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117. 140字(ツイッターを再構成)(20111012)


2010.7.11
「ごめんなさい、ウソをついていたの」
「では、ぼくのことを愛しているといってくれた、あれもウソなのか」
「そう、全部ウソだったの」
「全部ウソって、どこからどこまでウソなんだい」
「だから全部よ、あなたと私の存在も含めて全部」

2011.2.4
雪は止んで朝は晴天。地面から舞い上がる埃が、雪で硬化した空気の透明を損なう。濁ったまま空間は固まり、この都市に巨大な透明の直方体の墓標が現出する。墓の中でうごめく我々は、さしずめゾンビ。同じ事を意味も無く繰り返す。飽きることなく同じところをグルグルと。ゾンビがくるりと輪を描いた。

2011.1.30
トイレに入ると床がびしょぬれ。どういう使い方をしたのだ。水溜りをまたいで朝顔に向かう。背後で床が裂け、盛り上がってくるような音がした。光とともに神々しい声が聞こえる。お前がこぼしたのは、この金の小便か、それとも銀の小便か。いえ、こぼしたのは私ではありません。では後ろの小便だあれ?

2011.1.28
通勤電車で座席で眠っている人。ぐらぐら動く後頭部が窓に当たってどーんと響く。一旦目を覚ますが、ぐらぐらどどーん。どどどーん。あまりの激しさに秘密のモールス信号の通信かもと笑う。よく気がついたねと耳元のささやき。遠くの車両からも、どーんどどどーんという音が響いていたことに気がつく。

2011.1.27
日付スタンプのゴムの数字をクルクルと回してみる。十年前にしてみると、若くなった気がして馬力でバリバリ作業が進む。十年後にしてみると、経験が増して的確な判断力でスムーズに仕事が進むような気がする。しばらく遊んでから今日の日付に戻すと、よく似た人がやってきて、私を押しのけて席に座る。

2011.1.27
綿ボコリをつまむと、細いホコリの糸で床の隙間につながっていた。どんどん引き出されてくる。引っ張り続けると”ポ”と小さな栓が抜ける音が鳴り、糸が切れた。どこからともなくしゅぅしゅぅと空気が抜けるような音が聞こえる。外に出ると、なんだか地面が縮んでシワになってきているような気がする。

2011.1.26
その男は、ひらりひらりと舞う金魚ばかり褒められるのが嫌になって、水槽と水だけを置いて姿を消した。透明な水と透明なガラスの水槽にあたる光。その元相棒はといえば、金魚も水槽も取り去ったというのに、水とひらりひらりだけを置き続けている。しばしば水も置かず、ひらりひらりを置いたりもする。

2011.1.26
川岸で小用をたして戻ってみると、ねぐらのブルーシートのテントにホームレスの死体が転がっていた。こんなものに関わっていられないので死体をかかえてざぶざぶと川に入り、川に流す。ブルーシートに戻るといきなり殴られ倒れる。うしろから自分がやってきて私を肩に担ぎ、ざぶざぶと川に入っていく。

2011.1.25
机に突っ伏して昼寝する。悪い夢にうなされてガバと起き上がると、ちょうどお面を置いたように、眼鏡と顔面が机に置き去りになる。鏡を見ると目も鼻も口も無く灰色の卵のような顔になっている。マジックで目鼻を書いて眼鏡をかけてみる。誰も気がつかない。存在感の無いのも、たまには役に立つものだ。

2011.1.25
薄暗い路地の角を黒猫が横切る。不吉の前兆に怯えていると、黒猫の胴が異様に長く、なかなか横切り終わらない。踏切の如く、路地をとおせんぼしているので前にすすめない。黒い毛がさわさわさわと流れていく。しばらく眺め続け、そういえばどうして黒「猫」と思ったのだろうと、不思議に思いはじめる

2010.3.22
現実の、このリアリティの無さはなんだろうと考えつつ、駅の狭い通路を歩いていると、歩いている人人が誰一人として自分が進む方向に顔を向けていない事に気がつく。救急車がランプを点灯したまま交差点に停車している。タンカで運び込まれる私に気がつかないふりをして顔をそむけたまま通り過ぎる私。

2010.9.1
ライトノベルの逆でヘビーノベル。表紙は文字のみ。挿し絵なし。ハードカバー箱入り。登場人物全員初老。特殊能力、特異体質なし。人間以外は話さない。キャラ否定。なんだったら登場人物出てこない。事件も起こらない。プロットなし。ストーリーなし。よく見ると文字も書いていない。印刷された紙もない。


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