100. 「湖畔の榎の曲がりくねった枝の如き甦るもの」(20070817)


判りませんか、これでもまだ?

針井探偵は説明を続ける。

何故犯人は、アリバイ工作が可能なのにもかかわらず、あえて単独行動をせず、わざわざ背負われてその川を渡ったのでしょうか。しかも梅雨の大雨で増水した川を。それは、一人で川を渡れない事情があったからです。

そう、その笛を犯人が持っていることが見つかることを一番恐れたからです。他に適当な隠す場所がなかったため、犯人は笛を靴の中に隠さざるを得なかった。そしてそのために歩くことが出来なかった。従って、その川を渡るためには、何も知らない目撃者に背負われて渡るしか方法がなかったのです。横断オンブは笛に靴のためだったのです。そして犯人は笛を隠す必要があった人物、即ち、笛を持っているはずのない人物、そうあなたです。

こうして、寝る時も含め、一日中不自然に白衣を着ている科学者集団の中で起こった、陰惨な殺人事件は解決した。

針井他と不自然な技師団(横断オンブは笛に靴)
(ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団(Order of the Phoenix))
 

おわり



嗄れた声で探偵は説明を続ける。

この密室トリックは非常に成功率が低い。従って、成功するまで何回もトライしたと思われ。失敗すれば、そのまま何もせず、何食わぬ顔で次のチャンスを待てば良いのだから。

すると犯人は……

そう、成功するまで何回となく、扉の外から鍵穴を通じてプリンをストローで吸っていたのだ。彼は鍵の掛かった部屋に閉じ込められていたと思われていたが、実ははじめから部屋の外にいたのです。これが密室トリックの仕掛けです。好物であるはずのサクランボを食べずに残したという不自然さに気がついたのが仕掛けに気がついたきっかけでした。ストローではサクランボはストローを通りませんからね。

殺害のあと、何故被害者のパンツを半分だけ引き下ろさなければいけなかったのか。それは預言書にそう書いてあったからです。

そう、預言書にはこう書かれてありました。「混血の王子が悲しい目にあうだろう。」

Half Blood Prince……半分の血の王子……半分のケツの王子……半尻王子

預言書を真実にするためには、どうしてもパンツを半分下ろさなくてはいけなかったのです。

針井他と何度もプリン吸う(半ケツ王子)
(ハリー・ポッターと謎のプリンス(The Half-Blood Prince))

 

おわり


笙の音がどこからか響いてくる部屋の中、四方の壁は火に包まれていた。

窓のない部屋の唯一の出入り口である扉は外から鍵が掛かってある。

このままでは火あぶりである。

体当たりを繰り返す私を針井探偵は冷ややかな顔つきで眺めている。

何をのんびりしているんだ。手伝わないか。

まあ、落ち着きたまえ。人は必ず死ぬのだ。例外なく。どうせ死ぬのなら、こういう風にドラマチックに死んだほうがよいと思わないか。

何を言っている。死ぬときは家族に看取られながら老衰で死ぬことに決めているんだ。早くしないと煙に巻かれてしまうぞ。

しょうがないなあ。もうちょっと冷静に考えたまえ。この六角形の形をした館について何か気がつかなかったかね。

お前は、この期に及んでまだのんびりと推理ごっこか。

我々の今置かれている状況を図に示すとこうなる。

 

図1 (図1)

我々が居る場所がAだ。このように、六角形の館の一室に我々は閉じ込められているわけだが。

これを見方を変えて三次元的に高さがあるものとして解釈するとこうなる。

 

図2 (図2)

ちょっと待ってくれ。三次元って急にオカルトの話になるのか? だいたい、高さって何だよ。

高さとは縦軸とも横軸ともに90度の角度で交わる軸の事である。

それはおかしいよ。我々がいる二次元の世界では、縦軸と横軸が既に90度の角度で交差しているのだから、第三の軸をどう設定しようと直角に交わるわけがない。普通、三次元の世界といえば、我々二次元の世界に時間軸を加えたものではないのかね。

私が三次元の世界からやってきたと言ったらどうかね。

ばかばかしい。じゃあ、この閉じた部屋から三次元ポケットを通って外に出られるとでもいうのかね。

しょうがない、説明を続けよう。

(図2)を三次元的に判りやすいように色分けしたものが(図3)だ。

 

図3 (図3)

こう解釈すると、我々は一つの角が凹んだ立方体の外側にいることになる。

”なんだ立方体って?”いぶかしみながらも彼の話の続きを聞いた。

外側にいるから、火の心配をするまでもない。自然に移動してから二次元に戻れば部屋からの脱出できるというわけさ。

”とうとうオカルトマニアになったか……”では、その方法で脱出してみせろよ。

いいよ。ほら。

そういうと我々の体が急に不定形になり部屋中に広がったような感覚がして……気がつくと六角形の館を”高いところから”一度に認識している自分に気がついた。

こ、これが三次元空間……

その一瞬の後、世界に拡散していた我々の体が収縮し、館の外に立っていることに気がついた。

助かった。そう思って横を見ると針井探偵の姿はすでになかった。

そして館と共に犯人は焼け落ち、この恐ろしい連続殺人事件は終結した。現場に落ちていたアメリカンコミック「ピーナッツ」の中国語版が現場に置かれていた意味をいち早く見抜き、犯人は忍術使いと喝破した針井探偵は……今も行方不明のままである。

その後、彼の姿を見たものはいない。彼はまだ三次元空間を漂い彷徨っているのであろうか。

針井他と 忍び某(でつ ニーハオ)
(ハリー・ポッターと死の秘宝(Deathly Hallows))

おわり


梅雨の中休み雑文祭 縛り

(1)内容に梅雨または夏に関係した話題を含む。
(2)本文中に「桜桃」「さくらんぼ」または「サクランボ」の語を用いる。
(3)一部が不自然に白い物体を登場させる。
(4)タイトルに「半」「夏」「生」の文字を入れる(順番不問)。
(5)三段落または三部構成とし、それぞれの書き出しの文字を「半」「夏」「生」とする。

※締め切りに間に合わなくてすいません。


    一覧  トップ