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175. 13(悲劇) 20141102


 

175. 13(悲劇) 20141102

 周囲に調和をもたらした基数12の弟として生まれた13は、外見は兄とはよく似ているにも関わらず割ろうにも割れず、周りの者を困らせた。周りの者は彼の取り扱いに困ったあげく忌み数としてしまった。

 13自身は周りからの冷たい視線を気にすることなく、物心ついてから今まで天真爛漫に人を疑うということを知らない数として育った。過去形で言うのはおかしいな。知らない。日本語に現在完了未来進行形がないのがもどかしい。周囲の者は呪われた数字という視線を注ぎ、故もなく彼を恐れていたが、本人にしてみればずっとそういう状況であり、それが自然であり、彼自身が他に対して与えることがあっても、周りから見返りがないのは世界というものはそういうものであると思っていたのである。13は素数であるから他から約数を受け取ることはなく、他の数字の因数として使われるばかりであった。

 のんきな13は特に気にすることもなく、かといってさしたる理由もなく兄の側に居ることが好きであった。12は13を嫌いではなく、13と公約数を共有したいのは山々であったが、それができず周囲を円滑に分割することが自分の使命であると感じている12にとっては、13が側に居ることがストレスであった。  兄の12は長兄の11が行方不明となってから様子が少しずつおかしくなっていく。他の数字がみていない場所で、自分を5や7で割ろうとして自分を傷つけ割れない故に我なしなどと呟いては高笑いしていた。13も兄の様子がおかしいことには気がついていた。しかし彼がそれとなく12に何かしてあげようと話しかけても、12はその周囲への気配りの高さを発揮して話をそらし、だだ13の顔を見つめるだけであった。

 12の様子がおかしいという噂が広がるにつれ、その原因は呪われた13が側にいるせいだとささやかれた。13の耳に入るまでになったが、本人は噂自体をばかばかしいものだと思っていた。数字自体に意味がないことは自明であり、かといってそれを信じている数達の迷信をとこうとするのも彼らと同じ土俵に登るような気がして、第一自分が呪われていないなどということをどういう風に納得させられるというのだ。仮に納得させたとしても現状と何が違うというのだと考えた結果、13自身は何も行動をおこさず放置することとした。これが悲劇の原因の一つであった。

 呪いが存在すると信じる者がある限り、その呪いは次第にその重量を増し続けていった。12がその姿を消した夜、呪いの重さに耐えられなくなった数達が集まって13の家に押し掛けていった。

 呪われた13を自然数界から排除しようと群衆が13に殺到してきたときも13は冷静であったと言われている。皆は、12を消したのは13自身であるという言いがかりや、12は13からの許されぬ恋心に耐えきれず姿を消したのだという邪推や、金曜日と13を引き離せなどと口々に違う理由をもって13を断罪しようとした。13は冷静に一つ一つ誤解であると話しかけたが群衆は聞く耳を持たず、13は家から引きずり出され広場で処刑され遺体は海に流された。処刑直前であっても13は終始冷静であったと言われている。

「たとえ私が処刑されたとしても、数字が一つ減るだけのことである。自然数は無限に存在するから自然数の総量は変わらない。であるならばここで私が荒れ狂う彼らを説得して私が呪われた存在でないことを納得させ生きながらえたとしても、自分が八つ裂きにされ消えてしまっても、自然数全体という観点からな何の違いもない」

 13を密かに助けようとして彼に近づいていった11と17に対して、13は処刑前にそう語って助けを拒んだという。

 処刑のあと、呪いを信じていたものたちは安心できず、かえって13の不在が心にのしかかってくることに気がついた。その不在によって反13の数達は次々に気がふれていったという。聡明な彼らであっても不在を処刑する方法は思いつけなかったからである。

(終わり)
 


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