93. 「シンドウバットの冒険(後編)」(20060916)


第七夜
第五番目の航海

シンドウバットが毎度のごとく難破して辿り着いたところは普通の島でした。
島を歩いていると、何だかあわれに見えるおじいさんがこの小川を渡らせてくれと、手まねでたのみました。
シンドウバット親切にもおじいさんを肩車して小川を渡りました。
それから、その人をおろそうとしました。
するとどうでしょう。
おじいさんは降りようとしません。


これは、噂に聞く海爺だ。
シンドウバットは左右に体を捻って海爺を振り落とそうとする。
海爺は落ちない。
いや、むしろ両方の足でますます私の首を強くしめていく。
ぬふう。
海爺の足はシンドウバットの頚動脈にわずかにずれている。
ありがたい。
まだ完全に海爺の締技が決まったわけではない。
じりっじりっと肘を爺の足と己の間隙に割り込ませる。
するり。
爺の足に割り込んだ
と思った刹那。
爺は俺の肩と頭を掴み、くるりと体を半回転させる。
肘から巻き込んで俺の首を締め付ける。

なんという技。
なんという身の軽さ。
まったく、なんというものを見たのか。
なんという絡み方なのか。
今、眼の前に見たばかりのとてつもない光景。
それは、自分は、本当に見たのか。
俺は、震える足を、前に踏み出した。
関節を極める…それはここまでやらなければいけないのか。
否 いけないのだ。

膝が、がくがくと震えていた。

何か、凄まじいものが、背を駆け抜けている。背を駆け登ってゆく。
まだまだだ。
爺の二の腕に引っ掛けた人差し指をまたじりっじりっと差し込んでゆく。
たまらねえ。
海爺とシンドウバットの関節技の応酬はまだまだ続く。


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