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209.五十音(100字) 20220320

2019年1月25日−2019年2月17日
@Nise_gatsu #100字小説

 

【あ】
アアムレスリングで決着をつけよう。そう言って机に肘を置かれても彼の腕の長さは2mを超えているので手を握ることもできない。どうしたものか困っている間にも彼の手はどんどん伸び続け、天井を突き破りついには。

 

【い】
慰安旅行はインフルエンザの大流行で皆ドタキャン。現地集合したら私だけだとわかる。続行すべきか早々に帰宅すべきか迷う。駅からはどちらを見ても枯野しか見えず目的地がどこかもよくわからない。風が吹いてきた。

 

【う】
ヴァイキング形式の朝食と聞いていたが角がついた兜をかぶって他の船を襲ってぶんどる形式とは知らなかった。ロープを掴み奇声をあげながら獲物の船に飛び移り、剣を振り回しながらサンドイッチを頬張るのも楽しい。

 

【え】
エアギターを極めすぎて、ついには楽器を介さずに空気を振動させ音にすることができるようになった。これ振動数を高くしていけば熱とか発生して新エネルギーになるかもと調子にのって振動数を高くしすぎて。光あれ。

 

【お】
おあつらえ向きに穴があったので死体を放り込む。深い森の中で穴に土を放り込んでいくと全部埋まったころには新しい穴ができあがっていた。なるほどこういう仕組みか。顔も知らぬ人同士の助け合い精神というものだ。

 

【か】
母さんと出合った頃の父さんは、相転移前で素粒子も存在しないビックバン直後の時空だった。勢いだけは誰にも負けてなかったわ。意思の疎通もままならなかったけど愛の力で乗り越えたのと、暗黒物質の母はのろけた。

 

【き】
気圧計の水銀柱が下がりきったところで玄関を開けて台風が訪問してきた。どうもすいませんね、こんな局地的で。でも自然現象だから自分では決められなくてねえ。では暴風と大雨と雷とどれがいい?全部やっとこうか?

 

【く】
具合が悪いので横になっていると、部屋がどうも調子が悪くて熱があると言って横になってしまった。部屋自体が横になってしまったので横になっていた私は縦になってしまう。これでは私の身体が休まらないではないか。

 

【け】
蹴上られたサッカーボールは、守備陣とゴールの間の絶妙な位置に落下するはず。敵の守備をかいくぐって落下予測地点にダッシュ。そうはさせじと一斉に迫ってくる敵陣。ボールはまだ落ちてこない。そろそろ三年経過。

 

【こ】
小悪魔気取りで露出の多い衣装と綺麗な靴に濃い化粧。男の気持ちを手玉にとろうと流し目で思わせぶりにささやいてみたりするけど君に小悪魔は似合わない。だって君は冥界の魔王ルシフェルなのだから。硫黄くさいし。

 

【さ】
サーカスが街にやってくる。空き地に大きな柱が立った。設営途中の灰色のテントの中から猛獣の鳴き声や空中ブランコの掛け声が聞こえてくる。テントの設営は進まず、開催される前にサーカスは次の街へ移動していく。

 

【し】
試合開始後、即勝負がついた。王者の一手はあまりにも速く、挑戦者はなすすべもなかった。その一手はあまりにも速すぎて光速を超え、相対論に従い過去に移動した。競技が発明される前の時代で彼は途方にくれている。

 

【す】
素足なら靴をはいてないのに、生足なら履いている不思議。そう言って君は裸足で出社する。案の定上司に叱られて、泣きながら靴を買いにいく。ブランド物にするからお金がたりない。まさしく、足が出るとはこの事だ。

 

【せ】
背脂が山盛りで麺が見えない。いくらなんでも多すぎる。お客さんの体脂肪率に合わせました。食べ進むと天井から首筋に油がしたたる。脂身のような床に靴がくるぶしまでめり込む。体が脂と化して店と一体化していく。

 

【そ】
粗悪品だから交換してくれと言ったら、拝見いたします、なるほど粗悪ですね、交換いたしますと、商品ではなく私が交換されてしまった。優良な私は商品と共に帰ってしまい、粗悪な私は買い手が現れるのを待っている。

