……何故、こんなことを考えているのだろうと思ったところで何かにつまずいた。足元を見てみると砂に埋まっている壷に足が引っかかったらしい。拾い上げてみると古そうな壷で厳重に封がしてある。力ずくでその固い封を開けてみると中から白い煙がふき出し空一杯に広がったかとおもうと次第にあつまり人の姿となった。

「またお前か、三つの願いを言え。」

どうやら悪魔が封じ込められていた壷をあけてしまったらしい。

「またって、初対面だと思うが。」

「いいから願いを言え。魂は貰うが。」

「じゃあ、私を、私の家まで運んでくれ。」

「ようがす。」

悪魔が返事して瞬きを一つする間に、シンドウバットは自分の家の前に立っていました。喜んで家に飛び込むと、妻が浮気をしていました。

愛する妻に裏切られたシンドウバットはもう何もかも嫌になりました。部屋の中に一人座るシンドウバットの前に悪魔が現れました。

「二つ目の願いを言え。」

「心の平安をくれ。」

「ようがす。」

悪魔が返事して瞬きを一つする間に、シンドウバットの周りには何もなくなってしまいました。見渡す限り何も見えない真っ黒の中空にひとりシンドウバットは浮かんでいました。心を揺り動かす愛も恋も金も名誉も地位も何も無いので、心が揺れ動くことはありません。けれどもこれではあんまりです。

「これではあんまりだ!」

目の前に悪魔が現れました。

「最後の願いを言え。」

シンドウバットは考えました。元に戻してくれと言うのは簡単だがもっといい手があるに違いない。よくよく考えたい。そうだ、いい願いを思いついたぞ。

「最後の願いは、願いをもう三つかなえてくれ、だ。」

「やっぱりそれか。では三つ願いをかなえてやれるよう、お前が三つの願いを言う前の過去に戻してやろう。」

その言葉を聞き終わる前に、シンドウバットの体はどこからか吹いてきた突風に巻き込まれ、上のほうに……どちらが上だかわかりませんが…飛ばされて行きました。くるくるくるくる回っている内に、見覚えのある光景が見えてきました。夕日に照らされた砂浜に横たわる人影が。シンドウバットその人です。くるくると回りながらシンドウバットを眺めているシンドウバットは、時空を越えたため精神のみとなり、そして自分自身と同一の体に吸い込まれて行きました。過去に戻った為、シンドウバットの意識も過去に巻き戻され未来の記憶も消えてしまいました。

遠くで耳鳴りが聞こえる……


 

97. シンドウバットの冒険(完結編 中)(20060920)


第拾壱夜 第七番目の後悔

耳鳴りの音が遠くから聞こえる。耳鳴りは段々近くなってくるように思われる。ああ、こうやって向こうからやってきた耳鳴りが頭に取り付くと、本物の耳鳴りになるのだな。目を開けてみると砂浜に横たわっていた。オレンジ色に空と海と地平線を染めた大きな太陽が沈む前の最後の光を投げかけていた。耳鳴りかと思っていたのは段々と満ちてきた海岸の波の音だったようだ。頬を砂にうずめたシンドウバットはのろのろと体を起こす。そうだ、船が大嵐で。その時のことを思い出す。風の音で乗組員の叫ぶ声が聞こえない。大揺れの船内は全ての固定されていない物がまるで既に波の中に放り込まれたかのように飛び回っている。大波が船を覆い尽くし……それから先は覚えていない。それから…大嵐に吸い込まれて大空に吸い込まれたような気もするが…思い出せない。砂浜を見渡すと……どうやらここは小島のようで……自分の他に流れ着いた乗組員はいないようだ。見渡す限り、船から漂着してきたようなものも見つからない。とりあえず食料と水を探すことにしよう。

自由意志というものを考えてみよう。もちろん、シンドウバット自身には自由意志があると自分では確信している。この航海も、後悔する様な結果になりそうだが、自分の自由意志で決めた事である。 ここで時間を巻き戻してみよう。自分が航海に出ると決心した時に舞い戻るとする。何一つ前回の時と変らない。そうすれば自分はやはり、あの時航海に出ると決心しただろう。すると、自分の意思で決めたとは言え、結果が全く変らないのならば、それはあらかじめ決まっているとも言える。すると、自由意志で決めたと思っていてもそれは、自由ではなくあらかじめ決まっていたことと言えるのではないか。シンドウバットの自由意志はどこに行ったのだ。

