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182. 闇の1 20141110


 

21 闇の1

  さて、今までご説明したきたとおりすべてが闇に閉ざされたも同然となった世界をまた一から立ち上げ直さねばならなくなった。

 立ち上げる理由を問うことは不毛である。立ち上げない場合には、世界は闇に閉ざされてたままなので質問者も回答者も闇のままで質問が発せられない。質問が可能となっているのであるから、すでに立ち上げることに決まっているのである。逆に理由を問われることが可能となるために、世界を立ち上げるのだと回答しても間違いではない。

 一から立ち上げようとしても、前述のように既に世界は無数の1で満たされているため、余分な1が一つ増えるだけで、その1は1と区別をつけようもなく、世界はかわらず、したがって立ち上がらない。

 一から始めるためには既に存在している無数の1と異なる1を準備する必要があり、すなわちそれは1ではないので、世界を一から立ち上げなおすことは不可能であると言える。 したがって一から始めるのではなく、現在の世界の延長上に世界を発展させる手法をとらざるを得ない。

 とりあえず足元に転がっている1を拾い上げ、他の1と掛け合わせてみると即座に一つの1となった。では加算してみよう。地面に転がった1の上に慎重に1を載せてみる。うまくいけば1と1が加えられ他の数字が出てくるぞ。期待して見ていると、1と1は融合した瞬間に一つの1となった。

 あれまあ、合わさったら全体で1つというわけか、集合論だな。この現象は姿を消した空集合φが陰で糸を引いているのに違いない。

 さきほど拾った1を再び別の1の上に置いてみる。1同志が融合して一つの集合となろうとする寸前に引きはがすと片方は1、片方は空集合となった。この作業を繰り返し、いくつもの空集合を作成する。空集合が積み上がり、空集合の集合ができてくる。空集合の集合は要素として空集合をもつため集合論的には空集合ではない。

 かくしてこの世には1でもなく空集合でもないものが生まれ出で、1のみに満たされた区別のつかない平坦な世界であることをやめ、世界は再び動き始めるようになったのであった。


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