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158. 須臾ビルヂィング 4095F 20130430


 当初は些細な行き違いであったといわれている。よくあるゴミ処理場からの悪臭とか、断りなく開始された工事がうるさいとかの類であろう。一旦発生した上下フロア間の対立は徐々に激化し、フロア管理者間の調整・努力も空しくフロア住民間の紛争が勃発することになる。

 フロア間を繋ぐ非常階段扉が通行できないようにバリケードが設置されたことからはじまる。上の階の住民が侵入できないように粗大ゴミが扉の開閉の邪魔になるように放置された。それに伴い自分達もフロアから外に移動することもできなくなったが、反対者は愛フロア者同盟により弾圧され、異論は排除された。したがって、その行動は次第に過激なものとなっていくことになる。

 非常階段に放置されるのは当初粗大ゴミであったが、次第に普通ゴミ、生ゴミ、粉塵なども追加され、その悪臭により自分のフロアの住民も近寄らなくなった結果、非常階段付近はスラム化していった。スラムに住む貧困フロア民は次第に同じフロアの住民から疎んじられるようになり、同一フロア間における抗争も発生するようになった。これと平行して、上のフロアにおいては悪臭攻撃に対抗すべく、強力ファンによる送風、消毒液散布、殺虫剤散布などが実行されたが、スラム住民に対する健康被害が発生し人権問題となったことからゴミの処分は棚上げされることとなった。これに不満を抱いた改革派は下の階から非常階段にあふれ出るゴミを処分するために、人口密度が低いフロア部を探し出し、密かにフロア床に穴をあける工事を開始した。あふれ出るゴミをその穴から下のフロアに放り込み処分するテロ行為である。その穴が完全に開く前にフロア部が陥没し、周囲の什器もろとも下のフロアに落ちることになったのは、無分別の計画の賜物である。不幸な事というのは人口密度の低い部屋というのはフロアのサーバー管理室であったことである。サーバー機能の停止に伴い、上階のほとんどの機能は麻痺し、照明、電気、水道等のライフラインは全て停止した。フロア床の陥没であることから復旧は困難であると判断され、フロア住民は上の階をめざして移住することになる。しかしながら、これをいさぎよしとしない住民はフロアにとどまり、惨劇の原因である下のフロアに対して強い怨恨を抱くことなった。少数の住民は非常階段からゴミを採取し、穴に運んで放り込む作業が続けられたが、その意図は忘れ去られてほとんど宗教的儀式と化したものとなる。

 下のフロアでは突然天井に大穴があき、大量のサーバーが降ってきた上に、断裂した水道管から降り注ぐ水により大量の死傷者が出た。この災害はほとんど天災並みである。更に水の流れはとどまらず下の階が水で満たされることとなった。洪水から避難しようとした住民は少数を除き避難が間に合わず、水棲体質に人体改造を行うか、水上と天井の狭い隙間にて生活するかの選択を余儀なくされた。

 この災害より数十年が経過したが、他のフロアからの救助活動はこれら双フロアの両方から拒否され更に救助を申し出た場合には住民から攻撃、捕獲、捕食されたことから断念された。また水漏れを逆流してのレスキュー隊の派遣の困難度具合、被災地を復旧した場合の水棲人間および隙間人間の処遇、スラム化した上部フロアの治安維持等のコスト計算から救援は不採算としてこれらのフロアに対する全ての活動は却下された。この二フロアを挟んで上下のフロアの行き来は多少不便となったが、非常階段1350本の内、316本は二フロアを無視して貫通するよう改修され、数年が経過した結果このフロア達はビル全体から忘れ去られた形となった。

 上のフロアでは未だに非常階段から湧き出るゴミを巨大湖に投置する儀式が行われており、宗教と化した。巨大湖からは時折、アルビノ化した水棲人間と、身体の回りを浮き輪に変化させたアメンボ人間が顔を出す。彼らは神とされ時には悪魔とされるが、水の生活に特化しているため上のフロアには決して昇ることはしない。顔だけ出して引っ込めることからモグラタタキー神と称されている。放り込まれ続けるゴミについて神々がどう思っているのか、それは誰にもわからない。

 その景色を眺めて歌われたのがこの歌でございます。

 ♪はあ、穴が開いては
 いくさは
 できぬ
 できる、できぬは
 傾斜の時に
 言う言葉
 水に放れば
 すべては消える
 消えて現れる
 白い影
 出ては引っ込む
 白い影
 やさほい
 やさほい
 すんだらけの
 ぱっぱっぱ
 よいとまければ
 わるくてかちよ
 ああ
 ほいほい
 JUSRAC 出 123−123456789

 JUSRAC云々まで歌詞なので御注意いただきたい。

 4096Fに続く


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