89. 「シンドウバットの冒険(前編)」(20060912)


第参夜

シンドウバットの冒険

第壱番目の航海

 シンドウバットの船は青々と草のはえた、平たい小さな島のそばを走っていたのでございます。その島は、まるで牧場のようで、その向うに青々とした海が見えておりました。シンドウバットはこの緑の牧場に上りました。シンドウバットが、島だとばかり思っていたのは、本当は、昼寝をしていた、鯨の背中だったのです。シンドウバットが船まで辿り着かないうちに、鯨は海の中に潜ってしまいました。取り残されたシンドウバットは波にもまれながら、とうとう、置き去りにされてしまったのであります。

 そうして板切れにつかまって何日経ったことでしょう。水平線の向こうから船がやってくるのが見えるではないですか。おおいおおい。声を限りに叫ぶと、ああ、ありがたい、船はこちらに近づいてくるではありませんか。ああ助かった。シンドウバットはたすけてくれえと船に向かって叫びました。しかし、なんということでしょう、それはグリーンピースの船だったのです。鯨の背中で焚き火をしたことが、動物虐待だとされ、グリーピースからつるし上げをくらい、彼らは非情にもシンドウバットを死を以って償うべき罪だとして大海原に置き去りにしてしまいました。シンドウバットは復讐に燃えました。俺をこんな目に合わせた鯨を許しはしない。鯨が最後の一匹となって絶滅するまで狩りつづけてやる。

後のエイハブ船長である。

第弐番目の航海

 シロナガスクジラを絶滅させたシンドウバットは、家へ帰って、しばらくの間は楽しく暮らしていました。しかし、まもなく、ぶらぶらとその日その日をおくることが、いやになりました。そして、海の上へ乗り出して、波の上をとぶように走ったり、帆づなをびゅうびゅううならせて吹いてゆく、風の音を聞いたりしたくて、たまらなくなり、二度めの航海に出かけました。

ある日のこと、私たちは、ある島につきました。 その島で昼寝をしていると、まあ、どうでしょう。船は、とっくに出てしまっているではありませんか。この島におき去りにされてしまったのです。

 すると、俄かにに空が黒くなり、見る見る夜がやってきたかと思われるほど真っ暗になってしまいました。空を見上げますと、大きな鳥が舞い降りて来て、その翼の大きいこと! 翼の影の為に突然の夜がやってきたのでございます。シンドウバットは思いついてターバンをといて、自分の腰に巻きつけ、それをしっかりとロック鳥の足にむすびつけました。

 はたして、まもなく、シンドウバットは地から持ち上げられました。そして、雲にとどくかと思うまで高くのぼってしまいました。地面に降りたロック鳥は私に気がつくとこう命令しました。ジャガイモ10kgの皮むきとタマネギ5kgをみじん切りね。開店までにやっておく事。しまったロック鳥だと思っていたが、コック長だった。シンドウバットは涙を流しながらタマネギをみじん切りにするのでした。

第三番目の航海

シンドウバットはその料理の才能を認められ、独立して店を出す事が許されました。それでこの前の時のように、品物を買いあつめて、商売の旅に出ました。
風の噂によると、シンドウバットは一つ目の大入道に捕まったり大蛇に襲われたりしてほうほうのていで逃れてきたということです。何があったのか自らの口からはシンドウバットは多くを語りませんでしたが、体の真中にある瞳の形は女性器の象徴であり、大蛇は男性器の象徴であることはジグムンド・フロイド先生の解説を待つまでもありませんね。


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