寂の後、どこからか、だって気持ち悪いんだもんと聞こえてきた。

 

【け】
煙とともに舞台上の魔術師は消え再び現れることはなかった。体を切断されたままの美女は仕方なく下半身に上半身を載せて生活をはじめる。しばらくすると半身で上下関係があるのは差別だと下半身が反抗し始めた。

 

【こ】
こちらからどうぞと書かれた標識のそばに描かれている扉。どうやって入れるのかしばらく眺めていると描かれた人が描かれた扉を開け描かれたヒトに迎え入れられ描かれた部屋に入っていった。描かれた存在になるにはどうしたらいいのだろうかと、描かれた猫を抱きかかえつつ考える。

 

【さ】
寒さに震えながら屋上の喫煙所でタバコを吸う。扉は消失したままなので階下へは戻れない。次の喫煙者が屋上に登って扉を開けた瞬間にいれかわりにもどるしかない。待っている間にすることもないのでタバコを吸う。なぜか何本吸ってもタバコは無くならない。

 

【し】
死んだと思ったら異世界に転生してた。この世界には存在しないスキルを発動して無双しようと思ったが、やたらと腹が減る。食べても食べても満腹にならない。気がつくと周囲の者も皆大食いになっている。これはひょっとして異世界転生ではなく、胃下垂伝染ではないのか?

 

【す】
隙間風がどこからか吹き込んでくる寒い部屋。風が強くが吹き込んでくるたびに壁の割れ目は少しずつ削られ拡がっていき、とうとう壁よりも隙間の方が大きくなってしまった。

 

【せ】
世界が終わってしまったので丘に登り終わってしまった街を眺める。終わってしまったなりに街は終わってしまった人たちの活気にあふれ、生き生きと終わってしまっている。

 

【そ】
空の一角に突然ヒビが入り、クチバシで突がつつく音とともに亀裂は広がっていく。ついには青空のカケラが卵の殻のように崩れ落ちる。今まで空だと思っていたものは大きな鳥の卵だったらしい。

 

【た】
確めたはずなのに自分の定期券が見当たらない。駅の入り口に定期入れが落ちていたので拾って改札を通る。定期券に書いてあった駅で降りて定期入れらの中に入っていた名刺の会社に出社する。適当に時間が過ぎたら免許証に書いてあった住所に帰宅する。知らない顔の家族達が暖かく迎えてくれる。

 

【ち】
力が欲しいか?忌まわしき供物を捧げた魔法陣が暗闇で光り禍禍しい存在が空間の裂け目の向こう側からささやく。俺に力をくれ!よかろう契約成立だ。眩い光が辺りに満ち気が遠くなりかける。恐る恐る目を開いた私の目の前に置かれているのは餅が載せられたウドン

 

【つ】
綱渡りのロープが切れ、僕は谷底に向かって落ちる。切れたロープは深い霧の向こうに引き込まれて見えなくなる。霧は僕の周囲を包み込んでいて何も見えず自分が落ちているのがよくわからない。落ちた先が川なのか海なのか岩なのか思い出せない。風の音だけが耳の側で轟々と鳴り続ける。

 

【と】
都との二重行政を解消するために港区は解体され5つの町となった。更に都と町との二重行政を解消するために町は解体され、都は国との二重行政を解消するために解体され、全ての住所は番地だけとなった。国と個人の二重意思決定を解消するために姓名は廃止されマイナンバーを名乗ることとなった。

 

【な】
中に何が入っているのかわからない箱。何かが入っていることはわかる。箱を振ってみるとガラガラと音がする。何が入っているんだろう。壁の向こうから声が聞こえ部屋が揺れる。僕はガラガラと音をたてて部屋を転がりまわる。

 

【に】
にわか雨が降ってきたので店に飛び込む。テーブルについて注文しようにもメニューがない。呼んでも店員はなかなか現れない。見回すと他のお客さんもいない。目の前のテーブルも消えた。なぜここがコーヒー屋だと思ったのだろう。外を見ようとすると窓がない。入り口もなくなる。店の照明が消える

 

【ぬ】
沼の女神が金の斧か銀の斧か聞く。現場に残された凶器の破片は金と銀でした。行方不明の凶器。あなたが犯人だ。「金の斧でも銀の斧でもありません。これから落とす金属ナトリウムの斧です」沼に放り込まれた斧が強烈な光と熱と共に大爆発を起こす。木こり殺害犯女神への復讐が終わった。

 

