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185. 奇遇 20141114


 

 奇数と偶数は常に隣同士に暮らす運命に生まれついたのであったが、近くにいるからこそかえってお互いに相容れない部分がかあると感じていた。

 偶数はもっぱら割り切った関係を好む傾向にあり、その関係性の希薄さに奇数は割り切れない気持ちを抱いていた。

 いつしか奇数と偶数は近くにいるのにもかかわらず、お互いに目をそらしあい、あたかも相手が存在しないかのように振る舞うようになってしまった。その結果、彼らの世界は半分になってしまったのだが、自然数は無限に(少なくとも5x1079個は)存在していたので実質上は無限であり、変化がないこととなり、彼らの生活には特に支障をきたすことはなかった。

 ずいぶん長いことそうやっていたので、日常の生活では、お互いが目に入ったとしても無意識に目をそらし、顔をそむけ、自分の意識に相手がのぼらないようにすることに慣れてしまった。

 たまに旅先で気を抜いたときなどに、道でばったりと奇数と偶数が出会うことがある。このような可能性は0ではあるのだが、なにしろ奇数および偶数の数は無限であるから、0x無限大でその期待値は予測不能である。

 目をそらせる暇もなく相手の顔を認識してしまうと、奇数と偶数はお互いに非常にうろたえてしまう。なにを喋ればいいのか、いまさら見なかったことにする事も出来ない気恥ずかしさに、つい挨拶してしまう。

「奇遇だね」

 しかしながら偶数のぐうと奇遇のぐうは、漢字が異なる事に気がつき、もうばつが悪いやら、恥ずかしいやらで、それ以上言葉を発することが出来なくなる。それから「ぐうの音もでない」と言われるようになったそうじゃ。

   普段、偶数は奇数のいない世界に暮らしている。そのことについて、多くの偶数は割り切っていたが、しかしながら割り切った結果、最後には奇数となってしまう偶数もいた。奇数となってしまったのでは偶数の世界にでは暮らしていけない。そのようなはぐれ奇数は山に捨てられることとなった。

 山で暮らす奇数は熊と遊んでくらしたが、偶数の世界から追放された恨みをはらすべく、山に迷い込んできた罪のない数たちを追いかけ、夜は大麻(ハッシッシ)などの麻薬を吸って過ごした。彼らは長じてはその技能を生かして暗殺者となっていったという。

 彼らについてはこのような歌が現在に伝わっている。

奇数太郎

アサシンが山の奇数太郎

熊にマンハント、狩り

追う間の傾向

 

ハッシッシ 等々 ハッシ 等々

ハッシッシ 等々 ハッシ 等々


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