 

【た】
ダアツを地球儀に投げて刺さった場所に訪問ゲーム。手元が狂って隣の月球儀に命中しちゃった。いまから宇宙飛行士に応募するのも大変だから月を地球に落としてみる。これなら月のどの場所でも簡単に歩いていけるわ。

 

【つ】
ツアーはいつの間にか始まっている。ガイドの案内に感心したふりをしてうなずいたり景色を見たりバスに揺られたり古い建物を探訪したり繰り返す。土産の荷物は増える一方だがツアーが何処にくのか誰も知らない。

 

【て】
出会いは平凡で何となく付き合ってそろそろかと結婚して幸せといえば幸せなんだけど、我儘言えば余りにも平穏なのが不満ね。というので人間の皮を脱いで正体を見せたら悲鳴を上げて逃げだすというのは納得いかない。

 

【と】
投網の先端の鉛の錘達が幾つもの放物線を描いて飛んでいく。縦線と横線で構成された曲面が頭上の空を覆う。狙われた獲物は一歩も動けず網に絡められ引きずられていく。街は住民ごと持ち去られ地上から永遠に消える。

 

【な】
ナースだから病気の人を見ると放っておけないの。そういって彼女はゾンビの治療をやめない。治療して全快したとしても既に死んでいるのでないかという忠告も耳に入らないようだ。診察持ちのゾンビの列が病院を一周。

 

【に】
荷揚げされた巨人が四角に梱包されたまま運ばれるのを待っている。配達終了までは動いてはいけないという契約なので退屈だ。港の大半を自分一人で占拠しているのは申し訳ない。でも俺のせいではないよと巨人は呟く。

 

【ぬ】
沼灰汁(ぬあく)は慢堂山中腹の慢堂沼の岸辺に生える万銅呉羅を火打ち石にて興した火にて灰にしたものを日の出前に汲みし沼の水に沈め三日静置した上澄みである。大抵の場合万銅呉羅を引き抜く時の悲鳴にて死ぬので作れない。

 

【の】
ノアはお告げに従い方舟を作る。あまりにも巨大な方舟は天に届くかと噂された。その所業は神の怒りに触れ、雷により方舟は破壊され、人々の話す言葉はお互いに通じ合わないものとなってしまった。その後洪水で絶滅。

 

【は】
婆さんが包丁を持って追いかけてくる。理由はわからない。必死に走ってやっと姿が見えなくなる。四つ角の先に居たような気がして右に曲がる。居る。引き返しても居る。どう進んでも、居る。全ての道は老婆に通ず。

 

【ひ】
干上がった沼の底から白骨が発見され、遺留品から人物が特定された。連絡すると骨の引き取りに本人がやってきた。これが私の骨ですか。そこに沈んでいたのですね。と骨があった場所に横たわる。また雨が降り始める。

 

【ふ】
不安がおさまらないので夜の散歩。人影のない住宅街の静かな空気に、不安が少しずつ溶け出していく。ちょっとだけ心が楽になる。街灯の下にたたずむ人が語りかけてくる。あなたが落とした不安はこの金の不安ですか?

 

【へ】
ヘアピンカーブが猛スピードで迫ってくる。花咲く森の道。カーブの言う事にゃ、お嬢さんお逃げなさい。スタコラ。ところが後からついてくる。トコトコ。お嬢さん落し物。白い排煙と制限速度を大幅に超えたスピード。

 

【ほ】
保安官は街から出て行けと言う。賞金首の俺は無言で笑う。去る気がないと判断した保安官は、逆に俺を残して去ることにした。保安官と保安官事務所と酒場と広場と家と。そして街全体が去った荒野に俺だけが残された。

 

【ま】
真新しい靴を履いて探偵事務所に訪れるとはうかつだったな。アリバイが破綻する危険をおかしてまで靴を履き替えなければいけなかった理由、それは床に流れた被害者の血が靴に付着したためだ。証拠?後ろで見てたし。

 