【ね】
粘土の身体は爆散したが頭部はかろうじて無事だった。かつて女神であったなにかは沼の底で復活の時を待つ。凶器の斧を木こりにおしつけて濡れ衣を着せる作戦は失敗した。しかし時間はある。ゆっくりと身体を再生させるのだ。しかし沼の水全部抜くというTV番組がこの沼に向かっている事は知らなか

 

【の】
のんびりと育てる予定だったのだが緊急事態の呼び出しがかかる。急いでかけつけるとすでに大気中に放射能が充満し、人類は滅亡しかけていた。この文明発生キットは難しいなあ。夏休みの宿題今からやり直して間に合うかなあ。

 

【は】
はやい時間帯の空いている電車。遊んでいる子供たちが吊革から首が抜けなくなったと騒いでいる。吊革のわっかの部分をひょいと裏返して首から抜いてあげる。ありがとうございましたと言って子供たちは窓ガラスをすり抜けて駅のホームに出ていく。

 

【ひ】
暇つぶしに素数を数える。9137になった頃、我こそは最大の素数であると名乗る人物が現れた。あまりにも自信満々だったので、すべての素数を掛け合わせた数に1を加えた数字は割り切れないので、君より大きい素数だよ。と教えてあげる。自称最大の素数と名乗る彼はロジハラだと泣き始める。
自称最大の素数が言うには彼は最小の素数2が好きなのだそうだ。小さくて可愛い。なにより最小なのがいいとのこと。最小の素数が2なのは定義の問題で、最小の素数を1とする体系もあるよと指摘すると、またロジハラだと恨めし気に睨みつけられる。

 

【ふ】
ふと気が付くとこの世から素数が消えてしまいすべての数が割り切れる数になってしまっていた。素数をいじめすぎたかなとちょっと反省。でもそれくらいで居なくなってしまうこともないじゃないかと、ちょっと割り切れない気分。

 

【へ】
減るのが早くなったのは誰か無断で使ってるのではないかと、夜寝たふりをして見張る。夜中にぼうと光ったかと思うと壁から髪の長い女性が現れて浴室のドアをすり抜けた。幽霊のくせに驚かせもせず他人のシャンプーで髪を洗っているとはけしからん。怖がらせようと後ろからそっと近づく。

 

【ほ】
本格的に振り出した雨はどんどん勢いを増し、とうとう地面から雲までの空間はすべて水で満たされてしまった。水槽となった街並みに泳ぐ魚たちを眺めながら水が引くのをのんびりと待っている。

 

【ま】
マリッジブルーだ!と一声叫んで試着室から飛び出した女性はウエディングドレスのまま機関銃を乱射した。よくあることですよ、とソファの陰に隠れる新郎をなぐさめる。

 

【み】
三日過ぎたがメロスは帰ってこない。親友をメロスの目の前で処刑しないと意味がないので残虐な王はもうしばらく待つことにした。セルヌンティウスは早く俺を殺せと叫んでいる。三年が経過したがメロスは戻らない。処刑の前に死んでしまっては意味がないので捕虜はあつくもてなされ今では肥満体に

 

【む】
蒸し返すようで悪いが、さっきから君の背後の暗がりで蠢いている触手は何なの?

 

【め】
目に見えることが全てではないという君と、この目で見るまでは何も信じられない僕。半透明な僕たちの関係。

 

【も】
もう終わりにしよう。別れを告げられた君は寂しそうに微笑んで、わかった。私の方も終わりにする。彼女が何処かに向かって合図すると遠くからラッパの鳴る音が響いてくる。空から赤い雹と火が降り地面一面にニガヨモギが生え始める。

 

【や】
や!?なんということだ。タイムマシンを完成させたら、中から時間旅行者が次から次に出てきて私が乗り込めないではないか。

 

【ら】
ラッパが吹き鳴らされたがハルマゲドンは一向に始まる様子がない。どうやら最終戦争はとっくに終了していて、ここは神に選ばれなかった人達の国だったらしい。

 

【わ】
私が手鏡を覗くとそこには貴方が写っていた。自分だと思っていた私は実は貴方で、鏡の中の貴方が見ているのは鏡を覗き込んでいる貴方で、鏡の外に私は存在しないし、鏡の中にはそもそも私は存在してなかった。そう呟く私を気にも留めず貴方は手鏡をバッグにしまう。

 

【ん】
ん?とね、すごく大きいお船が空から飛んできて中からタコさんが出てきてね、仲良く遊んだの。もっと遊びたいって言ったら、じゃあ一緒に行く代わりに小さなタコさんが私そっくりに変身して留守番するよ。だけどバレないようにって言われたので私は身代わりのタコじゃないよ、ママただいま。

 


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