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208.スケジュール帳より 20200305

スケジュール帳に書いてあった予定をお送りします。

【か】 か弱い仔犬の一鳴きによりかろうじて保たれていたバランスが崩れ高い高い支柱が ゆっくりと傾き始める。支柱はどれほどの高さなのか誰も知らない。傾くにつれ先端 のスピードは増しついには音速を超える。雲のはるか上の天上から響く爆発音を聞く 地上の人間は誰もいない。さらに支柱は傾きを増していく。

【は】ハンマーが振り下ろされるところで目が覚める。台所で水を一杯飲む。同じ夢 を何度も見るのはつらい。ベッドにもぐりこみ目をつむるとベッドが揺れる。目をあ けると振り下ろされるハンマーが見える。眠る前に夢を見るのは初めてだ。無事に夢 から覚めることができるのだろうか。

【へ】 返事がない。ただのしかばねのようだ。としかばねはつぶやき去っていった。私の言 葉は死者には届かないようだ。

【ふ】 古い掛け時計の長針は外れ、短針は動いていない。世界の時間が止まっているので時 計が指し示す時刻は正確なままである。

【え】 駅ビルの外側には様々な店舗がの入り口が並び客を引き込もうとしているがビル自体 の入り口が見当たらない。客のふりをして喫茶店に入りテーブルと壁の隙間からビル の中に入り込む。無人のエスカレータを昇り無暗に広い踊り場を抜けると客のいない 書店にたどり着ける。

【じ】 自動販売機にお金を投入したあと、どれにするか長い間決めかねていると販売機に並 んでいる缶コーヒーの見本達が待ちきれずに踊り始める。一緒になって踊っていると いつの間にか自分の見本となって販売機の内側に並べられている。誰かに買われるの を待っている。

【ひ】引き潮の砂浜に取り残された人魚は私に気がつき、海に戻ろうか陸にあがって 声を失うことになろうか迷っている。

【も】森に囲まれたお菓子の家には魔女が住んでいてお菓子を作っている。お菓子で できたテーブルの上にはお菓子でできた森に囲まれたお菓子の家があり、中にはお菓 子でできた魔女が住んでいて、お菓子でできたヘンデルとグレーテルが捕らえられて いる。

【ね】猫を起こさないようにそっと歩く。猫の眠りを妨げる者は風になってしまう と、これは祖母の教え。目を覚ました猫は私の顔をじっと見つめる。私の体は次第に 軽く透明に変わっていく。猫は風に語り掛ける。

【ゆ】勇者は暗黒の魔王を倒したが悪の本体は魔王ではなく自らの意思を持った呪文 であった。勇者の命と引き換えに呪文は分断され世界中に散った。いまではそれぞれ の呪文の断片が太古一つの呪文であったことは思い出すこともなく、断片同士で覇権 を争っている。

【あ】雨上がりに虹を追い求め、やがて地面から虹が生えている場所にたどり着く。 掘っていくと固い岩にたどり着く。つるはしを打ち下ろし岩を割ると虹の卵が見つ かった。虹の卵を孵化させると虹の子供が光をお供にして空に帰っていき戻ってこな い。地上は暗闇に覆われる。


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