朝鮮の金正恩国務委員長が2019年4月に次いで2回目となるロシア訪問を行い、プーチン大統領と首脳会談を行いました。事実関係の紹介、「下衆の勘繰り」の類い(朝鮮によるロシアへの武器提供等)は省略し、私がもっとも注目している国連安保理の朝鮮制裁決議と関連する問題点に絞って考えてみようと思います。プーチンは金正恩と会談する直前、ウラジオストックで開催された東方経済フォーラムで演説しています。「東方外交」にシフトを切ったロシアにとって、シベリア・極東の経済開発は重点中の重点国策の一つであり、極東・シベリアと朝鮮との経済関係を発展させることはロシアにとって重要課題の一つであることは疑いの余地がありません。したがって、安保理制裁決議の「縛り」から朝鮮を解放することは、露朝経済関係の発展を展望する上での大前提です。
 しかし、ロシアは中国とともに制裁決議成立を主導したアメリカに同調した「共犯者」であり、制裁決議はロシア(及び中国)の今後の朝鮮政策に対する「縛り」にもなっています。金正恩の今回のロシア訪問において安保理制裁決議問題はどのように扱われたか。私の関心がこの一点に集中したゆえんです。
 安保理制裁決議は、2006年7月15日の第1695号を皮切りに、2017年12月22日の第2397号まで、実に11の決議が採択されています。これらの決議により、ヒト・モノ(貿易)・カネ(金融)・テクノロジー・輸送等の分野において、朝鮮はがんじがらめの制限・禁止措置を課せられています。また、これらの決議の存在はロシアの対朝鮮政策展開上の大きな足かせになっています。例えば、ヒトに関して言えば、ロシアは以前、極東・シベリアにおける労働力の圧倒的不足を質の高い朝鮮人労働力によって補っていました(朝鮮にとっては貴重な外貨収入源)。したがって、ロシアは最後まで制裁対象に含めることに抵抗したのですが、2017年9月3日の朝鮮の核実験(第6回)をうけて、ついに「自国の管轄権内において朝鮮国民への労働許可を提供しない」決定(2017年9月11日決議第2375号)に賛成を余儀なくされた経緯があります。モノに関して言えば、ロシアは朝鮮が絶対的に不足する石油・天然ガスを豊富に提供できますし、投資、技術移転、輸送等の分野でも露朝間の潜在的可能性は極めて大きいものがあります。

<決議を意識した主要発言>

 今回の金正恩訪ロ期間中、双方から安保理制裁決議を意識した発言が相次ぎました。私がファイルした範囲に限っても以下のようなものがあります。
○9月13日プーチンは、ボストーク宇宙基地で金正恩を出迎え、一緒に同基地を視察した際に、「ロシアは朝鮮の衛星製造を助けることはあるか」という記者の質問に対して、「我々は正にそのためにこの基地に来ている」と答え、「朝鮮の指導者はロケット技術に大きな関心を示しており、宇宙分野で発展を遂げることを求めている」と付け加えた。また、「金正恩との会談では軍事技術協力を話しあうのか」という質問に対しては、「我々はすべての問題をゆっくり話しあうだろう。時間はたっぷりある」と述べた。(同日付環球網)
 余談として9月16日付け環球網は、13日に担当者からアリャンス-2運搬ロケット発射について詳細な説明を受けた際、金正恩はどの方向に向かって発射するか、「東か?」と聞いたあと、「分離した部分はどこに落下するか」と尋ね、「第一部分は地上で、第二部分は海上だ、と賭けよう」と述べた。担当者が「正解」と答えると、プーチンは「貴方はプロだ」と称賛し、金正恩は大笑いしたという模様を伝えている。
 露朝全体会談のロシア側出席者には、ラブロフ外相、マントゥロフ副首相兼産業貿易相、ショイグ国防相、オベルチュク副首相、トルトネフ副首相兼極東連邦管区大統領全権代表、フスヌリン副首相、ペスコフ大統領府副長官兼報道官、コズロフ天然資源環境相(兼露朝政府間貿易経済科学技術協力委員会ロシア側委員長)、サビィエリェフ運輸相等が名を連ねた。朝鮮側出席者としては、崔善姫外相、朴正天元帥、強純男国防相、呉秀容書記、朴泰成書記、任天一外務次官。(9月14日付朝鮮中央通信) 双方の出席者の顔ぶれからも、今回のロシア訪問が多目的であることを窺うことができる。
