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141. 須臾ビルヂング 256F 監視室 20130413


 このフロアには壁がなく、等間隔に設置された柱により天井が支えられている。ビル風にさらされてフロアー面のライ麦が揺れる。畑では子供たちが無邪気に走り回っている。フロアの縁の近くでは、無邪気に遊ぶ子供たちがあやまって畑から落ちてしまわないように、捕まえ手達が見張っている。彼らは子供たちがビルの外に落ちてしまわないように、端に近づかないように子供たちに呟き続けている。両手に持った絡め捕る網は子供を傷つけないようにウレタンで覆われ、子供たちにトラウマを植え付けないようにフワフワの羽やふさふさの尻尾飾りつけられている。

 余計なお世話である。世界全体がライ麦で満たされたこのフロアでは、無邪気と善意で満たされ、自意識が発達した子供には逆に息が詰まる。

 鬼ごっこに夢中な振りをして捕まえ手を見る。善意に溢れかえったその顔に唾を吐きかけたい気持ちを抑えて、歓声を上げながら友達を追い掛け回す振りをする。ライ麦を踏みつけながら、ライ麦の穂の陰に隠れながら、友達を次第にフロアの縁に追い込む。鬼ごっこに夢中な友達は私のたくらみに気がつかない。何度も同じように踏み固めて作った獣道に友達を追い込み、声を抑えながら追いつきそうで追いつかない距離で追い詰める。ここで友達の右に足を踏み込む。友達は悲鳴に似た歓声を上げながら左のライ麦の束に飛び込む。友達はかろうじて捕まえ手にキャッチされる。落ちなくてよかった。

 捕まえ手は友達が落ちてしまわないように両手で抱きしめる。その横をすり抜け、私はフロアの縁を超えて走り抜ける。捕まえ手は網を振り回すが、すんでのところで届かない。悲嘆に満ちた捕まえ手の顔を横目に、僕は深遠に向かってダイブする。

 

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