【み】
見当たらない。箱の中には生死どちらかに収束した猫がいるはずだが。ニャア。部屋の隅から鳴き声が聞こえる。なんだ箱から逃げ出していたのか。まてよ観測によって収束せず発散という可能性は?別の隅から鳴き声が。

 

【む】
無圧布団というから快適な睡眠が得られるかと思ったら、横になった途端に掛布団と敷布団の間の空気が無圧すなわち真空状態に。おかげで血液が沸騰するところだった。あんまり驚いたせいか朝食を食べる気にならない。

 

【め】
メアドの交換って、君と僕のメアドを入れ替えるってことなの?OKしなけりゃよかった。さっきから君へのメールが僕のスマホに届いて困る。読んだらまずいでしょ?特にCIAやKGBからのメールはどうすればいい?

 

【も】
モア:体高3m超の大型の鳥。18世紀に絶滅が確認。
ケープライオン:19世紀に絶滅が確認された。
ニホンオオカミ:20世紀に絶滅が確認された。
ヒト:遅くとも21世紀に絶滅が確認されることが予定されている。

 

【や】
やあ遅かったな。約束していたのすっかり忘れてたんだろう?それとも単なる寝坊かな?あんまり遅いから待ちきれなくて人類はとっくに滅亡しちゃったよ。どうする?これから最後の審判やる?裁かれる人がいないけど。

 

【ゆ】
湯上りに冷蔵庫の扉を開けると、向こう側から扉を開けた私が私を見ている。そのままゆっくりと扉をしめる。冷蔵庫は買い換える事にした。向こう側の私は冷蔵庫とともに廃棄され、私は向こう側の世界から廃棄された。

 

【よ】
夜明け前に起きた。二度寝しようとすると布団がない。寝相が悪くて蹴ったのかと明かりを探す。壁のスイッチがみつからない。その前に、壁に行きあたらない。暗闇の中さまよい歩く。床を踏んでいるのか感触も怪しい。

 

【ら】
ラー油。隣のテーブルのOLがラーメンに振りかけ続けている。私の注文が届いた頃、ラー油は二本目に。私が食べ終わる頃、やっとOLの腕の振りがおさまる。茶を飲んで店を出る頃、彼女は胡椒を振りかけ始めていた。

 

【り】
リアス式海岸は山のふもとが海なのでドングリはお池ではなくお海にハマってさあ大変。鯛やヒラメが出てきてこんにちは。竜宮城で遊びましょう。お山に帰ったどんぐりが玉手箱を開けると樹齢百年に。特に問題はない。

 

【る】
ルアーは魚が食いつけばよく、実物の魚そっくりである必要はない。萌え絵は実物と大幅に異なるが人を引きつける。萌え絵に惹かれた人達は、ルアーのように釣り上げられるのでは。なんか最近街から人が減ってないか?

 

【れ】
レアな掘り出し物があるから手伝ってというのでついていったら、山奥の森で土の中から掘り出すのを手伝わされた。出てきたのは珍しいと言えば珍しい物なんだろうけど、なんでこんなに次から次へと人骨が出てくるの?

 

【ろ】
露悪趣味って諸悪の根源はロシアという意味じゃないんだけど。悪阻は悪を阻止するんじゃないし、悪行は二ページ目に一行だけ印刷されがちなEXCELの仕様の事ではないよ。悪党は悪の政党の事じゃないんだってば!

 

【わ】
わあわあ泣いている子供がいた。人形を抱いている。迷子のようだ。なだめながらしばらく待ってみても保護者は 現れない。交番に連れていくことにした。道に迷ってたどり着けない。子供を抱いてわあわあ泣いてしまう。

 

【を】
を新しいものに代えようと思うの、いいかしら?あ、ごめん聞いてなかった。でも君の好きなようにしていいんじゃないかな?貴方のそういうところが嫌なのよ。ナイフが振りかざされる。新しい夫に代える話だったのか。

 

【ん】
ンアウト。打ちあげたフライがキャッチされた。大歓声で審判の声が聞こえない。ツーアウト。二塁に送球。スリーアウト。一塁に送球。フォーアウト。投手に殴りかかる。ファイブアウト。隠し持った刃物が発見される。

 


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