○同日(9月13日):プーチンは首脳会談後にロシア・チャンネル1テレビの取材に対して、地域情勢及び両国関係について率直かつ成果に満ちた会談を行ったと述べ、ロシアは国連安保理決議を遵守するが、露朝間の軍事技術協力には前途があると述べた。また、交通運輸及び農業等の分野での協力を発展させる計画があると付け加えた。(同日付新華社)さらにプーチンは、ロシアが「宇宙探査とロケット製造について朝鮮を支援するだろう」とも述べた。(9月14日付け環球時報総合報道)
○同日(9月13日):ロイター通信などの報道によると、ロシア大統領府のペスコフ報道官は同日、「必要ならば我々は朝鮮の同志たちと対朝鮮国連制裁に関して議論する準備ができている」と述べた。(同日付ハンギョレ)
○同日(9月13日):首脳会談での発言(同日付ロシア大統領府ウェブサイト)
 *プーチン:「我々は、経済協力、人道上の諸問題、地域情勢について話しあう必要がある」(we need to talk about our economic cooperation, humanitarian issues and the situation in the region)。
 *金正恩:「貴方が指摘したように、我々の人民の生活改善に貢献するべく、政治、経済及び文化を含む両国関係発展に関する多くの問題がある」(As you have just mentioned, we have many issues pertaining to the development of our relations, including politics, the economy and culture, in order to contribute to the improvement of the well-being of our peoples)。
 9月14日付け朝鮮中央通信は、「金正恩国務委員長は、朝露関係を最も重大視し、根深い友好の伝統を変わることなく発展させようとするのはわが共和国政府の一貫した立場であると述べ、今回の訪問が両国間の協力関係を新たな高さに引き上げる意義深い契機になるとの確信を表明した」と紹介。
 さらに同通信は、「最高首脳たちは、両国間の高位級往来をはじめ各分野での多面的な交流・協力を深化させて友好・団結と協力関係を一層強固にし、相互信頼を増進させることについて論議した。会談では、互いに関心を寄せる重要問題に対する幅広くて深みのある意見交換が行われ、共同の努力で両国人民の福利を図り、総合的かつ建設的な双務関係を引き続き拡大していくことで合意した。」と紹介。
○同日(9月13日):晩餐会
 *プーチン:「我々には広範囲な予定と計画があり、ボストーク宇宙基地訪問のほかに、極東にあるハイテク・クラスター、工業施設、イノヴェーション・センターの視察が含まれる。…我々の関係は朝鮮が自由を求めて闘っていた1945年に遡る。当時、我々の兵士は肩を並べて日本軍国主義を粉砕した。今日、我々は友好と善隣関係の絆を強めるべく、また、共有するこの地域の平和、安定そして繁栄のために努力している。」(同日付ロシア大統領府ウェブサイト)
 *金正恩:「プーチン大統領と共に安定的で未来志向的な新時代の朝露関係の百年の計を構築し、その威力で両国での強国建設偉業を強力に促し、真の国際的正義を実現していく用意を披歴した。」金正恩は夕食会後、プーチンに訪朝を招請し、プーチンは快諾。(9月14日付け朝鮮中央通信)
○同日(9月13日):首脳会談終了後、プーチンはロシアのテレビ局「チャンネル1」の番組に出演し、「金正恩委員長との会談で軍事技術協力の問題が議論されたのか」という質問に、「もちろん、制約(国連の対北朝鮮制裁)があり、ロシアはこの制約を順守している。しかし我々が議論して考えることはある。そして、その可能性はある」と述べた。(9月14日付けハンギョレ新聞)
