昨年(2023年)5月29日のコラムで、米西側とロシアの全面対決の問題を取り上げた際に、ジオポリティカルエコノミーWSに掲載された2人のマルクス主義経済学者(マイケル・ハドソンとラディカ・デサイ)の対談の内容を紹介しました。2人はその後もこのWS上で様々な問題について対談を行っており、私も関心を持ってフォローしてきました。3月28日の同WSは、「中国経済の真実-西側メディアの「神話」を正す-」(原題:"The truth about China's economy: Debunking Western media myths")というテーマで、サセックス大学名誉教授で現在は中国社会科学院に在籍中のミック・ダンフォードも加わった3者鼎談の形で、中国社会主義市場経済について議論しています。
 私はかねがね、中国経済について西側(メディア及びいわゆる専門家諸氏)が垂れ流す事実をひん曲げる情報にうんざりしてきました。悲しいことに、私は経済学の素養がありませんので、これらの誤った情報を正すだけの力量がありません。今回、この鼎談を読むことで、私が素朴に感じてきたことは間違いではないことを確信しました。一言で言えば、中国社会主義市場経済は西側経済とは根本的に異なる原理・原則に基づいて運営されているのに、西側は新自由主義資本主義の「モノサシ」に基づいて「色眼鏡」で云々するのですから、正しい判断が導き出されるはずがありません。今回、3人の専門家が正しい「モノサシ」で、いくつかのテーマ(西側の対中非難・批判例を含む)について、中国社会主義市場経済を正確に判断してくれたおかげで、私の漠然とした印象はかなりシャープなイメージにまで昇華しました。さわりの部分を紹介することを思い立った次第です。ただし、発言をそのまま記録しているために分かりにくい箇所も散見されます。私の解釈・理解を交えて訳している部分もあることをお断りしておきます。間違いもあるかもしれません。原文に当たりたい方は→https://geopoliticaleconomy.com/2024/03/28/china-economy-western-media-myths/でどうぞ。
 司会役のデサイは、①中国経済の本質(資本主義か社会主義か)、②経済成長、③コロナ対応、④不動産バブル、⑤消費水準、⑥新成長戦略、⑦「債務の罠」、以上8つのテーマを設定しています。鼎談はこの示されたテーマ順に展開されています。

<中国経済の本質>

(ダンフォード)

 私は中国を、5カ年計画システム及びより長期的計画を行う「計画的合理国家」(a planned rational state)、より正確には、「市場メカニズムを使う計画的合理国家」(a planned rational state that uses market instruments)と特徴付けたい。中国システムにおけるもっとも基本的な要素は、資本が国家を管理するのではなく、国家・共産党が資本を管理するという点にある。このシステムによって中国は世界最貧国から最大の工業国へと変質した。つまり、中国共産党が絶対的な基本的役割を担う計画的合理国家ともいえる。このことなくして、国家主権を確立した中国が自らの条件に合った道を選択し、人々の生活条件を急激に改善することは可能にならなかっただろう。

(ハドソン)

 問題は、国家とは何かということだ。中国に関してはいくつかの特徴がある。まず公共インフラについて中国が目指しているのは、インフラ独占により事業にかかるコストを低くすることだ。レーガン・サッチャー(新自由主義)のもとでは、電話事業、運輸事業を投資家(企業)が買い占め、独占的価格設定で利益を得る。中国ではそれが許されないのでアメリカの投資家は頭にくるわけだ。次にそしてもっとも重要なことは、通貨供給及び銀行機能の権限を国家が握ることだ。アメリカが望むのは、アメリカの銀行が中国におけるすべての貸し付けを支配し、中国の成長による利益を手に入れることだ。しかし、中国では中央政府がそれを行うし、貸付先も自ら決定する。もう一つは人々における国家理解で、中央集権化された経済、中央集権化された計画経済ということになる。
 ただし、中国は世界でももっとも集権化されていない経済である。というのは、中央政府は地方に大幅に権限を与えているからだ。地方(省市・県・鎮等)はそれぞれの方法で予算を調達する。その大宗が不動産取引だ(これが中国不動産バブル問題に直結する)。
 中国の国家セクターがアメリカにおける国家セクターと異なること、集権化された計画、金融目的に基づく中国金融部門支配等々、要するに、中国は我々の常識的見方とは真逆の実体ということだ。

(デサイ)