逆に、時間を巻き戻して、もしシンドウバットが航海を止めようと自由意志で決めたらどうだろう。周りの条件は同じなのに、自由意志の決定が違ったら、それは何に由来するのだろう。自由意志とはなんだろう。 そこまで考えた時に、気がついた。時間が戻ったということは、未来の記憶がなくなるということだ。だから、一回未来で決めた決心を、過去に持ち込んで判断することは出来ない。過去に持ち込めば、それは過去そのままではなく、違う過去となってしまう。周囲の条件が違うのだから、結果が異なってしまうこともありえるだろう。

……何故、こんなことを考えているのだろうと思ったところで何かにつまずいた。足元を見てみると砂に埋まっている壷に足が引っかかったらしい。拾い上げてみると古そうな壷で厳重に封がしてある。力ずくでその固い封を開けてみると中から白い煙がふき出し空一杯に広がったかとおもうと次第にあつまり人の姿となった。

「またお前か、三つの願いを言え。」

どうやら悪魔が封じ込められていた壷をあけてしまったらしい。

「またって、初対面だと思うが。」

「いいから願いを言え。魂は貰うが。」

「じゃあ、私を、私の家まで運んでくれ。」

「ようがす。」

悪魔が返事して瞬きを一つする間に、シンドウバットは自分の家の前に立っていました。喜んで家に飛び込むと、妻が浮気をしていました。

愛する妻に裏切られたシンドウバットはもう何もかも嫌になりました。部屋の中に一人座るシンドウバットの前に悪魔が現れました。

「二つ目の願いを言え。」

「心の平安をくれ。」

「ようがす。」

悪魔が返事して瞬きを一つする間に、シンドウバットの周りには何もなくなってしまいました。見渡す限り何も見えない真っ黒の中空にひとりシンドウバットは浮かんでいました。心を揺り動かす愛も恋も金も名誉も地位も何も無いので、心が揺れ動くことはありません。けれどもこれではあんまりです。

「これではあんまりだ!」

目の前に悪魔が現れました。

「最後の願いを言え。」

シンドウバットは考えました。元に戻してくれと言うのは簡単だがもっといい手があるに違いない。よくよく考えたい。そうだ、いい願いを思いついたぞ。

「最後の願いは、願いをもう三つかなえてくれ、だ。」

「やっぱりそれか。では三つ願いをかなえてやれるよう、お前が三つの願いを言う前の過去に戻してやろう。」

その言葉を聞き終わる前に、シンドウバットの体はどこからか吹いてきた突風に巻き込まれ、上のほうに……どちらが上だかわかりませんが…飛ばされて行きました。くるくるくるくる回っている内に、見覚えのある光景が見えてきました。夕日に照らされた砂浜に横たわる人影が。シンドウバットその人です。くるくると回りながらシンドウバットを眺めているシンドウバットは、時空を越えたため精神のみとなり、そして自分自身と同一の体に吸い込まれて行きました。過去に戻った為、シンドウバットの意識も過去に巻き戻され未来の記憶も消えてしまいました。

遠くで耳鳴りが聞こえる……


 

97. シンドウバットの冒険(完結編 中)(20060920)


第拾壱夜 第七番目の後悔

耳鳴りの音が遠くから聞こえる。耳鳴りは段々近くなってくるように思われる。ああ、こうやって向こうからやってきた耳鳴りが頭に取り付くと、本物の耳鳴りになるのだな。目を開けてみると砂浜に横たわっていた。オレンジ色に空と海と地平線を染めた大きな太陽が沈む前の最後の光を投げかけていた。耳鳴りかと思っていたのは段々と満ちてきた海岸の波の音だったようだ。頬を砂にうずめたシンドウバットはのろのろと体を起こす。そうだ、船が大嵐で。その時のことを思い出す。風の音で乗組員の叫ぶ声が聞こえない。大揺れの船内は全ての固定されていない物がまるで既に波の中に放り込まれたかのように飛び回っている。大波が船を覆い尽くし……それから先は覚えていない。それから…大嵐に吸い込まれて大空に吸い込まれたような気もするが…思い出せない。砂浜を見渡すと……どうやらここは小島のようで……自分の他に流れ着いた乗組員はいないようだ。見渡す限り、船から漂着してきたようなものも見つからない。とりあえず食料と水を探すことにしよう。