 同日付ロシア・トゥデイ(RT)は、国連安保理は朝鮮との武器取引を禁じる制裁を科している。プーチンは、モスクワが存在する制限を遵守しているという保証を与えた。「しかし、我々が考えることができることはある」("But there are things that we certainly can consider," )、「我々は現行ルールの範囲内でも機会がある。」("We have opportunities within the rules that are in place.")「我々には多くの興味深いプロジェクトがある」("We have many interesting projects," )とプーチンは確言し、一つのケースとしてロシアの鉄道を朝鮮と連結する計画を挙げた、と紹介。(浅井:イタリックはRT)
 タス通信は、プーチン大統領が会談後に「ロシア第1チャンネル」に出演し、「運送と物流、鉄道、道路などと関連したプロジェクトを企画している」とし、「農業発展に関してもロシアが支援する部分がある」という趣旨での発言をしたと報じた。(9月14日付けハンギョレ新聞の紹介報道)
○同日(9月13日):首脳会談終了後、ペスコフ報道官は、朝鮮は航空、運輸及びインフラ分野でロシアと協力する機会に関心があると述べた(同日付スプートニク通信)。また、露朝政府間委員会が近い将来に会議を行う計画であり(9月14日付け環球時報総合報道)、ラブロフ外相と崔善姫外相が近く会談を行うだろう(9月14日付け環球網)と述べた。また、ロシアと朝鮮の「全方位」の関係とは「軍事技術協力及び安全保障分野の意見交換を含む」と述べた。(9月14日付け環球時報総合報道)
○同日(9月13日):ラブロフ外相は、ロシア国営テレビのインタビューで、「朝鮮に対する制裁は(今とは)全く異なる地政学的状況で採択された」とし、「西側諸国が対北朝鮮制裁を課す際に提示した対朝鮮人道支援の約束は嘘であることが明らかになった」と述べた。(9月14日付けハンギョレ新聞)
○9月15日:ベラルーシのルカシェンコ大統領との会談後に行われた共同記者会見で、記者の質問に対してプーチンは、「われわれは何にも違反しない。(朝鮮からの軍事支援に関する西側の避難に関して)この点に関して、我々は何にも違反することはない。しかし、もちろん、露朝関係を発展させる機会は探求していくだろう。」(we never violate anything; and in this case we are not going to violate anything. But, of course, we will look for opportunities to develop Russian-North Korean relations.)と述べた。(9月15日付けロシア大統領府ウェブサイト)
○9月15日:金正恩は、マントゥロフ副首相兼産業貿易相随伴のもと、極東地域の主要工業都市であるコムソモリスク・ナ・アムーレにあるガガーリン飛行機工場を参観し、戦闘機部品組み立て工程並びにSU-35、SU―57戦闘機及びスホイ・スパージェットSSJ-100旅客機組み立て工程を視察し、SU-35のテスト・フライトを見学。(同日付RT)視察終了後にマントゥロフは、「我々は、航空機製造を含む多くの分野で協力する潜在的可能性があると考えている」「(この協力は)テクノロジー主権を達成するという両国が直面している課題を実現するために特に重要だ」と表明。(同日付けスプートニク通信)
 9月16日付けの朝鮮中央通信はコムソモリスク・ナ・アムーレにおける金正恩の動静を伝えているが、ロシア側報道等にないのは、「設計研究所と戦闘機胴体組立職場、飛行機の翼生産職場、塗装職場、旅客機組立職場をはじめ工場の各所を見て回った」「「スホイ57」戦闘機にも上がって5世代戦闘飛行機の技術的特性と飛行性能に関する具体的な解説を聞いた」「ロシア飛行機製作工業の豊かな自立的潜在力と現代性、絶え間ない新しい目標に向かった進取的な努力に深い感銘を受けたことについて披歴し、今後、より高い生産成長で持続的な発展を遂げることを願うと温かく鼓舞、激励」などの諸点。