 二人の発言を補足する(浅井:より丁寧な解説)。かつてのソ連、東欧諸国もそうだったが、中国も自らを社会主義・共産主義と名乗ったことはない。「社会主義の建設途上にある」としている。そして、中国共産党指導部は社会主義への移行期が長いことを理解している。
 建国当初から、中国は多階級・多党国家である。1978年以後は、政府は経済に対する統制を緩めた。しかし、重要なことは、共産党が国家に対する統制を維持していることだ。中国には大勢の資本家がおり、共産党内でも影響力を持っている。中国を社会主義たらしめ、社会主義への道を歩ませているゆえんのものは、最終的権力の手綱が中国共産党指導部の手中にあるという事実にある。そして党の正統性は中国人民に由来する。以上の意味において、中国は社会主義であると言うにふさわしい。中国にはかなり大きな私有セクターがあるが、国有セクターも極めて大きい。そして共産党は国の成長及び開発の全体的ペース及びパターンに対して統制力を維持している。
 特に金融セクターは国家の強い統制下にある。中国の金融システムは、経済の生産能力及び人民の物質的豊かさを改善するための長期的投資に対して通貨を供給するべき立場にある。その点において、中国の金融セクターはアメリカの金融セクターとはまったく別物である。
 さらに付け加えることがあれば、どうぞ。

(ダンフォード)

 中国政府は、全中国人民の生活の質を向上させることに関わる戦略的目標を設定する。この戦略的自立性により、中国は独自の発展の道筋を選択することができる。この点において、中国は他のグローバル・サウス諸国と決定的に異なる。すなわち、多くのグローバル・サウス諸国は、対外債務及びワシントン金融制度への従属によって、自国経済の発展に大きな困難を抱えている。この違いは極めて重要である。主権及び自立性のおかげで、中国は自国の条件に合致した選択を行い、中国人民全体の生活の質を改善するための長期的かつ戦略的な目標を設定することができる。

(ハドソン)

 主権の有無が決定的違いを生む。主権を失い、米欧の銀行が入り込んでくれば、新規投資にローンを融資することはできず、融資対象は不動産、テークオーバー、私有化となる。外国に依存する国家は主権を喪失する結果となる。これに対して、主権を守る中国は、通貨を公共領域に確保し、目に見える投資のために通貨を造出する。

(デサイ)

 2人の指摘はとても重要だ。ありがとう。
 最後にもう一点。それは、中国経済及び中国国家をどのように特徴づけるかということだ。国家が経済を統制するというだけでは不十分であり、「誰の国家か」が問われなければならない。アメリカは巨大企業、極端に金融化した大企業に支配されている。そして、これらの大企業はアメリカ経済を際限のない債務増大に追い込んでいる。

(ダンフォード)

 中国の政策決定プロセスに注目することも重要だ。中国は実質的デモクラシー(substantive democracy)の見本である。中国人民全体のための実質的結果を生み出している。中国ではまた、政策決定、試行錯誤、デザイン、選定等々についても手順があり、デモクラシーの基本的要素を備えている。西側諸国は中国を権威主義と特徴づけるが、これは中国のシステムの性格及びその機能に関する誤解に基づく。西側ではデモクラシーをシステムとしてしか理解しないが、デモクラシーには様々なモデルがあり、中国はそうしたモデルの一つである。

(デサイ)

 中国では最近「全過程民主」("whole process democracy")とも名づけている。つまり、もっとも基層的なレベルをも含めた多段階レベルでの協商システムだ。そしてこれが機能している。中国指導部はまた、方向を現実的に転換する能力・柔軟性も備えている。物事がうまくいかない場合、中国指導部は試みたことを検討し、なぜ誤ったかを判断し、そしてやり方を工夫し直す。

(ハドソン)

 デモクラシーについて。デモクラシーの伝統的な意味は「少数による支配(オリガキー)を防ぐこと」にある。人民が豊かになるに伴い、オリガキーの台頭を防ぐには一つの方法しかない。それは強い国家を持つことだ。つまり、強い国家の役割はオリガキーを防ぐことにある。したがって、デモクラシーのためには強い中央政府が必要だ。アメリカではこれを社会主義と呼び、デモクラシーとは正反対のものとする。ちなみに、アメリカにおけるデモクラシーは、アメリカの政策に従い、銀行が経済を金融化することだ。

<経済成長>

(ダンフォード)

