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164. 須臾ビルヂィング 50F 20130506


 雨はやまない。ふと窓の外をみると、窓ガラスに水面が。高層階なのに。

 水面の向こうには島のように、いくつもビルが水面から生えているのが見える。水面を叩く雨眺めているうちに、フロアカーペットからじわじわ水が染み出してくる。天井の換気口から水が滴り落ちている。窓ガラスの水面は徐々に上昇し、このフロアはすっかり水面下になる。窓ガラスの向こうに泳いでいる人がこちらを見ている。目が合う。しばらくすると目をそらす。

 窓の外では、ビルが帆船のように水面を滑走している。

 勤務時間が終了する。地上の道は水没して歩けないので、地下道を通って帰宅する。

 ビル同士は地下通路で繋がっているが、年中工事中のため、その全貌は明らかではない。飲食店が多く店舗を構えているが、地下深くなるほど得体の知れない店だらけになる。

 美食、珍味を求めて地下にもぐっていくグルメ達は多いが、無事帰還できない人も多いとの噂がある。注文の多い料理店方式の店もあるらしい。

 次の日は晴天。ビルの周りの水はすっかり引いているが、夜の間にビルの内部に充満した水はまだ抜けきらない。非常階段を泳ぎつつ上層階のオフィスに向かう。

 机に座って外を眺めていると、窓ガラスが波打ちゼラチンのように向こう側がぼやけはじめ、夕方までには目の前の高層ビルが地面に沈みはじめる。

 帰宅することをあきらめた社員たちがロッカーから寝袋を引っ張り出す。


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