102. 「名字」(20071222)


 名字が書かれた名札は、机の引き出しの奥に忘れていたものだった。

 高校時代に使っていたプラスチック製の名札はあちこちに擦り傷がつき、学年をあらわしていた横線の赤色も色あせていた。

 あの頃、教室の隅でなんとなく気の会う連中とつるんでだべっては、特に悪いこともせず、かといって成績も優秀というわけでもなくなんというか中途半端な高校時代を過ごしていた。

 綺麗な横顔を眺めながら過ごす退屈な授業時間。真剣に考えるその表情も、退屈そうにシャープペンを咥える様子も、隣の人とこっそりと内緒話をする様子も、飽きずに眺めていたものだった。

 という感じでなんということもない高校生活で、そういうわけでバレンタインには縁のないと思っていた。

 いつものように教室の隅でだべっていると、横顔の君が通りかかる。あ、そうだ。君は僕の顔を見ると思い出したように袋を取り出す。これあげるよ。そう言って小さな紙袋を押し付けると、バレンタインというわけじゃないんだけど、そう言うといい香りを残して教室から去っていった。

 袋を開けてみるとチョコではなく、金平糖が入っていた。どういうつもりなんだろうなあ。それきり、その横顔の君とはなんということもなく結局のところ金平糖の意味するところもわからないままである。

高校時代の淡い思い出のお話。

男子校だったけど。

とっぴんぱらりのぷう。


第八回雑文祭 参加作品

■書き出し: ○○は、机の引出しの奥に忘れていたものだった。
■縛り: 金平糖を文章のどこかに入れる。
■結び: とっぴんぱらりのぷう。
■追加縛り:「名字」


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