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149. 須臾ビルヂング 1024F(2) オフィス 20130421


 試しに電話で注文してみると、次の日には新式のコピー機が搬入された。先日注文したパン焼き釜の方はアスクルでは取り扱っていないので時間がかかるそうだ。あの娘がぶどうぱんを買いにくるまでにパン焼き釜は到着するかなあ。  新式のコピー機に書類を置くと強力なレーザーでスキャンし、三次元立体構造を含めてコピーされる。あまりにも高出力レーザーが採用されたため、元原稿は分子レベルまで分解され消えてしまう。

 ためしに中身の入った缶コーヒーをコピーしてみる。コピー元は盛大な火花を散らして消失していった。コピーされた缶コーヒーのプッシュプルをあけてみると中には液体が入っていて飲んでみると墨汁の味がした。

 コピー機の上の天井に大きな鏡を設置したら、コピー機自体がコピーされるのか試してみた。自分自身が発するレーザーで自分自身を破壊しながら破壊途中のコピー機が出現した。破壊途中のコピー機はコピー元を完膚なきまでに破壊するが、その結果、コピーを生成する能力を失ったため、シュレッダーとして余生をすごすこととなった。

 ある日、本当の自分を探す旅に出ます。と書き残して、コピー機のコピーはいなくなってしまった。残された大量のコピー用紙は見捨てられたと世をはかなんで、古いシュレッダーに次々と身を投げそうだ。

 プリンターが逃亡したため、各自でプリンターを購入し、自分の机に設置するようになった。便利だからという理由でスキャナー付複合機が多い。そのうちに買った覚えのない機器が増えてくる。複合機がスキャナーにて自分の姿を複製し、自ら印刷することにより自己増殖しているらしい。そのうちデスクの上からプリンターがあふれ出す。

 ある朝、天井の蛍光灯が一斉にパパパパパリンと割れ、ガラスの破片が降り注ぐ。蛍光灯が割れたのに、まだ天井は明るい。見上げると、口金のところから無数のLEDが覗いている。進化したらしい。

 ガラスの破片を感知して、自動清掃機が飛び出してくる。あまりに破片が多いので掃除に勢いがつきすぎて机や椅子や社員を片付けてしまう。片付けても片付けても複合機がガラスの破片を複製再生産してしまうためさらに自動清掃機の動作が加速する。

 清掃ロボットに迫られた社員はシュレッダーのゴミを一掴み目の前に差し出しロボットの気を引く。ほ−らほ−ら、と言いながらロボットの注目が集まったところでゴミを窓のほうに放り投げる。ロボットはゴミを収集しようと走り出し、そのまま窓ガラスに衝突し、勢いついて割れた窓ガラスの破片とともに外に放り出される。数台に一台は落ち掛けにブラインドの紐を掴み落下へ抵抗することがある。ブラインドへの破壊行為を察知したビル保全用ナノマシンが一斉に清掃ロボットに襲い掛かり、あっというまにロボットは塵に還る。

 騒動がおさまったころ定時の鐘がなり、今日も特に何もなかったなあと世間話しつつ退社の準備を始める。

 


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