<U>ラインアンダー</U>      

54. <U>ラインアンダー</U> 030904


これは殺人事件だ! キーワードは「テーブルの上」!

 と、針井探偵は直感した。部屋の真ん中に置いてある大きなテーブルの上にはナイフで背中を刺され、首をヒモでしばられ、頭が拳銃で撃ちぬかれた被害者が載っている。どこからどう見ても殺人事件のように見える。名探偵として、誰が見ても事故か自殺にしか見えないものを殺人事件だと指摘するならともかく、あからさまに殺人事件に見えるものを殺人事件と指摘するのはプライドにかかわる問題である。そういうのはワトソン役とか警部役に任せておけばよろしい。そういうわけで、とりあえず黙っておくことにした。

 大抵の場合、探偵に払われる費用は日当プラス必要経費であるのだから、登場と同時にさっさと事件を解決してしまうのは一番効率が悪い。だらだらと事件を引き延ばして、料金を細く長く受け取るというのがいちばんよい。長引かせることにより連続殺人事件の被害者は増え、事件は大きくなり、世間は騒ぎ、最後に解決すれば名探偵との評判があがるというものだ。できれば、事件が解決した後も探偵料をいただけるようなシステムならもっといい。名探偵ならさっさと事件を解決してしまうはずで、連続殺人事件を防げないのはヘボな探偵であるとしたり顔で批評する評論家もいるが、我々だってカスミを喰って生きるというわけではない。どうでもいい事件をいかに派手に発展させるか。そこが名探偵の腕の見せどころである。しかし、あまりにも解決せずにぐずぐずしていると雇い主が痺れを切らして「こんな馬鹿探偵を雇うな!」いと1)もかんたんに解雇されてしまう。そうなる前に、適当な糸2)口を見つけて事件を解決するのが腕の見せ所。バランスが大事である。

 この天才的な頭脳を働かせてうっかりと解決してしまったら困るので、いかに延長料金をとるかについて考えて暇をつぶすことにした。どうせ実況検分とかで何も出来ないしさ。延長料金をいただくケースを想定すると、たいていの場合は時間の延長に伴う料金の増加である。しかし、延長されるのは時間に限るわけでもなかろう。発想を変えて、たとえば料金を延長してみよう。結果として縦長の紙幣や薄っぺらな楕円形の硬貨が出現する。よく知らないがなにか法律に触れるような気がする。あくまでも私の勘ですが。勘。

 法律に触れるのは私の本意ではないので、ここでは別の物を延長してみよう。(ちなみに、別の物を延長せずに、別の者を園長にすると園児が戸惑うので細心の注意が必要である。) 延長といえば何と言っても高校野球でしょうか。延長18回裏、ツーアウト満塁カウント2−3。ここで一発が出れば逆転です。ピッチャー振りかぶって投げた! ここで延長料金未払いの為、試合は没収されました。南……甲子園につれていけなくてごめんな。…タッチャン…。(さらに、高校野球を延長せずに、別の物を延焼すると火災保険の支払いがややこしくなるので細心の注意が必要である。)

 では、別の物を延長してみよう。最近、your penis 3inch increase ! というスパムが大量に舞い込むのだが、これに金を払って購入するとこれがほんとの延長料金。3inch延長というと14inchテレビが17inchモニターに昇格である。CRTならともかく液晶やプラズマなら結構なお値段の差である。これは試してみる価値があるかもしれない。購入してノートパソコンにふりかけてみる価値があるかもしれない。(ないかもしれない。)(さらに、3インチ延長せずに、3人の師を円生にすると落語教会が黙っていないので細心の注意が必要である。)

 と、ここまで考えたところで急に部屋の電気が消え悲鳴が響き渡る。なにか明りは無いか。明りは。こんな時に限って懐中電灯を持ってきていない。懐中電灯ないと3)何も見えなくて困る。

 壁のスイッチを探り当て明りをつけると部屋中の人が死んでいる。犯人が逆上して皆殺しにしてしまったらしい。その犯人はというと、もうこれまでと観念して自殺している。やれやれ、皆死んでしまっては延長料金もとれないではないか。しかし、めまぐるしい夜だったなあ。まさに走馬灯ナイト4)。また事件を探さなきゃ。どこかに良い殺人事件ありませんかねえ。

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1)トゥナイト
2)トゥナイト
3)トゥナイト
4)トゥナイト
5)今夜こそお前を落としてみせる


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