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187. 無理数 20141116


 

無理数

無理数(irrational number:理性のない数) マルコの福音書(Mark 5)

 ヒッパソスは無理数が存在することを公言したために、ピタゴラス教団の教義「すべての数は有理数で表される」に反する者とされ、教団から追放されたという。追放されたのち、教団メンバーから殺されたとも外国を放浪したとも伝えられている。

 ヒッパソス一行が村に到着すると墓場から有理数に取りつかれた男が飛び出してきた。

 「お前は何のためにここに来た。村を立ち去るがよい」

 ヒッパソスは男の中に巣食う有理数に向かって言った。

「この男から早く立ち去るがよかろう」

 有理数に取りつかれた男は休むことなく周りの物に分数が割り切れるならまだしも循環小数となった場合には終わることなく繰り返す数字を書きつけ、そのあまりの激しさに家具は折れ、壁には穴が開き、天井は落ち、家ごと地割れに落ち込み、畑は数で満ち、川は数字でせき止められ、作物が育つことはなかった。

 衣服が数でボロボロになった彼は、己の腕や足に小数点以下無限に循環する数字を書き連ね続けていた。

 村人たちは彼の手足を取り押さえようとしたが、鎖はあっという間に無限大記号∞の数字と化し足枷はゼロ0と数字と化したため、彼を取り押さえることができなかった。

 ヒッパソスが「汝の名は」と問うと男は「わが名はレギオン、数多き故なり」と答えた。

 ヒッパソスは山に豚の大群が飼われており、その豚は無理数に取りつかれていることを知り、男に言った。

「そんなに数が大きいのなら、無理数と一対一対応ができるだろう」

 男は自分にとりついた数を一つ一つ無理数と対応させることをはじめた。

 カントールの対角線論法により無理数の濃度は有理数より濃いことが証明されており、男にとりついた有理数の対応がすべて終了しても無理数の大群は無限に残っていた。

 無理数の大群は暴走を始め、有理数もろとも湖に飛び込んで溺死してしまった。

 男は驚き「このような解が得られるとわかっていたのか」と聞いた。

ヒッパソスは「求めよ、さらば解を与えられん」と言った。

 豚の暴走の見物から戻ってきた人々は、男が服を着ておとなしく座っていることに驚いた。

 ヒッパソスが村から去ろうとしていることを知り、男は連れて行ってもらおうとお願いした。ヒッパソスは男に、村に残りヒッパソスが行ったことを言い伝えるように命じた。

 ヒッパソスにより男は豚の行列の計算を教えられたのであるが、数IIIをマスターするには行列だけではなく、更に微積分を学ぶ必要があった。男が微積分についても教えてもらおうとお願いすると、ヒッパソスは答えた。

「行列はまだしも、微積分は教えられるのを待つ気持ちでは決して自分の身につかない。特に微分はそうである。昔から言うではないか」

 ヒッパソスは言った。

「微分のことは微分でしなさい」と。


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