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152. 須臾ビルヂング フリークライミング 20130424


 探索の結果、このフロアには上に昇るための屋内階段もエスカレーターもエレベーターも非常階段もないことが判明した。したがってこの階をもって最上階すなわち屋上とする。

 上記報告書の結論は却下された。なぜならば屋上であると結論付けたにもかかわらず、上には天井が見えるからである。この矛盾について整合性をとることは難しい。

 調査隊は窓ガラスを穿孔しサンプルをとる。実のところガラスではなく厚さ3mのアクリル樹脂であったわけだが、スコープを通してビルの外側から観察する事ができた。

 その結果、本フロアの上には更にビルの構造物が延びており、先ほど記載した我々の仮説が間違いであると明白に証明されたわけではないが、必ずしも正しいとは言えないと判断される蓋然性が極めて高い可能性が存在することが指摘されることが予想されることが懸念された。スコープの性能の限界から明確ではないが、数十または数百階もしくはそれ以上の構造物が更に本フロアの上に既に建設されているわけであるが、通常の場合、屋上であっても日よけのための天幕、すなわち天井とみなすことが可能である構造物が存在することも多々あり、我々のフロアのさらに上にある構造物が日よけであるとみなして、みなすことが無理なら定義して、さささっと報告書をまとめて帰還しようとの提案もなきにしもあらずであった。

 しかしながら常識的に言って、とは言え、誰にとっての、かつ、いつの常識であるか定義を遡ることは可能とはいえ、そろそろ本レポートを読んでいる人が怒りそうなので、上部の建設物が日よけであり、そのためにコンクリートを何トンも推積するとはやはり反証が多すぎるため、この上にもフロアがあり、階をなしていると考える方が自然であろう。人工物だけどさ、自然だよね。

 更に上の階を調査するためには、上に移動するための移動用空間を保持する必要がある。最初の案として、天井に穴を開ける方法が検討された。このビルの特性上、上のフロアに何があるかわかったものでなく、大量の水、大量の鋼鉄の玉、有毒ガス、真空、猛獣、コアラ、ワニ、大量の幼稚園児、ぶどうぱん、要介護老人の集団が天井の穴から一気に落下してきた場合に十分に対応できるかが検討された。すなわち、排水路の確保、鋼鉄の玉の受け皿およびパチンコ台、有毒ガスを分解するコスモクリーナーおよびヤマトの諸君、真空を嫌う水銀柱、猛獣使いとムチ、コアラ餌付け用ユーカリ、ワニ処理用カバン職人、幼稚園の保母さん、ジャムおじさん、ホームヘルパーを準備し待機させる案については各提案がなされるのと同時に予算の面から却下された。しかしながらなぜか保母さんの採用面接だけは強硬な賛成意見多数により採択され実施されたと聞いている。

 我々は(複数形で記載したが、一人である可能性もある)上方への垂直ボーリング作戦は却下し、先ほど窓に開けた穴を拡張し、ビルの外壁を周り伝わって上層階へと移動する作戦を多数決によって採用した(一人でも多数決は可能である)。

 先ほどあけた直径2cmほどの穴からは、室内の空気が外に吸い出されるひゅうひゅうという音が連続している。これを広げた場合、超超高層階の外側はほとんど真空であるから、内側にいる我々は一気圧の圧力でビルの外に吸い出され放り出され血液が沸騰した後フリーズドライとなるのはなんとかなるとして(ならないが)、酸素呼吸の実施が困難であることは理解しやすい。

 我々(単体である可能性あり)は生態維持に必要な酸素消費量が最小限となる形態に変態し、どうしても酸素が必要となる組織用に空気を圧縮して液体とする方法を選択することとした。

 ドリルにより直径1mの範囲で無数の小穴を穿ち、穴と穴の間を爆破する。

四肢のアンカーを床に打ち込み、空気の流出が収まるまで待つ。副股を含め八本の手足を駆使してアクリルをくぐり抜けビルの外壁に出る。ドリルで新しい穴を開け、アンカーを打ち込み外壁を登る。今流出した湿った空気が急激に冷やされたことにより、外壁に新たな氷が成長し、手をかけると簡単にはがれて危険なので注意が必要である。コンクリ自体も場所によっては老化が進んでおり簡単に崩れ去るのでこれまた慎重に慎重に。

 やはり上のフロアはあった。窓ガラスから慎重にフロアの中を覗くと、我々によく似た形状の我々が、床を調査し、窓のアクリルパネルに穴をあける作業を進めている。きっと窓の内側で作業している我々は、このフロアが一番底であるかについて検討している我々なのであろう。さてこのフロアに乗り込むべきか、見なかったふりをしてもう一つ上のフロアを覗いてみるべきか検討を行ったが現時点では結論が出ない。

 本報告書を受領後、直ちに回答あることを希望する。あと、面接に応募してきた保母さんとの合コンのセッティングもお願いするところである。


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