 (IMF統計・予測値を紹介しつつ)中国の経済成長率は、G7諸国の平均成長率よりもはるかに高い。昨年(2023年)の中国の成長率は5.2%であり、本年は約5%を見込んでいる。IMFの予測では4.6%だ。この4.6%という数字でも、中国の2035年の目標値を達成するのに必要な成長率に極めて近い。中国の目標とは2035年までにGDPを倍増することだ。この目標は完全に実現可能だ。したがって、中国経済は今がピークだという西側の見方にはまったく同意しない。そもそも、経済状態が極めて良くない西側諸国が中国に説教しようとすること自体が驚きだ。これが第一点。
 中国の成長率が鈍化しており、多くの問題を抱えていることは事実だ。習近平自身、新年の辞の中で、今後数年が試練の時であることを認めている。中国指導部及び国民は、中国は今構造的変革を経験しており、多くの困難、試練に直面しているということを十分に自覚している。しかし、同時に確かなことは、人々が直面している多くの問題に対処するべく、政府は重要な手立てを講じているということだ。
 例えば、今年の李強首相の政府活動報告では雇用造出問題に言及し、特に大学卒業生をはじめとする若者のために1200万の新規雇用機会を造出するとしている。ちなみに、若者の失業率は21%、都市の失業率は5%だ。本年の政府支出は生活関連にも重点を置いている。住宅、雇用、保険、年金、幼児教育、老人の生活条件等々。世界の他の国々と同じく、中国は試練に直面しているが、それらの問題に真正面から取り組んでいるのだ。これが第二点。

(ハドソン)

 重要なポイントはGDPの内容だ。60年前に自分(ハドソン)が学校に通っていた時代は、エコノミストの言うGDPは実体経済に関わるものだった。しかし、現在のアメリカのGDPの多くは利子、クレジット会社の当座貸越費用、資産保有者の資産価値等である。しかし、中国のGDPについて言えば、これらの要素がどれほど含まれているか疑問である。また、これらの要素を含めれば、中国のGDPはもっと大きくなるだろう。

(デサイ)

 ハドソンの言うとおり、アメリカのGDPの成長率に関する数字は金融関連によって極めて水増しされており、実質的なGDPはもっと低いだろう。

(ダンフォード)

 2013年以後、中国は成長率目標を低く設定し、年率6-7%の成長率にするという選択をした。そして、コロナが勃発するまでは、概ねこの成長率を維持した。中国が達成しようとしているのは質の高い成長(high-quality growth)である。中国がやろうとしているのは、新産業革命を念頭に置いた経済の徹底的な構造変革である。具体的には、生産性の高いセクターに資金を振り向け、伝統的産業を変革させるべくデジタル・テクノロジー及びグリーン・テクノロジー向けに融資することだ。

(デサイ)

 世界が量子コンピューティング、ナノテク、AI等のニュー・テクノロジー活用の入り口にある今、資源配分について集権化された政策決定プロセスを持つ中国は、企業の決定に委ねる西側のアプローチよりもはるかに優れている。
 中国の経済成長に関してもう一点補足しておきたい。購買力平価における一人当たりGDPについてだが、1980年当時はほぼゼロだったのに、2020年には約2万ドルに達している。極めて重要な成果だ。しかも、中国は13億の人口だから、これは歴史的偉業と言える。

(ダンフォード)

 一人当たりGDPにおいて、中国は日本よりまだはるかに低いレベルにある。両国間にはまだテクノロジー・ギャップが存在するから、中国の成長の余地は巨大なものがある。日本は半導体製造を諦めるなどで経済は停滞したが、(テクノロジー開発にも貪欲な)中国の成長は今後も続くと見るべき理由がある。

<コロナ対応>

(デサイ)

 (2008年から2023年にかけての米英独日中のGDP成長率統計グラフ(IMF発表に基づいて作成)を示しつつ)2020年にはコロナのために5カ国すべてでGDPが大きく落ち込んだが、西側諸国がマイナス成長に落ち込んだのに対して、中国だけはプラス成長を維持した。しかも中国は人命を最優先したにもかかわらずだ。

(ダンフォード)

 確かに武漢、上海のような深刻なケースはあったが、中国のシステムは人命保護に極めて有効であるということであり、しかもデサイ指摘のとおり、中国経済は順調に推移し続けた。

(ハドソン)

 アメリカのコロナ対策は失敗だったと言われているが、(私に言わせれば)アメリカはコロナを人殺しのチャンスに使った。アメリカの対策は65歳以上についてはできるだけ感染させるということだった。その結果、州以下の自治体の予算のバランス化に貢献した。疾病管理センターの公式政策は死亡率を高めることだ。

(デサイ)

 しかも皮肉なことに、アメリカのGDPはもっとも大きく落ち込んだ。

<不動産バブル>

(ダンフォード)