ペスコフの記者会見(9月15日付けスプートニク通信)
 *プーチン訪朝:金正恩はプーチンとの二者会談の際に訪朝を招待した。プーチンは喜んで受諾した。具体的なことは外交チャンネルを通じて話しあわれる。
 *ラブロフ訪朝:ラブロフ外相の訪朝は10月に予定されている。
 *金正恩の訪問評価:我々はこの訪問を高く評価している。時宜を得た、実りあるかつ建設的なものだった。我々は朝鮮との関係を発展させていく。
 *尊重に基づく関係構築:朝鮮は隣国であり、他の隣国同様、ロシアは、相互尊重の原則に基づいて互恵協力の良好な関係を建設、発展させていく。
 *軍事的結びつき:軍事協力について問われて、この問題は「センシティヴ」だと形容して次のように述べた。「軍事協力はセンシティヴな協力の領域カテゴリーに属する。繰り返しになるが、朝鮮は隣国であり、すべての可能な分野で関係を発展させていく。」
 9月16日付けの環球時報は、ペスコフが15日に、露朝首脳は会談後に軍事技術協力取り決めに署名しなかったし、その他いかなる取り決めにも署名していないと述べた、と伝えている。
○9月16日:金正恩は、ウラジオストックのクニエヴィチ飛行場を訪れ、出迎えたショイグ国防相の案内のもと、TU-160戦略爆撃機、TU-95MS戦略爆撃機、TU-22M3長距離超音速爆撃機等を視察。視察のハイライトの一つはキンジャル空対地・極超音速ミサイルを装備したMIG-31Iである。このミサイル・システムは「世界には比肩できるシステムはなく、戦闘でその優秀性は証明済み」(ロシア国防省)であり、2017年に実戦配備され、スピードはマッハ12(約14800キロ/時)、常に回避行動を取りながら飛行するため、現存のいかなる防空能力をも突破できる。5月には、キエフに配備されているパトリオット防空システムに対して甚大な被害を与えた。その後金正恩とショイグはウリス湾に移動し、ロシア太平洋艦隊のフリゲート艦マーシャル・シャポシニコフにも乗船。(同日付RT) 9月17日付けの朝鮮中央通信も金正恩のウラジオストック訪問をまとめて報道しているが、特に注目すべき内容はない。

<朝鮮制裁安保理決議の問題点>

 朝鮮のミサイル発射(人工衛星打ち上げを含む。)及び核実験に対して、国連安保理は複数の議長声明で朝鮮を非難するとともに、11の決議で制裁を加えてきましたが、これらの議長声明・決議には重大な法的政治的な問題があることを、私は早くからこのコラムで指摘してきました。主なものだけでも、2009年:4月15日、6月20日;2012年:4月15日、5月19日、12月16日;2013年:4月4日、4月14日、6月3日、10月18日;2014年:12月14日;2016年:2月5日を挙げることができます。朝鮮制裁安保理決議の法的・政治的な問題点を改めて整理すれば、次のようにまとめることができます。
(法的問題点)
 朝鮮に対する安保理の行動(議長声明を含む)の重大な法的な誤りに関しては、主に2つのポイントがあります(2009年4月15日のコラム参照)。
 第一、朝鮮が2009年4月5日に行った人工衛星打ち上げは、宇宙条約によってすべての国家に認められている宇宙の平和利用の権利の行使(朝鮮自身が明確に指摘)であり、国際的に非難されるいわれはなく、安保理が容喙する問題ではないこと。
 ところが、同年4月15日の安保理議長声明はその点をまったく黙殺しました。そして、朝鮮の行動をもっぱら安保理決議違反行為として糾弾したのです。すなわち、朝鮮の行動を「安全保障理事会決議1718(2006)に基づく義務に全面的に従わなければならない」とする安保理決議第1718号(2006年)に違反したと決めつけ、「今後はいかなる核実験も弾道ミサイル発射も行わないよう要求」したのです。この議長声明がその後の安保理決議の基調を設定し、朝鮮が宇宙条約上有する合法的権利及びその行使という最重要の法的論点が徹頭徹尾隠蔽されてしまったのです。