自由意志というものを考えてみよう。もちろん、シンドウバット自身には自由意志があると自分では確信している。この航海も、後悔する様な結果になりそうだが、自分の自由意志で決めた事である。 ここで時間を巻き戻してみよう。自分が航海に出ると決心した時に舞い戻るとする。何一つ前回の時と変らない。そうすれば自分はやはり、あの時航海に出ると決心しただろう。すると、自分の意思で決めたとは言え、結果が全く変らないのならば、それはあらかじめ決まっているとも言える。すると、自由意志で決めたと思っていてもそれは、自由ではなくあらかじめ決まっていたことと言えるのではないか。シンドウバットの自由意志はどこに行ったのだ。

逆に、時間を巻き戻して、もしシンドウバットが航海を止めようと自由意志で決めたらどうだろう。周りの条件は同じなのに、自由意志の決定が違ったら、それは何に由来するのだろう。自由意志とはなんだろう。 そこまで考えた時に、気がついた。時間が戻ったということは、未来の記憶がなくなるということだ。だから、一回未来で決めた決心を、過去に持ち込んで判断することは出来ない。過去に持ち込めば、それは過去そのままではなく、違う過去となってしまう。周囲の条件が違うのだから、結果が異なってしまうこともありえるだろう。

……何故、こんなことを考えているのだろうと思ったところで何かにつまずいた。足元を見てみると砂に埋まっている壷に足が引っかかったらしい。拾い上げてみると古そうな壷で厳重に封がしてある。力ずくでその固い封を開けてみると中から白い煙がふき出し空一杯に広がったかとおもうと次第にあつまり人の姿となった。

「またお前か、三つの願いを言え。」

どうやら悪魔が封じ込められていた壷をあけてしまったらしい。

「またって、初対面だと思うが。」

「いいから願いを言え。魂は貰うが。」

「じゃあ、私を、私の家まで運んでくれ。」

「ようがす。」

悪魔が返事して瞬きを一つする間に、シンドウバットは自分の家の前に立っていました。喜んで家に飛び込むと、妻が浮気をしていました。

愛する妻に裏切られたシンドウバットはもう何もかも嫌になりました。部屋の中に一人座るシンドウバットの前に悪魔が現れました。

「二つ目の願いを言え。」

「心の平安をくれ。」

「ようがす。」

悪魔が返事して瞬きを一つする間に、シンドウバットの周りには何もなくなってしまいました。見渡す限り何も見えない真っ黒の中空にひとりシンドウバットは浮かんでいました。心を揺り動かす愛も恋も金も名誉も地位も何も無いので、心が揺れ動くことはありません。けれどもこれではあんまりです。

「これではあんまりだ!」

目の前に悪魔が現れました。

「最後の願いを言え。」

シンドウバットは考えました。元に戻してくれと言うのは簡単だがもっといい手があるに違いない。よくよく考えたい。そうだ、いい願いを思いついたぞ。

「最後の願いは、願いをもう三つかなえてくれ、だ。」

「やっぱりそれか。では三つ願いをかなえてやれるよう、お前が三つの願いを言う前の過去に戻してやろう。」

その言葉を聞き終わる前に、シンドウバットの体はどこからか吹いてきた突風に巻き込まれ、上のほうに……どちらが上だかわかりませんが…飛ばされて行きました。くるくるくるくる回っている内に、見覚えのある光景が見えてきました。夕日に照らされた砂浜に横たわる人影が。シンドウバットその人です。くるくると回りながらシンドウバットを眺めているシンドウバットは、時空を越えたため精神のみとなり、そして自分自身と同一の体に吸い込まれて行きました。過去に戻った為、シンドウバットの意識も過去に巻き戻され未来の記憶も消えてしまいました。

遠くで耳鳴りが聞こえる……


 

97. シンドウバットの冒険(完結編 中)(20060920)