 (中国の不動産バブルの)問題は1988年に住宅保障システムから商品システムに移行するという住宅政策の改革から始まった。1988年に「単位」(浅井:所属先)毎の住宅供給だったのを民営化し、住宅供給は商品としてディベロッパーが行うという政策を採用した。2003年にこの方針が確認されたのを契機に、民間ディベロッパーが大幅に増えた。こうして住宅供給は市場システムに移行したわけだ。その結果、住宅の品質及び一人当たりのスペースは向上したが、ディベロッパーの関心は富裕層向けであり、中下所得者層向けの住宅供給は停滞することとなった。
 重要なポイントは、この自由化システムは1993年の世界銀行の勧告に沿って行われたということ、そして、中下所得者層向けの住宅供給が滞ったのは市場主導、民間主導のシステムが原因だった、ということである。2020年8月、中央政府は住宅価格の上昇及び多くのディベロッパーの負債増加に重大な関心を寄せることとなった。中央政府は、アメリカにおける自由化された住宅システムが引き起こした問題に中国が直面することは許さない、という断固とした方針をとり、金融リスク削減のための「三つのレッドライン」(中国語:「三条紅線」)と呼ばれる政策を導入した。
(浅井注)「三つのレッドライン」とは、①負債対資産比率(前受金を除く)が70%超になること、②純負債比率が100%を超えること、③現金に対する短期負債の比率が1以下となること。その意味は、①自己資本比率が30%超であることが必要、②資本金が負債額より大きいことが必要、③有利子負債を返済できる現金を確保すること、と説明されています。
 この政策は住宅市場に対してデフレ効果を伴ったため、ディベロッパーの中には負債が資産額を大幅に超過する事態に直面するものが現れ、その結果、住宅投資が減少した。しかしこれは、生産性の高い活動に資本を振り向け、住宅市場における投機的活動を抑制するという政府の意図に沿ったものだった。中央政府はまた(中下所得者層向けに)住宅価格を引き下げることも意図していた。
 ディベロッパー大手の恒大(エバーグランデ)の負債は3000億ドル、海外における負債は200億ドルに達していた。これに対して資産額は、昨年(2023年)第四4半期決算によれば2420億ドルで、そのうち中国大陸における資産が90%だった。ということは、負債対資産比率は84.7%だ。三つのレッドラインの70%を大幅に超過していた。
 恒大は2021年にデフォルトとなり、本年(2024年)1月には、海外債権者と会社との間で再建計画に関する合意が成立しなかったために清算を命じられた。中国国外では、恒大が巨額の利益をもたらす不良債権取引機会と見なされたし、多額の資産を伴うデフォルトしたオフショア債券があったため、当初は、中国政府が不動産市場を下支えする可能性があるとの見方から、米欧の多くのヘッジ・ファンドが借金を積み上げ、多額の支払いを期待した。
 しかし、中国政府はオフショアの請求者がオンショアの収益・資産を確保することを許可することには極めて消極的だった。そのため、恒大の再建計画に関する交渉は当初から広東省リスク管理委員会の監督の下に行われたようであり、また実際に資金の悪用を阻止するため、中国の約10省が予約販売収入を差し押さえ、保管口座に預け入れた。その趣旨は、住宅購入の頭金を払った人々の家が実際に建築され、住宅建設を請け負った人々に支払いが行われることを確保することにあった。その結果、オフショア債券の価値は急速に下落した。恒大問題に関する国際金融市場の不満はこれに由来する。

(ハドソン)

 中国国内の金融セクターは、恒大その他のディベロッパー向けの融資に対してどれぐらいの担保を提供したのか。何か情報はあるか。

(ダンフォード)

 確実な情報はないが、接した文献によれば、これら国内の債権者は極めて巨額のヘアカット(担保掛け目)を強いられるとのことだ。(浅井:野村證券の証券用語解説集によれば、「担保掛け目(たんぽかけめ)」とは、「信用取引などにおいて委託保証金を差し出す際に、現金の代わりに有価証券をもって代用した場合、現金の担保価値を100%とすると、代用有価証券の担保価値はそれよりも低く評価される。評価される際の掛け目つまり比率のことをいい、掛け目は有価証券の種類によって異なる。」とあります。)

(デサイ)

 それが正にカギだ。つまり、ヘアカットとは富めるものの負担にするということだ。中国政府は、住宅を購入した庶民が損をしないことを確保するためにあらゆる手段を尽くしている。これは、アメリカにおける解決方法とはまったく逆だ。
 さらに付け加えれば、中国の不動産バブルは中国と西側の関係が良好だった時代の産物、つまり、規制緩和を勧告した世界銀行の意見を中国が受け入れた結果であるということだ。中国と西側の関係が良くない今、中国は二度とこのような勧告を受け入れることはないだろうし、仮に良くなったとしてもやはり受け入れることはないだろう。中国は間違いなく現実的で社会主義的な解決を目指している。
 李強首相は今年の全人代での報告の中で、公営住宅を優先事項とすること、すなわち、私有住宅制度ではなく、公共セクターで建設し、手頃な値段で貸し出すという方針を打ち出した。これは重要な政策で、正に進むべき方向だ。
 最後に、日本の不動産バブルに関しては、中国とは非常に違った結果になることが運命づけられている。日本は、かつては中国のシステムと似通った制度を持っていたが、今やアメリカの金融システムとほぼ同じであり、その報いを受けているということだ。
 この点はいわゆる「日本化」(Japanification)問題を理解する手がかりにもなると思うので、ダンフォードから説明してほしい。

