92. 「小麦粉か何かだ」(20060915)


第六夜
千夜一夜物語

 

昔昔、アラブに偉大なるシャフリヤール王がありました。ある日、狩に行くのをとりやめて寝室の窓辺で休んで降りましたところ、妃が従者を二十人ばかり連れて寝室に入ってきました。最愛なる妃を驚かそうと思い、王様は陰に隠れておりましたところ、妃の従者達が一斉にそのベールと衣服を脱ぎ捨てました。なんと女官の扮装をしていた従者の半分は男であったのです。妃はその者たちと不貞を働き、その一部始終を見ていた王様は驚き嘆き、妃とその従者達の首をはねてしまいました。

女性不信となったシャフリヤール王は、それから妻にした女が不貞を働かないように、初夜の後すぐに殺すことを繰り返しました。それを三年もの間続けたため、やがてシャーの妻になろうとする若い女がいなくなってしまいました。大臣の娘、シェラザードが名乗りを挙げました。大臣は泣いて止めましたがシェラザードの決意は固く、妃となることとなりました。

シェラザードは初夜の晩に王様に話を始めた。

幸い多き王よ。私の聞き及びますところ、昔昔、このようなことがあったと伝えられているということでございます。

昔昔、アラブに偉大なるシャフリヤール王がありました。ある日、妃が従者を二十人ばかりと不貞を働いているのを見つけてしまいました。王様は驚き嘆き、妃とその従者達の首をはねてしまいました。

女性不信となったシャフリヤール王は、それからは初夜の後すぐに殺すことを三年もの間繰り返しました。シャーの妻になる若い女がいなくなってしまったので、大臣の娘、シェーラザードが名乗りを挙げました。

シェーラザードは初夜の晩に王様に話を始めた。

幸い多き王よ。私の聞き及びますところ、昔昔、このようなことがあったと伝えられているということでございます。

昔昔、王は妃が不貞を働いているのを見つけ女性不信となり、初夜の後すぐに殺すことを繰り返しました。妃となる女がいなくなってしまったので、大臣の娘、シェヘラザードが名乗りを挙げました。

シェヘラザードは初夜の晩に王様に話を始めた。

幸い多き王よ。私の聞き及びますところ、昔昔、このようなことがあったと伝えられているということでございます。

昔昔、女性を信じられない王が初夜の後すぐに妻を殺しておりました。それが知れ渡ったため妃となる女がいなくなってしまいました。大臣の娘、シェンラードは、初夜の晩に王様に話を始めた。

幸い多き王よ。私の聞き及びますところ、昔昔、このようなことがあったと伝えられているということでございます。

昔昔、女性不信王が毎晩妻を殺しておりました。シェラントーレは、初夜の晩に話を始めた。

幸い多き王よ。私の聞き及びますところ、昔昔、このようなことがあったと伝えられているということでございます。

シラザードは、話を始めた。

幸い多き王よ。私の聞き及びますところ、昔昔、このようなことがあったと伝えられているということでございます。

俗に巷で言われているように悪魔のような人だとか悪魔の所業だと申しますが、実際にその目で確かに悪魔を見たと言う人は少のうございます。しかしながら我々の乏しい想像の産物というわけではなく、悪魔というものは実際にいるのでございます。いるとは言ってもその姿は普段は見かけることは決してありません。その道に通じた人の囁くことを聞けば、普段は悪魔は鏡の裏側に住んでいるということでございます。その悪魔をつかまえれば魂と引き換えに三つの願いを聞きいれてくれると申します。これはそうして悪魔を捕まえた男のお話であります。

その男は三つの願いをかなえるために悪魔を捕まえる方法をついに知りました。そのために親からの財産と家族の愛情をすべて失いましたが、その情熱は他人には窺い知れぬものがあったということです。

13日の金曜日になろうとする夜中の午前零時のその少し前に一本の蝋燭に火をつけました。そしてその蝋燭を真中に置き、二枚の鏡を合わせ鏡にしてそして忌まわしき呪文を−その呪文自体は聞き及んでおりませぬゆえ、私は知りませんし知ろうとも思いませんが−呪文を唱えます。合わせ鏡の無限に繰り返される鏡と蝋燭と鏡と蝋燭と鏡と蝋燭とのさらに向こうをじっと眺めておりますと、その更に向こうから黒い虫……いや黒い人影が鏡を次々と乗り越えてこちらに向かってくるではありませんか。13日の金曜日になろうとするその丁度零時零分に目の前の合わせ鏡の間を通り抜けようとするその黒いものを、その尻尾を掴まなければいけません。

やあ、おれを捕まえた人間は千年振りかな。なんだ三つの望みを言え。代わりに死後お前の魂をもらう。

その男は考えに考え抜いた望みを言います。

「まず一つ目はどういう願いをするのが一番いい願いなのか教えろ。というのが一つ目の願いだ。」

なんだ、それでいいのか。まず一つ目は千年前に生えたジュグラムの木の天辺から3つ目になったジュグラムの実で育てた天竺ネズミだけと白山羊の乳だけで育てた白猫の誕生から百八日目の朝に目覚めて初めて歩き出す方向を見ずに知る方法を教えよ。というのがその願いだ。

「おいおい、『まず一つ目』ってなんだよ。」

一番いい願いとは、三つの願いを順番に組み合わせて初めてその結果が一番よいものとなる。一つでも欠けたりその順番やタイミングを間違えればその結果は逆向きとなり、願いを叶えようとするものに大いなる災いをもたらすであろう。さあ、二つ目の願いの質問に答えたぞ。最後の願いを言え。

「ちょっと待て。いや、今のは願いではない。待たなくてよい。しかしそれは詐欺みたいなものではないか。ちょっと考えさせてくれ。いや、今のも願いではない。考えさせなくてもよい。ええと。」

早くしないと帰るぞ。

「わかった。その願いの結果を私にもたらせ。」

なんだそんなことでよいのか。では契約は結ばれた。さらばだ。

悪魔はつかまれた尻尾をするりと抜き、合わせ鏡に飛び込んで無限の向こう側に走り去っていきました。

それから男はどんないいことが起こるのかわくわくしながら待ちましたが、何も起こりません。特に幸運や金が地位や名誉が舞い込むこともなく、かといって全く何も起こらぬわけでもなく、平平凡凡に過ごしたということだそうです。怒った男は悪魔に抗議しようと、再び召還の儀式を行おうとしましたが、何故か召還が成功することはなかったということでございます。妾が考えますに、一番よい状態と言われた悪魔は、人間にとっては平平凡々な平穏な変化がない状態が一番よいと考え、それを実現するために、外界の影響を受け難い事がわかっている、すなわち自分が住んでいるところの合わせ鏡の中に閉じ込めてしかったのではないでしょうか。

ちょうど私どものように。

シラザード、の話の続きはまた明日。

シェラントーレは、話を止め、続きは翌日となった。

シェンラードが申すには王様、続きは明日でございます。

シェヘラザードは、「幸い多き王様よ。続きは明日にしとうございます。」と言った。

シェーラザードは話を中途で止めるとこのように言った。

「王様。もう朝でございます。お許しをいただければこの続きはまた明晩申し上げたいと存じ上げます。」

シェラザードは話を中途で止めると王様に向かってこのように言った。

「幸い多き偉大なる王様。朝の礼拝の時間でございます。お許しをいただければ、この続きはまた明晩申し上げたいと存じ上げます。」


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