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151. 話さんかジジイ 20130423


 桜の季節も終わり一息ついたので、針井探偵を訪問することにした。訪問と言っても精神病院の閉鎖監獄を兼ねた刑務所なのだが。とまあ、初めて針井探偵ものを読まれる方には説明が必要だと思うが、この探偵は連続殺人犯として逮捕されてからずっと刑務所にいるのだ。

「これは警部、お久しぶり。また何の用かな」

針井探偵はあいかわらずである。

「これが現場に思わせぶりに置いてあったんだけれど、どう思う?」私は花咲か爺さんの歌の本を差し出した。

花咲爺さん(石原和三郎作詞・田村虎蔵作曲)小学唱歌

裏の畑でポチが鳴く

正直爺さん、掘ったれば

大判、小判が、ザクザクザクザク

「何かと思えば。もう冒頭で下手人が鳴いているではないか。英語では白状することを"歌う"とか"鳴く"とか言うそうだね。この犯罪告白本を置いていったのはきっと英語が母国語の人だな」

「ちょっ、ちょっと待ってくれ。どこに下手人だと書いてあるんだ。下手人どころか犯罪も起こっていないではないか」

「警部殿」

いやみったらしく針井探偵は喋りだす。

「君は花咲か爺さんの話を読んだことはないのかな。花咲爺さんの昔話(花咲かじじい 楠山正雄 http://www.aozora.gr.jp/cards/000329/files/3391.html)によれば、畑を掘るよう鳴いていた犬の名前は"シロ"である。この歌において犬の名前が改変されているのは、以下のことを意味している。つまり裏の畑にいるこの犬はシロではない、すなわちクロ(犯人)であるという宣言だよ。余りにも大胆なすり替えだ。さて犬におびき出されたおじいさんは畑で大判小判を掘り出す。疑うことを知らない正直者を利用したマネーロンダリング。この爺さん、人が良すぎてオレオレ詐欺に何回も引っかかっているに違いないね」

警部は驚く。

「いや、まさにそのマネーロンダリングに絡んだ事件を追っているのだが」

「二番に行こうか。これがマネーロンダリングなのではないかと疑い、調査を始めたのが意地悪爺さんだ。敵対する犯罪組織の資金源を叩くため、その現場を押さえようとしたにちがいない。下手人(ポチ)を問い詰めるが、追求むなしく逃げられ、役に立たないガラクタのような証言・証拠しか得られなかった。この様子を描いたのが二番の歌詞だ。

意地悪爺さん、ポチ借りて

裏の畑を、掘ったれば

瓦や、貝殻、ガラガラガラガラ

さて、正直爺さんの周囲を調べているうちに、意地悪爺さんは気が付く。正直爺さんは誰かに騙され利用されているのではなく、そう見せかけて彼こそがボスではないのか?騙されている事にも気が付かないようなお人よしであるふりをして嘘をついてのではないか?

正直爺さん、臼ほって

それで、餅を、ついたれば

またぞろ小判が、ザクザクザクザク

正直爺さんと言いながら、臼をついて(嘘をついて)またマネーロンダリングだ。餅をついて小判が出てきたとか税務署が信用すると思ったら大間違いだが、下手人の犬が行方不明になったので、資金調達を急いだのだろう。大きな取引を前に危ない橋を渡らざるを得なかった事情があったのだ。

意地悪爺さんは、内偵を続けるがやはりガラクタのようなガセネタばかりで状況は進まない。

意地悪爺さん、臼借りて

それで、餅を、ついたれば

またぞろ、貝殻、ガラガラガラガラ

正直爺さんは正体を現す。マネーロンダリングで使えるようになった現金であっという間に人が廃人(=灰人)のようになる麻薬「アッシュ」を仕入れる。この麻薬を使用すれば目の前に花が咲いたような、万華鏡(=カレイド→枯れ枝)が広がるような幻覚を見るという。正直爺さんはこれで更に大金を稼ぐ。

正直爺さん、灰まけば

花は咲いた、枯れ枝に

褒美は沢山、お蔵に一杯

意地悪爺さんは、おとり捜査で「アッシュ」を購入しようとしたが、悪徳政治家に目をつけられ逮捕される。

意地悪爺さん、灰まけば

殿様の目に、それが入り

とうとう牢屋に、つながれました

というわけだ。

さて、意地悪爺さんはどうなったかって?捕まって牢屋にいる正直爺さんは君の目の前にいるじゃないか。

意地悪じいさんは当て字だよ。いじわる→いしんわる→井(い)針(しん)割る と書いたらどうだろう。井針を割って組み替えれば針井だよ。私、針井、探偵さ。

「では、君の説によると真犯人は正直爺さんだというのだな。それはいったい誰なんだ」

これはまだ確証がないからまだ言えないよ。意地悪爺さんと同様、当て字の可能性が大きいと推測している。最初に言ったように英語が母国語の人が犯人という条件から考えると外国人である可能性が高いね」

「しかし、それに該当する人は何千万人もいるはずだ」

「これ以上の証拠は全くない。だから言いたくない」

「まあ、そういわずに教えてくれよ」

針井探偵はかたくなに教えてはくれなかった。仕方がないので、しばらく世間話をして帰ることにした。帰り際に針井探偵は壁に向かって話しかける

「そういえば話は変わるが、フィルターのいらない新型掃除機で有名なニクソン社の創業者はジョージ・ニクソン氏だそうだ」

私は思わずつぶやく。

「正直爺さん=掃除機 G・ソン。いや、まさかね」

外に出ると強い風で帽子が飛ばされそうになる。見上げた空は黒い雲に覆われ、これから春の嵐が来ることを予感させた。

 

 

 この雑文はフィクションであり、実在する、人物・地名・団体・ポチ・シロ・花咲か爺さん・意地悪爺さん・掃除機メーカー・掃除機メーカー創業者とは一切関係ありません。


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