(ダンフォード)

 (企業(金融関係を除く)、農村・農業、不動産、産業投資向け中長期融資の4セクターにおける2010年から2024年にかけての融資の流れを示すチャートに基づいて)2016年以後、不動産向け融資が急激に低下する一方、産業投資向け中長期融資は顕著に増加傾向である。農業向け融資は低下傾向にあったが、2016年からは上昇に転じた。以上から、経済の産業部門への投資が指向されてきたことが分かる。中国の目標の一つは、これらの伝統的産業を、大規模投資を通じてデジタル化し、環境フレンドリーにし、生産性を急速に向上させることを通じて強化し、質を向上させることにある。第二番目の目標はいわば新産業革命関連の投資を強化することだ。この目標実現に資する形での教育システムの変革にも力を注いでいる。以上から、中国が「日本化」のコースを歩むことはないだろう。

(デサイ)

 然り。中国経済の構造及びその構造から生み出される方向性が日本経済とは大きく異なることからいって、中国が「日本化」モデルに陥る可能性はないだろう。資本主義経済では、利潤を生まない経済活動は行われない。しかし中国では、中国政府が常々いうように、人民の福祉あるいは経済の生産力にとって必要であるならば、利潤を生まなくてもやる。つまり中国では、収益性という要素は資本主義社会におけるような役割を果たさない。
 もう一点。新規プロジェクトを開始し、そのプロジェクトに対して責任を持つという点で、中国では国家の役割が再び拡大しつつあり、この流れは今後も続くということだ。これは極めて好ましいことだ。
 さらに付け加えると、中国の一人当たりGDPは1980年代、90年代の日本よりもかなり低い。ということは、中国経済の拡大に対して国内消費が大きな刺激剤になるということだ。また、中国経済に果たす国家の役割が大きいことも今後の経済発展に対するプラス材料となる。

<消費水準>

(ダンフォード)

 中国は上位中所得国に属し、その平均消費水準は経済的により豊かな国々よりも低い。(1950年から2020年にかけての家計消費、商品サービス輸出及び総固定資本形成のチャートを示しつつ)GDPに占める消費支出のシェアは低下傾向を示す。近年におけるシェアは38~39%である。実は、中国がもっと貧しかった時代の消費レベルはもっと高かった(大躍進失敗時を除けば常に50%以上で、60%を超える年もあった)。しかし、(1980年代以後の)家計消費支出の低下はGDPが驚くべき割合で伸びた結果として起こっている。実際の消費支出額は一貫して大きく伸びてきている。今では4億人の人口が中所得カテゴリーに属しており、巨大なマーケットを構成している。
 もう一つ極めて重要なポイントは、近年における貧困問題の解決により、低所得者層の消費可能性を大きく変えつつあることだ。10~15年前までは、貧困世帯のほとんどは山岳農村地帯に集中し、所得が1.96ドル/日以下の絶対貧困層は8000万人いた。しかし、2013~2020年の間の精力的な貧困解消政策によって、これらすべてのものが絶対貧困ラインを脱し、さらに生活水準を向上させている。このことも中国における消費水準の大きな向上の可能性を示している。
 したがって、中国には消費問題があるという西側の主張に関しては、これまでの巨大な成果と照らし合わせて考える必要がある。

(デサイ)

 (世界全体、アメリカ、日本、イギリス及び中国の総固定資本形成に関する1960年から2020年にかけてのチャートを示しつつ)GDPは消費と投資の合計からなるが、中国のこれまでの成長は主に投資のシェアを拡大することで実現してきた。今日、中国のGDPに占める投資のシェアは、日本の成長がピークだった頃の40%近い水準をも超えており、年によっては45%の時もある。日本における投資の対GDP比は1990年代初から急激に低下し、今日では世界水準並みだが、経済が病んでいるゆえんだ。生産拡大、生産性向上には投資が不可欠だ。中国で投資に対する消費の比重が低いのは事実だが、そのことは物質的福祉のレベルを向上させることと両立しないということではない。近年の中国はそのことを実証している。
 中国が高い投資率を続けてきたことの結果の一つとして、中国が世界の工業センターになったというポイントがある。この点についてダンフォードから。

(ダンフォード)

