一覧  トップ


207.突発性オレオレ詐欺 20181009

日記(041101)を再構成

 暗く乾いた場所での講習会が終了した。出口のところでタバコを吸い終わって、さあ帰ろうとしたところで、柱にもたれて立っている後輩を見つける。声を掛けると「目眩と吐き気がして動けない」とのこと。しばらく様子を見ていたが一向に回復しない。ロビー受付の男性に後輩をしばらく横にならせてもらえないか頼んでみる。

「あいにくですがそのような場所はございません。申し訳ございませんが」無表情に答える。後輩が吐きそうだというので洗面器のようなものはないか尋ねてみる。

「残念ですが、そのようなものは置いてございません。申し訳ございませんが」特に心苦しい様子のかけらも見せずに答える。では不要なダンボール箱のようなものはないでしょうか。このままでは床に吐いてしまいます。

「ございません。申し訳ございませんが」

後輩が座り込んでしまったので近所に病院がないか聞いてみる。

「それならば」満面の笑みである。自分の責任ではなくなったからであろう。「この講習会会場の裏手に内科の医院がございます。申し訳ございませんがご案内はいたしかねますが」

いいよ、君には何にも期待していないから。

病院を探しに行く。時間外で閉まっている小さな内科の医院のインターフォンを鳴らしてみる。二階の窓から爺さんが顔を出す。

「どうしましたか」

「あ、すいません。連れが目眩がして動けないというものですから、診ていただけませんか?」

「は?」

耳に手のひらをかざしている。どうやら耳が遠いようだ。

「ですから、連れが、目眩と、吐き気がして、歩けない、というものですから、診て、いただけませんか」

「は?」

これは埒があかないと思い、「どうもありがとうございました」と言って立ち去ろうとする。

「目眩というなら耳鼻科だな。私は内科だからよくわからないわ。私が診てもいいが、よくわからないところで無駄に診て手遅れになっても困るから、救急車を呼んだほうがよかろう」

なんだ聞こえているじゃないか。

「じゃあ、そうします。ありがとうございました」

「待て、私も行く」

何しに来るんだよ。しょうがないから後輩が座り込んでいる所まで爺を連れて行く。

「うむ、受け答えもしっかりしているし、どうやら脳は大丈夫のようだな。すると硬膜外出血の可能性がある。しかし、私は内科だからよくわからないわ。私が診てもいいが、よくわからないところで無駄に診て手遅れになっても困るから、救急車を呼んだほうがいい」

お前は何しに来たんだ。

しょうがないので救急車を呼んでもらう。受付の男と爺にお礼を言って乗り込む。目眩ということであれば耳鼻科という事らしく、時間外の救急で耳鼻科があるところを探してもらうが、三軒ほど断られる。ようやく受入先が見つかったのでサイレンを鳴らしながら爆走。疾走する救急車が赤信号を突っ切っると、その先は車の列が無いのでやたら気持ちいい。この調子で都内を横断する。暴走族の信号無視の爆走ってこんな感じなのかな。こりゃ止められないはずだ。到着した大病院でとりあえず診てもらうと、「たいしたことはないので明日検査受けてもらうということで、今日は帰ってもいいよ」と言われる。なにしろ後輩は目眩がひどくて一歩も歩けない状態なのでとりあえず入院ということにしてもらう。

家族に連絡してあげないと、ということで携帯をもって病院の入り口までいく。間が悪いことに留守電である。

「もしもし、ご主人の会社の同僚に半茶と申しますが、じつはこれこれこういう訳でご主人が入院となりました。場所は○○病院で、電話番号は…」

いきなり電話が切れた。やれやれもう一回電話を掛けて、続きを留守電に入れなくちゃいけないのか。今度はいきなり奥様がでてくる。

「もしもし、半茶と申しますが、そういうわけでご主人が…」

「どなたですか」

と冷たい声。

「あれ? 今、留守電に入れておいたのですが」

「子供が途中でとったので消えてしまいました」

オレオレ詐欺かと思われたらしい。しょうがないので最初から説明のやり直し。

「……いう訳でご主人が入院となりました。場所は○○病院で、電話番号は」

いきなり電波状況が悪くなって通話が切れる。携帯ではまずいのかと思い、公衆電話を探して掛けなおす。話し中。次、何回呼び出し音が鳴っても出ない。次、話し中。次、何回呼び出し音が鳴っても出ない。次、話し中。次、何回呼び出し音が鳴っても出ない。次、話し中。次、何回呼び出し音が鳴っても出ない。次、話し中。次、何回呼び出し音が鳴っても出ない。次、話し中。次、何回呼び出し音が鳴っても出ない。次、話し中。次、何回呼び出し音が鳴っても出ない。次、話し中。次、何回呼び出し音が鳴っても出ない。次、話し中。いったいこの家の電話はどうなっているのだ。連絡をとりあえず諦めて病室に帰る。看護婦さんに聞くと、奥様から病院に問い合わせがあったらしい。だから電話が繋がらなかったのか。なんだかやっぱりオレオレ詐欺扱いされたような気がしてならない。後輩のお世話をして詐欺扱いかよ。

 入院が決まったので付き添いとしては特にやることもなくなり帰ることにする。じゃあ、お大事に。さて、救急車で運び込まれたので、最寄の駅がどこだかわからない。その前にこの大病院の出口がわからない。極度の方向音痴である私が、家に帰り着くまでには波乱万丈の物語があるのだが、それはまた別の話である。


     一覧  トップ