第拾壱夜 第七番目の後悔

耳鳴りの音が遠くから聞こえる。耳鳴りは段々近くなってくるように思われる。ああ、こうやって向こうからやってきた耳鳴りが頭に取り付くと、本物の耳鳴りになるのだな。目を開けてみると砂浜に横たわっていた。オレンジ色に空と海と地平線を染めた大きな太陽が沈む前の最後の光を投げかけていた。耳鳴りかと思っていたのは段々と満ちてきた海岸の波の音だったようだ。頬を砂にうずめたシンドウバットはのろのろと体を起こす。そうだ、船が大嵐で。その時のことを思い出す。風の音で乗組員の叫ぶ声が聞こえない。大揺れの船内は全ての固定されていない物がまるで既に波の中に放り込まれたかのように飛び回っている。大波が船を覆い尽くし……それから先は覚えていない。それから…大嵐に吸い込まれて大空に吸い込まれたような気もするが…思い出せない。砂浜を見渡すと……どうやらここは小島のようで……自分の他に流れ着いた乗組員はいないようだ。見渡す限り、船から漂着してきたようなものも見つからない。とりあえず食料と水を探すことにしよう。

自由意志というものを考えてみよう。もちろん、シンドウバット自身には自由意志があると自分では確信している。この航海も、後悔する様な結果になりそうだが、自分の自由意志で決めた事である。 ここで時間を巻き戻してみよう。自分が航海に出ると決心した時に舞い戻るとする。何一つ前回の時と変らない。そうすれば自分はやはり、あの時航海に出ると決心しただろう。すると、自分の意思で決めたとは言え、結果が全く変らないのならば、それはあらかじめ決まっているとも言える。すると、自由意志で決めたと思っていてもそれは、自由ではなくあらかじめ決まっていたことと言えるのではないか。シンドウバットの自由意志はどこに行ったのだ。

逆に、時間を巻き戻して、もしシンドウバットが航海を止めようと自由意志で決めたらどうだろう。周りの条件は同じなのに、自由意志の決定が違ったら、それは何に由来するのだろう。自由意志とはなんだろう。 そこまで考えた時に、気がついた。時間が戻ったということは、未来の記憶がなくなるということだ。だから、一回未来で決めた決心を、過去に持ち込んで判断することは出来ない。過去に持ち込めば、それは過去そのままではなく、違う過去となってしまう。周囲の条件が違うのだから、結果が異なってしまうこともありえるだろう。

……何故、こんなことを考えているのだろうと思ったところで何かにつまずいた。足元を見てみると砂に埋まっている壷に足が引っかかったらしい。拾い上げてみると古そうな壷で厳重に封がしてある。力ずくでその固い封を開けてみると中から白い煙がふき出し空一杯に広がったかとおもうと次第にあつまり人の姿となった。

「またお前か、三つの願いを言え。」

どうやら悪魔が封じ込められていた壷をあけてしまったらしい。

「またって、初対面だと思うが。」

「いいから願いを言え。魂は貰うが。」

「じゃあ、私を、私の家まで運んでくれ。」

「ようがす。」

悪魔が返事して瞬きを一つする間に、シンドウバットは自分の家の前に立っていました。喜んで家に飛び込むと、妻が浮気をしていました。

愛する妻に裏切られたシンドウバットはもう何もかも嫌になりました。部屋の中に一人座るシンドウバットの前に悪魔が現れました。

「二つ目の願いを言え。」

「心の平安をくれ。」

「ようがす。」

悪魔が返事して瞬きを一つする間に、シンドウバットの周りには何もなくなってしまいました。見渡す限り何も見えない真っ黒の中空にひとりシンドウバットは浮かんでいました。心を揺り動かす愛も恋も金も名誉も地位も何も無いので、心が揺れ動くことはありません。けれどもこれではあんまりです。

