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148. Coach Can Cheer man. 20130420


 昔々あるところに、男と女がいました。「女は畑。男は種まき本能があるのだ」とうそぶき、男は外の畑に出て種をまいていました。

 ある日、一部始終を見ていたタヌキがよせばいいのに「これはひどい」と種をまくのを邪魔しました。

 男は縄でタヌキをつかまえ家に持ち帰りました。

「悪いタヌキをつかまえたぞ。タヌキ汁にして食おう」

 といって、外出しました。タヌキは縄でしばってSMプレイかと思ったら、こいつは行き過ぎだ。頭おかしいのではないか。と思いましたが、女はかまわずタヌキ汁を作る準備を始めました。おっと、この女も頭がおかしいぞ。タヌキは食われてはたまらんと、何とか逃げようとしますが、どうしても縄から抜けることができません。そこで女に言いました。

「女、縄がきつくて痛い。少し緩めてくれないか」

「そんなことしたら、お前は逃げるだろう。お前に逃げられては男に叱られる」

女はうつろな目でそういって作業を続けます。こいつは家庭内暴力の共依存かヤクで頭がいかれてるな。でもそれならかえってこちらの言う事を聞いてくれるかもしれない。タヌキは一計を案じました。

「女、私は悪いタヌキでした。食べられても仕方ない。でも、タヌキ汁を一人で作るのは大変だろう。私が手伝ってあげるよ。そして男が戻ってくるまでにまた縛られていればいいだろう?」

タヌキはしおらしく、そう言いました。すると女は

「そういって私をまただますのだろう。お前の代わりにタヌキ汁になるのはもうごめんだ」

と、包丁をタヌキの首筋に突き付けます。

「いやいや、私とあなたは初対面だし、タヌキ汁になって食べられたのなら今ここにいないだろう。おかしいよ」

「おかしいなら笑えばいいわ。ほほほほほほほほほほ」 つられてタヌキも笑いだします。

「はははははははは」

「ほほほほほほほほ」

「はははははははは」

「何がおかしい! 忘れたとは言わせないわ。私はあなたに騙されてタヌキ汁になり食べられたのよ。地獄に落ちた私は邪神様に出会い、魂と引き換えにあなたへの復讐を誓い、現世に復活したの」

「ほほほほほほほほほほ」

「さて、そろそろお湯も沸いたようだわ」

と、包丁をタヌキの首筋にぐっと押し当てて突き付け

 

 男が家に帰ると、女もタヌキもいません。ガスレンジの上にはタヌキ汁がありました。しかたなく男は一人で汁を食べます。食べ終わったあとにふと気が付きます。このタヌキ汁の肉、まさか

 男は疑心暗鬼にかられ、暴れだし家の中の物を無茶苦茶にすると、そのうち疲れて泣きながら眠ってしまいました。

 男が力無く泣いていると、ウサギがやってきました。

 男は、ウサギに全てを話しました。するとウサギは「女は単にあんたから逃げ出しただけじゃないの?妄想お疲れさま」と言いました。

 

 ウサギは電話でタヌキにホテルに呼び出されました。チェンジと言われなかったので部屋に上がりました。タヌキはそわそわした様子で言いました。

「ウサギさん、体の一部がカチカチになっちゃった」

 せっかちな客だ。

「あれはカチカチ山のカチカチ鳥が鳴いているんだよ」

 とウサギは誤魔化しました。

「ウサギさん、もうパチパチンにはちきれそうだよ」

「あれはパチパチ山のパチパチ鳥が鳴いているんだよ」

 とウサギはまた誤魔化しました。

「ウサギさん、ワキのお手入れはしないの?すごくボーボーだよ」

「あれはボーボー山のボーボー鳥が鳴いているんだよ」

 とウサギはまたまた誤魔化しました。

 しんぼうたまらんタヌキが、いきなり飛びかかってきたのでウサギはタヌキを突き飛ばしました。頭に血が上ったタヌキはウサギを追いかけまわしましたが、その内にウサギの怖いお兄さんと名乗る人が部屋に入ってきたのでタヌキは背中に火が着いたように走って逃げました。

 

 次の日、ウサギは電話でタヌキに呼び出されたので唐辛子味噌を作って、ホテルの部屋に行きました。

 すると、タヌキは「またお前か、何しにきたんだ。チェンジ」と追い返そうとします。

 しかしウサギは何食わぬ顔で「何のことです?」と聞きます。

 タヌキが「昨日、怖いお兄さんが出てきただろうが」

 しかしウサギは

「他人の空似じゃない? これ流行のメークだから」

 といいます。するとタヌキも「もっともだ」と納得。そこへウサギは

「タヌキさんは何をやっている人なの?」「いや、無職やけど」

「いい年してるのに、こんな昼間からなにしてんの。職さがしなさいよ」

「そうやけど、今景気が悪くてなあ」

「やけど、やけどって言い訳ばかりでダメ人間なの?情けないわね」と“やけど”に塩をすり込みます。

「そうやけど」

「ほらまた“やけど”が出てきた。馬鹿なの?死ぬの?」

“やけど”に唐辛子をすり込まれ、タヌキは悶絶しました。

 

 次の日、ウサギは電話でタヌキに呼び出されました。本当に懲りない奴だ。

「ひぃ、またお前か。昨日はひどい事言ってくれたな。チェンジ」

 と怒っています。ウサギが「何のことです?」と聞きますとタヌキは昨日のことを話しました。するとウサギは「他人の空似じゃない? これ流行のメークだから」 といいました。するとタヌキも「もっともだ」と納得しました。

「その前にデートしようよ。公園でも散歩したいな。ボートで漕ぎ出さない?」

と誘います。タヌキが「面白そうだ」といいますと、ウサギはさっさとボートを借りて一人で漕ぎ出します。これじゃデートと言えないじゃないか。タヌキはもう一艘を借りて追いかけます。

池の真ん中あたりでタヌキが追いつくと、ウサギはボートの上で立ち上がります。「バランスが崩れて危ないよ」と言いましたがウサギは聞いてなんかいません。振り返ってタヌキの方を向いた姿はウサギではなく、女の顔かたちになっていました。

「この身を邪神に捧げよう。この身をもって、邪悪なタヌキが地獄にて永劫の炎に焼かれんことを」

 止める間もなく、あ と言う間にウサギは池に身を投げました。あわてて水面をのぞきますが、池の奥に沈んだのかその姿は見えません。助けを呼ばなくちゃ。声を上げようとすると水面から無数の触手が伸びてきてボートに迫ります。オールを掴んで振り回して追い払おうとしますが触手の数が多くてどうしようもありません。触手が触れたところからボートは泥と化して池の中に崩れていきます。ボートは溶けだし、穴があいて沈んでしまいました。

「助けてくれ!」

 とタヌキが叫びましたが、その叫びは誰にも届きません。

 池の中に引きずり込まれたタヌキは濁った水の向こうに、体から無数の触手を生やした女がこちらを見ているのが見えました。

 かくして、タヌキは泥船と共に池に沈んでしまいました。

 

 タヌキが目を開けると、体が縛られています。鍋でお湯を沸かしていた女が振り返り、こちらに近づいてくりと、包丁をタヌキの首筋にぐっと押し当て

 


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