 国連産業分類によれば500のカテゴリーがある。中国はすべてのカテゴリーにおいて存在感を示し、約40%において世界をリードしている。中国は完全に包括的な産業システムを持つ世界唯一の存在であり、そのことはまた、中国が産業レベル向上の基礎を持っていることを示している。中国はまだ一定の分野で立ち後れているが、それを克服するに十分な国内基盤を持っていることを示す。

(デサイ)

 中国はこうした投資により、テクノロジーにおける主導権も握っている。反中国が露骨なオーストラリア戦略政策研究所(ASPI)の最近の報告によれば、中国は44部門のテクノロジーの37部門(防衛、宇宙、ロボット、エネルギー、環境、バイオ、AI、先端材料、量子技術を含む)で世界をリードしている。

(ハドソン)

 以上の諸事実により、中国はますます輸入に頼る必要がなくなり、自給自足になっている。このモデルは、中国についてだけではなく、一帯一路イニシアティヴ全体についてもいえることだ。このイニシアティヴに参加している国々はアメリカ及びNATO諸国からの独立を目指し、ユーラシア圏対アメリカ・NATOという構図に向かっており、世界の多数派とアメリカ・NATOとの貿易はますます減少し、多数派内部の交易がますます増えつつある。

(デサイ)

 現在進行しているのは、中国が国際環境を再形成する(中国のいう「グローバリゼーション」(中国語:全球化)-後述-)の方向で対外政策を行っていることだ。一帯一路イニシアティヴは国際環境を再形成しようとする試みであるといえる。西側はロシアに対する代理人戦争を行うことで、中国に大きなプレゼントをした。なぜならば、この戦争によってロシアは確実に中国の胸元に飛び込むことになったからだ。しかも中国とロシアの経済的補完性は極めて大きいから、両国は今後ますます統合に向かうだろう。  しかも、ロシアは中国と同じことをやろうとしている。すなわち、ロシアの成長に見合う形で国際環境を再形成するべく、対外政策の再編を行っている。西側が方針を大転換しない限り、置き去りにされるだろう。この国際環境の再編成においては、中国がモーターとなり、ロシアがこれに付き従い、世界の多数派が同調することになるだろう。

(ハドソン)

 バイデン大統領及び前任者のトランプは世界に大きな貢献を行ってきたというわけだ。

<新成長戦略>

(ダンフォード)

 改革開放に乗り出した時期以後に焦点を絞る時、中国経済は基本的に、新自由主義世界経済に参入しつつ、自らを管理しつつ発展してきたといえる。その過程において、環境、不平等、腐敗等々、多くの問題に遭遇してきた。その現代化プロセスは西側現代化に倣ったものではなかった。すなわち、今日中国で起こっているのは、西側世界がたどったのとは異なる現代化の道を歩んでいるということだ。中国では生産性を向上させるテクノロジーが重視され、テクノロジーの拡散は投資によって促進されている。かつての成長の牽引役はもはやない。かつての成長の牽引役とは、低生産性・低賃金の輸出セクター、大量の資本がかかるプラットフォーム・エコノミー、すでに言及した不動産システム・住宅市場のことだ。
 すなわち、中国は成長牽引役を変えようとしている。同時に中国は「環境文明」と呼ぶ問題にも関心を払っている。つまり、自然界と調和的な関係を築き上げるということだ。中国はまた精神的な生活の質を豊かにすることにも関心を払っている。極端に個人主義的で、分裂している西側社会に対する批判的姿勢はそこから出てくる。中国は、個々人の文化的生活の質を改善し、人間存在の精神性を向上させようとしている。そういう指向性は、民主的アカウンタビリティ及びガヴァナンスに関わる中国的システムをさらに改善する必要があるという認識にもつながっているし、経済発展は平和的世界のもとでのみ実現可能だという考え方にもつながっている。このように、中国の現代化への道に関する考え方は西側とは異なっている。

(デサイ)