 安保理決議の加盟国に対する拘束力は、「国際連合加盟国は、安全保障理事会の決定をこの憲章に従って受諾し且つ履行することに同意する」(憲章第25条)という規定に基づくものです。しかし、そのことから直ちに、"安保理決議は国際法(宇宙条約)に対する法的上位規範である"という結論が導き出されるはずがありません。否、安保理は国際法遵守の率先垂範者でなければなりません。「法の支配」は安保理の行動をも支配・規律するという大原則・大前提のもとでのみ、安保理は行動することができるのです。上記議長声明はこの大原則・大前提に反する点で、無効・権限逸脱であると言わなければなりません。
 第二、ミサイルに関しては、国際法的に取り締まる規範はなく、朝鮮のミサイル発射(人工衛星打ち上げを含む)だけを問題視する安保理の行動は、法的二重基準の適用という問題があること。
 この点に関しては、朝鮮外務省が「衛星打ち上げであれ、長距離ミサイル発射であれ、だれが行うかによって国連安保理の行動基準が変わるというところに問題の重大さがある。日本は自分たちの手先であるので衛星を打ち上げても問題がなく、われわれは自分たちと制度が異なり、自分たちの言うことを従順に聞かないので衛星を打ち上げてはならないというのが米国の論理である。」とする正鵠を射た指摘を行っており、論点はこれに尽きます。
(政治的問題点)
 朝鮮非難の議長声明及び朝鮮制裁の安保理決議の重大な政治的誤りは、中国とロシアがアメリカに迎合して、無原則的に賛成して、決議成立に加担してしまった点にあります。実は、中国がオバマ政権(当時)に対する迎合の是非について内部的に検討していたことに関しては、2012年5月19日のコラムで検証作業を行ったことがあります。しかし、オバマ政権の対朝鮮政策に距離を置きつつも、良好な対米関係維持を優先したことにより、中国外交最大の汚点と言うべき「安保理における朝鮮核ミサイル問題に関する対米無原則迎合」を根本的に見直すまでには至りませんでした。ロシアに関してはそのような内部的検討が行われたか否かはつまびらかではありませんが、ウクライナ戦争で露米関係が最悪状態に陥るまでの間、ラブロフ外相は何度も「安保理決議は国際法」と公然と口にしていました。9月14日付けのハンギョレが報道した、「朝鮮に対する制裁は(今とは)全く異なる地政学的状況で採択された」、「西側諸国が対北朝鮮制裁を課す際に提示した対朝鮮人道支援の約束は嘘であることが明らかになった」(ロシア国営テレビのインタビューにおけるラブロフ発言。前述)が事実であるとすれば、ラブロフが安保理決議の「法的」制約と対朝関係打開の必要性との間で苦悶していることを容易に窺うことができます。
 しかし、バイデン政権が唱える「ルールに基づく国際秩序」(Rule-based International Order RBIO)を「米西側の権力政治を正当化する論理」として糾弾し、「国連憲章・国際法に基づいた民主的国際関係・国際秩序の構築」を対置させるに至ったロシア及び中国としては、朝鮮制裁安保理諸決議の成立・法的二重基準の適用に加担し、「法の支配」という大原則をひん曲げた自らの過去の過ちを不問に付し、「くさいものに蓋をする」態度を維持することは到底許されないと言うべきです。
 まず、「国連憲章・国際法に基づいた民主的国際関係・国際秩序の構築」を掲げるロシアと中国の本気度を証明するためには、「隗より始めよ」を有言実行しなければなりません。ロシアと中国が朝鮮制裁安保理諸決議の成立・法的二重基準の適用に加担した自らの過去の過ちを率直に認め、謝罪することは、直接の被害者である朝鮮に対する当然な責任の取り方であるとともに、「グローバル・サウス」の信認を獲得する上でも最優先事項です(ロシアと中国が安保理常任理事国として対米協調を重視してきた過去の「いかがわしい」行動がグローバル・サウスの安保理に対する不信・改革要求の一因になっていることは明らかです)。