「これではあんまりだ!」

目の前に悪魔が現れました。

「最後の願いを言え。」

シンドウバットは考えました。元に戻してくれと言うのは簡単だがもっといい手があるに違いない。よくよく考えたい。そうだ、いい願いを思いついたぞ。

「最後の願いは、願いをもう三つかなえてくれ、だ。」

「やっぱりそれか。では三つ願いをかなえてやれるよう、お前が三つの願いを言う前の過去に戻してやろう。」

その言葉を聞き終わる前に、シンドウバットの体はどこからか吹いてきた突風に巻き込まれ、上のほうに……どちらが上だかわかりませんが…飛ばされて行きました。くるくるくるくる回っている内に、見覚えのある光景が見えてきました。夕日に照らされた砂浜に横たわる人影が。シンドウバットその人です。くるくると回りながらシンドウバットを眺めているシンドウバットは、時空を越えたため精神のみとなり、そして自分自身と同一の体に吸い込まれて行きました。過去に戻った為、シンドウバットの意識も過去に巻き戻され未来の記憶も消えてしまいました。

遠くで耳鳴りが聞こえる……


 

97. シンドウバットの冒険(完結編 中)(20060920)


第拾壱夜 第七番目の後悔

耳鳴りの音が遠くから聞こえる。耳鳴りは段々近くなってくるように思われる。ああ、こうやって向こうからやってきた耳鳴りが頭に取り付くと、本物の耳鳴りになるのだな。目を開けてみると砂浜に横たわっていた。オレンジ色に空と海と地平線を染めた大きな太陽が沈む前の最後の光を投げかけていた。耳鳴りかと思っていたのは段々と満ちてきた海岸の波の音だったようだ。頬を砂にうずめたシンドウバットはのろのろと体を起こす。そうだ、船が大嵐で。その時のことを思い出す。風の音で乗組員の叫ぶ声が聞こえない。大揺れの船内は全ての固定されていない物がまるで既に波の中に放り込まれたかのように飛び回っている。大波が船を覆い尽くし……それから先は覚えていない。それから…大嵐に吸い込まれて大空に吸い込まれたような気もするが…思い出せない。砂浜を見渡すと……どうやらここは小島のようで……自分の他に流れ着いた乗組員はいないようだ。見渡す限り、船から漂着してきたようなものも見つからない。とりあえず食料と水を探すことにしよう。

自由意志というものを考えてみよう。もちろん、シンドウバット自身には自由意志があると自分では確信している。この航海も、後悔する様な結果になりそうだが、自分の自由意志で決めた事である。 ここで時間を巻き戻してみよう。自分が航海に出ると決心した時に舞い戻るとする。何一つ前回の時と変らない。そうすれば自分はやはり、あの時航海に出ると決心しただろう。すると、自分の意思で決めたとは言え、結果が全く変らないのならば、それはあらかじめ決まっているとも言える。すると、自由意志で決めたと思っていてもそれは、自由ではなくあらかじめ決まっていたことと言えるのではないか。シンドウバットの自由意志はどこに行ったのだ。

逆に、時間を巻き戻して、もしシンドウバットが航海を止めようと自由意志で決めたらどうだろう。周りの条件は同じなのに、自由意志の決定が違ったら、それは何に由来するのだろう。自由意志とはなんだろう。 そこまで考えた時に、気がついた。時間が戻ったということは、未来の記憶がなくなるということだ。だから、一回未来で決めた決心を、過去に持ち込んで判断することは出来ない。過去に持ち込めば、それは過去そのままではなく、違う過去となってしまう。周囲の条件が違うのだから、結果が異なってしまうこともありえるだろう。

……何故、こんなことを考えているのだろうと思ったところで何かにつまずいた。足元を見てみると砂に埋まっている壷に足が引っかかったらしい。拾い上げてみると古そうな壷で厳重に封がしてある。力ずくでその固い封を開けてみると中から白い煙がふき出し空一杯に広がったかとおもうと次第にあつまり人の姿となった。

「またお前か、三つの願いを言え。」

どうやら悪魔が封じ込められていた壷をあけてしまったらしい。

「またって、初対面だと思うが。」

「いいから願いを言え。魂は貰うが。」

「じゃあ、私を、私の家まで運んでくれ。」

「ようがす。」

悪魔が返事して瞬きを一つする間に、シンドウバットは自分の家の前に立っていました。喜んで家に飛び込むと、妻が浮気をしていました。

愛する妻に裏切られたシンドウバットはもう何もかも嫌になりました。部屋の中に一人座るシンドウバットの前に悪魔が現れました。

「二つ目の願いを言え。」

「心の平安をくれ。」

「ようがす。」

悪魔が返事して瞬きを一つする間に、シンドウバットの周りには何もなくなってしまいました。見渡す限り何も見えない真っ黒の中空にひとりシンドウバットは浮かんでいました。心を揺り動かす愛も恋も金も名誉も地位も何も無いので、心が揺れ動くことはありません。けれどもこれではあんまりです。