 中国は、2008年のリーマン・ショックに対応する方法として最初は大規模な投資ドライブに訴えたが、数年後には、中国経済の成長を促すのは国外ではなく、国内経済であると強調するに至った。またこれと合わせ、西側由来の「グローバリゼーション」(中国語:「全球化」)に中国独自の意味付与を行った上で、中国的「全球化」の重要性を説くに至った。
 西側がグローバリゼーションをいう時、それは基本的にイデオロギーであり、自由市場及び自由貿易(の推進)を指している。そこに込められているのは、政府は経済においていかなる役割も果たすべきではなく、貿易、資本、投資の流れを管理しようとしてはならない、ということだ。もちろん、現実には、西側はありとあらゆる保護主義及び規制を行っているのであり、グローバリゼーションを主張する目的は、西側以外の国々が西側の企業、資本、商品に対して市場を開放せよということ、また、西側が必要とする資源、安価な商品、労働、製造品を提供できるように開放せよということである。その要諦は世界経済を西側経済に従属させるということであり、帝国的従属計画だ。
 しかし、中国における「全球化」の意味はまったく違う。中国は、アダム・スミスが指摘したように、分業すればするほど皆がますます裨益するという、ごく簡単な経済的格言(の真理性)を承認している。ただし、分業はゼロ・サムであってはならず、相互に利益になるように行われるべきであり、かつそうすることができる、という考えだ。つまり「全球化」プロセスを相互利益になるように管理することで、「全球化」はより持続的プロセスになるということである。
 したがって、中国の見方によれば、国際的結びつきの増大は管理の対象であり、各国は、経済パートナーの相互利益を実現するために貿易、投資などのフローを規制することになる。そうすることを通じて、自国の成長及び世界全体の成長双方にマッチした国際環境を再形成していくのである。
(浅井注) 人民論壇WSが2021年5月12日付で掲載した檀有志(対外経済貿易大学国際関係学院教授)署名文章「来るべき全球化4.0時代」(原題:"全球化4.0时代,即将到来!")は、「グローバリゼーション」の意味は3段階の変化・発展を受けて、2020年代に入って第4段階へと進もうとしていると分析しています。檀有志は、第一段階:帝国主義列強による植民地支配の時代、第二段階:第二次大戦終了後の米ソ冷戦時代、第三段階:国連成立50周年に際して出されたグローバル・ガヴァナンス委員会研究報告を起点とする新自由主義時代、と指摘した上で、2020年以後を第4段階として、次のように説いています。
 人類社会が2020年代に入った今、国際舞台においては行為主体の多元化、国際政治の権力分散化、国際関係の民主化という流れがますます明確になっている。強権政治(浅井:パワー・ポリティックス)が世界を牛耳り、集団勢力(浅井:軍事同盟)が世界を分割支配し、一国(浅井:アメリカ)が世界を独占支配し、多くの国々が世界の片隅に押しやられていた情景は日々に色あせ、これからの世界の歩みゆく方向性について多くの選択肢が生まれている。新しい歴史の十字路にある全球化は正しい進路を見いだす可能性を手にしている。それはすなわち、人類全体の利益及びグローバルの長期的利益を主要目標として、世界各国人民が手を携えて作り上げる新しいタイプの全球化である。この第4段階においては、各方面の利益・関心を可能な限り考慮し、バランスを図り、利益配分の不均衡というこれまでのグローバリゼーションの宿痾を適切に解決することが求められる。
 以上に鑑み、現有国際政治経済秩序及びグローバル・ガヴァナンスのルールに対しては必要な改革と合理的な調整を行う必要がある。そのためには、人類社会がさらなる知恵を発揮し、世界各国の政府・人民が力を合わせて協力し、より開放され、より包容的で、より公平で、より安定した全球化の新モデルを共同で作り出すことが求められる。(中略)
 習近平は、人類福祉の高みに立って人類運命共同体という理念を提起した。この理念は、世界の歴史的発展の潮流に従うと同時に、各国の共通の認識を凝縮しており、ますます多くの国々によって承認されているのみならず、国連の重要な決議にも盛り込まれており、人類全球化の今後の方向性を考える上での「中国の方針」となっている。2021年は中国共産党成立100年にもあたり、人類運命共同体という理念の提起・実践は、中国共産党が一貫して人類の歴史的発展の最先端に立ち、人類全球化の段階的発展原理を深く洞察し、正しく把握していることを余すところなく示している。中国共産党第19回大会報告は、「中国は継続的に責任ある大国としての役割を発揮し、グローバル・ガヴァナンス・システムの改革・構築に積極的に参与し、中国の知恵と力を不断に貢献していく」と提起するとともに、「各国人民が心を一つにして協力し、人類運命共同体を構築し、持続的平和、普遍的安全、共同の繁栄、開放・包容、清浄にして麗しい世界を建設すること」を積極的に呼びかけている。
 人類社会が度々経験した深刻な挑戦は、我々に対して次のことを再三にわたって明示している。すなわち、世界各国は、国の大小、実力の強弱、イデオロギーの違い、社会制度の違いに関わりなく、グローバル・ガヴァナンス・システムの再構築に参与し、全球化の成果を分かち合う平等の権利を持つべきであり、自らの発展、知恵によって、新たな時期における全球化がより公正かつ合理的な国際政治経済新秩序の建設という目標に向かって邁進することをリードするべきである。

(ハドソン)

