80. 「七つの顔を持つ男」(20051016)


松尾伴内ではない。かと言って松尾伴内ではない何かでもない。 これから書かれるはずの雑文に登場するはずの彼は、雑文の内容が未だ定まらないために、確固とした存在をとることが出来ずにいた。薄ぼんやりとした薄暗い部屋に、何をするでもなく座っているような中腰で立っているような姿勢でたたずんでいる。もしかしたら彼がいるのは部屋ではなく電車の座席かもしれない。彼の前で四角く光る何か模様の様な物が動いているようなものはパソコンの液晶画面なのかもしれないし、電車の車窓の景色なのかもしれない。ひょっとしたら洞窟の壁を照らす夕日なのかもしれない。

長いことこうしてきたような気もするし、今始まったことのようにも思える。早く雑文が始まらないかなあ

何もすることもないので折り紙でも折ってみる。

退屈しのぎに、彼は考え始める。

楚人有鬻盾与矛者。誉之曰、「吾盾之堅、莫能陥也。」又誉其矛曰、「吾矛之利、於物無不陥也。」或曰、「以子之矛、陥子之盾、何如。」其人弗能応也。

あれ、俺、今回は漢人という設定なのかな。中国人に知り合いはいないのだが大丈夫かな。歴史上の人物でも呼ぼうか。蒋介石の招待席を準備すればいいかな。

「どんな盾も突き抜く矛」と「どんな矛も防ぐ盾」を戦わせたらどうなるか、だな。 この二つの前提条件が正しいとすると、矛は盾を貫くと同時に盾は矛を防ぐ。通常は、この二つの状態は同時に成り立たない。しかし、これらの結果は、量子力学によれば、観測者による観測行為がなされた後、初めて確定する。シュレディンガーの猫と呼ばれる有名な思考実験と同じと考えられる。シュレディンガーの猫についての詳しい説明は、ええと、長くなるので大西科学さんに任せるとして、結論を急げば、すなわち、観測者が観測するまではこの両者の状態が重なりあったままの状態であり、観測者が観測することによりはじめてどちらかの状態に遷移し、事実が確定する。

即ち、暗い箱の中で行われた矛と盾の実験においては、蓋を開けるまではその状況は確定していないため、矛盾は発生しないことになる。箱の中では矛を防いだ盾と矛に破られた盾が重なった状態で、その結果が未定のまま、どっちつかずのまま蓋が開けられるのを待っている。

雑文が書かれる前には登場人物が確定しない状況と似ているではないか。

彼(ひょっとして彼女、もしかして猫、さもなくば犬、限定して博士、それならば助手、まさか水くらげ。雑文が書かれる時に、登場人物として何になるのかは、今の段階ではわからない。七つの顔を持つ男状態である)はそこまで考えたが、オチが出てこないことに気がついた。オチが出さえしてくれれば雑文が書かれる。そして自分が何者なのかはっきりする。オチよ出て来い。早く。

 

 

オチは未定である。


未定雑文祭参加作品
(1) Flashを挿入しなければならない。
(2)「七つの顔を持つ男」というタイトル。
(3)「松尾伴内ではない」で始まる。
(4)「オチは未定である」で終わる。
(5)「蒋介石の招待席」というフレーズをどこかで使う。


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