 次に、安保理制裁決議が朝鮮を国際的に孤立させ、苦境に陥らせた「負の遺産」は実に大きいと言わなければならず、ロシア及び中国はこの「負の遺産」を償う政治的な責任があります。そのための第一歩は、ロシア及び中国が安保理制裁決議の不当性・不法性を国際的に明らかにした上で、率先して朝鮮を国際社会の一員として迎え入れる具体的な行動を取ることです。日本の侵略戦争の加害責任は直ちに明らかですが、ロシア及び中国も、安保理常任理事国として朝鮮に「負の遺産」を強いた政治的責任があることを明確に認識するべきです。加害責任については賠償・補償が当然に要求されますが、政治責任の取り方に関しても同じような発想があって当然です(積極的な経済協力等)。
 さらに、安保理制裁決議は朝鮮半島の南北分断を固定化し、長期化させました。その結果、1991年以後の国際社会が曲がりなりにも「脱冷戦」時代を迎える中で、朝鮮半島は国際的に唯一冷戦状態の継続を強いられ、その結果、東北アジア全体が世界経済のグローバル化、国際的相互依存の進行から取り残されることになりました。そういう状況を生み出したことについても、安保理常任理事国であるロシア及び中国は大きな責任を負っていることを認識するべきです。ロシアは「ユーラシア経済圏」、中国は「一帯一路」を推進していますが、朝鮮を含む東北アジア全域をこれらの経済圏に組み込むことを積極的に推進するべきです。

<ロシア(及び中国)が取るべき行動>

 以上の法的政治的問題点を踏まえる時、私は、ロシア及び中国が安保理常任理事国として行うべきことは、実に簡単明瞭だと考えます。すなわち、
 第一、安保理の一連の朝鮮制裁決議は、①朝鮮が宇宙条約に基づいて有しかつ行使する主権的権利を侵害している、②朝鮮が2003年1月10日に脱退してもはや締約国ではない核不拡散条約(NPT)に基づいて同国の行動(核実験)を禁止している、③ミサイル規制に関する国際的枠組みも存在しないのに、露骨な二重基準を適用して、朝鮮に対してのみ差別的な制裁及び禁止を課している、以上3点において国際法上重大な問題があり、主権国家の正当な権利を侵害するものであり、したがって国連憲章の原則及び精神に反する不法・不当・無効なものであることを率直に承認すること(2013年10月18日のコラムで紹介した、国連事務局に対する公開質問状参照)。
 第二、そういう決議の成立に安保理常任理事国として加担した非を認め、朝鮮に謝罪すること。
 第三、安全保障理事会の場において、国際法上の重大な瑕疵がある11の安保理決議を無効とする決議を提案するとともに、その成否如何にかかわらず、ロシア及び中国はもはや不法・不当なこれらの決議に従わないことを公に明らかにすること。
 第四、その上で朝鮮(及び国際社会)に対して、上述の法的政治的問題点に対応した具体的行動を取ること。
*  *  *  *  *  *  *  *  *
 率直に言って、今回の金正恩のロシア訪問に際して示されたプーチン以下のロシア側言動は中途半端だったという評価は免れません。中途半端であった最大の原因は、安保理制裁決議に関する安保理常任理事国としてのロシアの法的政治的責任に対して正面から向き合う決断ができていないことにあると思います。また、金正恩ロシア訪問に関する中国側報道が傍観者的態度に終始した原因も同じ(安保理制裁決議に関する安保理常任理事国としての中国の法的政治的責任に対して正面から向き合う決断ができないこと)だと思われます。したがって、ロシアと中国に対する私の心からの献策は、「21世紀国際社会を背負う不退転の覚悟を持て。その第一歩として、朝鮮制裁安保理決議の成立に加担した法的政治的責任を直視し、公認し、二度と「法の支配」原則に悖る国際的行動は取らないことを国際社会に向かって明言せよ」です。