 成長に関する中国の考え方はアメリカないしは新自由主義経済学における考え方とは違いが著しい。中国における「成長」概念は生活の質に関わるものだ。いかなる類いの成長を志向するのか。これこそは、中国の成長が世界に向けて問いかけている問題の所在である。住宅供給、生活水準の向上、教育無償化、医療無償化といったことは成長なのか。中国では経済全体を見ており、有機体としての経済全体の成長について考えている。変革にせよ再分配にせよ、成長よりも重要であり、かつ、GDPでは量れないものだ。

(ダンフォード)

 中国のいう「全球化」についてだが、中国の見方はマルクス主義的統合であると同時に、中国の伝統との統合でもある。例えば、中国の国際関係に関する見方における中核概念は「調和」である。調和という概念は中国思想の中核をなすものである。他者と調和的関係の中で生きるということは、他者の内的ダイナミックスを理解(浅井:「他者感覚」)した上で、その可能性を引き出すべく協力するということを意味している。したがって、中国的国際関係のもとでは、「関係」(relationality)、「共生」(symbiosis)、「天下」(all under heaven)といった概念が中核をなしている。以上の考え方から出てくるのは、「自らを助ける道は他者を助けることだ」、ないしは、「他者を助けることそのことが自らを助けることだ」、という物事の理解である。そしてこうした理解が、国家間関係をどのように組織するべきか、すなわち国家関係を支配する原則は何であるか、という点に関して、(西側とは)異なる認識を生み出す。部屋の中(浅井:国際社会)にいじめっ子がいたらそのように行動することは難しいが、今日の中国はそれでも可能な限りはこの原則を堅持しようとしている。以上の考え方は、西側の伝統とは異なる中国の伝統的思想から生まれている。中国が現代化への異なる道について語る時もそうであるし、「全球文明倡議」(global civilization initiative)、「全球不可分割的安全」(global indivisible security)などを提唱する時もまた然りである。ただし、最後の二つの概念を最初に主張したのはロシアだった。
 結論として、世界には思想に関わって様々な伝統が存在すること、人類文明は多様かつ多岐にわたることを直視すること、そして、これら諸文明が共同し、協力することによって、過去500年以上にわたって世界を支配してきた世界秩序とは異なる世界秩序に結実することを認識することが非常に重要なことだと考える。

<「債務の罠」>

(ダンフォード)

 中国に関するもっとも特徴的な事実は、中国の対外貸付けにおいて後発開発途上国(the least developed countries)が占める比率が大きいことであり、国際機関やOECDグループよりも貸付額が多い。そして、後発開発途上諸国の対外債務総額は総国民所得(gross national income GNI)の43%、約半分を占めている。しかし、この対外債務において中国に対するものは5.5%に過ぎない。したがって、喧伝されている中国の「債務の罠」という主張は経験的に根拠がない。

(ハドソン)

 アメリカは債務の評価減(a debt write-down)が不可避であることを認識している。というのは、銀行ロビーは、政府が第三世界の債務全額を免除することで私的債権者が支払いを受けることができるようにするべきだ、と主張しているからだ。
 グローバル・サウスに関していえば、世界銀行やIMFの貸し付けは開発金融ではなく低開発金融、すなわち、経済的自立ではなく経済的依存のための金融であるから、グローバル・サウスとしてはそのような債務を無効にする権利がある。つまり、国際金融機関はグローバル・サウスに対して、国際収支の赤字が増えていく貿易パターンを押しつけようとし、私有化、基礎インフラ・天然資源等の売却に応じることを条件にして、これに応じる場合にのみ貸し付けてきたのだ。
 アメリカが言わんとするのは次のことだ。すなわち、アメリカの経済戦略の手段であるIMF、世界銀行、西側諸国が債務の評価減を行う時は、中国も同じく評価減をしなければならない、ということだ。
 私の中国に対するアドヴァイスは次のことを明らかにすることだ。すなわち、中国の途上国に対する貸し付けはその経済成長を助けるものであり、これら諸国の対外依存を高めるための金融ではない。中国の言うウィン・ウィンは、①途上国が経済成長できるように港湾建設をお手伝いする、②途上国が経済成長すれば、中国が提供した貸し付けに対する支払いを行う能力ができる、ということだ。
 つまりは、ユーラシア-BRICSプラスの国際貿易・投資に関する戦略と、新自由主義の米・NATOの戦略とは根本的に違うということだ。

(デサイ)

 実際に中国が行っている債務リスケジュール・プラクティスも、債務免除、寛大なリスケジュールなど、極めてリベラルだ。ところが西側は同様のことを行いたくないために、中国を自分たちが行おうとする交渉に巻き込もうとし、それに応じない中国を非難しているのだ。これが中国の「債務の罠」についての真相である。