「これではあんまりだ!」

目の前に悪魔が現れました。

「最後の願いを言え。」

シンドウバットは考えました。元に戻してくれと言うのは簡単だがもっといい手があるに違いない。よくよく考えたい。そうだ、いい願いを思いついたぞ。

「最後の願いは、願いをもう三つかなえてくれ、だ。」

「やっぱりそれか。では三つ願いをかなえてやれるよう、お前が三つの願いを言う前の過去に戻してやろう。それともこのループを抜け出すようにしてやろうか。   一覧 トップ 

なんのことやらよくわからないシンドウバットが黙っていると、シンドウバットの体はどこからか吹いてきた突風に巻き込まれ、上のほうに……どちらが上だかわかりませんが…飛ばされて行きました。くるくるくるくる回っている内に、見覚えのある光景が見えてきました。夕日に照らされた砂浜に横たわる人影が。シンドウバットその人です。くるくると回りながらシンドウバットを眺めているシンドウバットは、時空を越えたため精神のみとなり、そして自分自身と同一の体に吸い込まれて行きました。過去に戻った為、シンドウバットの意識も過去に巻き戻され未来の記憶も消えてしまいました。

遠くで耳鳴りが聞こえる……


 

97. シンドウバットの冒険(完結編 中)(20060920)


第拾壱夜 第七番目の後悔

耳鳴りの音が遠くから聞こえる。耳鳴りは段々近くなってくるように思われる。ああ、こうやって向こうからやってきた耳鳴りが頭に取り付くと、本物の耳鳴りになるのだな。目を開けてみると砂浜に横たわっていた。オレンジ色に空と海と地平線を染めた大きな太陽が沈む前の最後の光を投げかけていた。耳鳴りかと思っていたのは段々と満ちてきた海岸の波の音だったようだ。頬を砂にうずめたシンドウバットはのろのろと体を起こす。そうだ、船が大嵐で。その時のことを思い出す。風の音で乗組員の叫ぶ声が聞こえない。大揺れの船内は全ての固定されていない物がまるで既に波の中に放り込まれたかのように飛び回っている。大波が船を覆い尽くし……それから先は覚えていない。それから…大嵐に吸い込まれて大空に吸い込まれたような気もするが…思い出せない。砂浜を見渡すと……どうやらここは小島のようで……自分の他に流れ着いた乗組員はいないようだ。見渡す限り、船から漂着してきたようなものも見つからない。とりあえず食料と水を探すことにしよう。

自由意志というものを考えてみよう。もちろん、シンドウバット自身には自由意志があると自分では確信している。この航海も、後悔する様な結果になりそうだが、自分の自由意志で決めた事である。 ここで時間を巻き戻してみよう。自分が航海に出ると決心した時に舞い戻るとする。何一つ前回の時と変らない。そうすれば自分はやはり、あの時航海に出ると決心しただろう。すると、自分の意思で決めたとは言え、結果が全く変らないのならば、それはあらかじめ決まっているとも言える。すると、自由意志で決めたと思っていてもそれは、自由ではなくあらかじめ決まっていたことと言えるのではないか。シンドウバットの自由意志はどこに行ったのだ。

逆に、時間を巻き戻して、もしシンドウバットが航海を止めようと自由意志で決めたらどうだろう。周りの条件は同じなのに、自由意志の決定が違ったら、それは何に由来するのだろう。自由意志とはなんだろう。 そこまで考えた時に、気がついた。時間が戻ったということは、未来の記憶がなくなるということだ。だから、一回未来で決めた決心を、過去に持ち込んで判断することは出来ない。過去に持ち込めば、それは過去そのままではなく、違う過去となってしまう。周囲の条件が違うのだから、結果が異なってしまうこともありえるだろう。