ウクライナ版「天下分け目の関ヶ原」と目された、ウクライナによるロシアに対する反転攻勢は当初の4月という予想から大幅に遅れ、6月4日にようやく開始されました。しかし、早くも4日後の8日にCNNがアメリカ当局者の話として、ウクライナ軍は「相当な」(significant)損失を被ったと報じた(ロシア側は5000人の犠牲者と指摘)ように、米西側の大きな期待(ウクライナ軍による被占領地奪回・ロシア軍敗退→米西側・ウクライナの要求をロシアに呑ませる内容での政治解決。それはプーチンの失脚、ロシアの空中分解につながるだろう)とは真逆の形で戦況が進行し、今や、「長期戦を覚悟しなければならない」(ミリー統合参謀本部議長)という判断が公に口にされる深刻な事態に陥っています。
 この反転攻勢のさなかにリトアニアの首都ヴィルニュスで開かれたG7サミット及びNATO首脳会議は、西側がウクライナを結束して支援することを確認しました。しかし、ウクライナ(ゼレンスキー大統領)が強く求めていた同国のNATO加盟承認問題については、アメリカ・NATOとロシアの直接軍事対決を絶対に回避したいバイデン大統領及びストルテンベルグ事務総長が「今はその時にあらず」と明言して却下し、米西側の「結束」が「一枚岩」からはほど遠いことを白日の下にさらす結果にもなりました。
 このような米西側・ウクライナの動きに対して、ロシアのプーチン大統領は早くも6月9日に記者の質問に答えて、「この3日間でウクライナ側は相当な犠牲を被った」と明言しました。さらに6月21日には、ウクライナ側に甚大な損害(245台の戦車と678台の装甲車という具体的数字を列挙)を与え、「ウクライナの攻撃作戦は止まった」と、事実上の勝利宣言を行いました。プリゴジンの「反乱」(6月23-25日。7月2日コラム参照)を乗り切ったプーチンは、7月4日にはインドが議長国の上海協力機構(SCO)のオン・ライン首脳会合に出席、7月27日-28日には第2回ロシア・アフリカ首脳会合(サミット)を主催するなど、休日以外はほぼ毎日動静が伝えられました(ロシア大統領府WS)。ちなみにショイグ国防相は、朝鮮の「戦勝節」(朝鮮戦争休戦協定締結日)に際してロシア軍代表団を率いて訪朝(7月25日-28日)し、金正恩総書記と会談して健在ぶりを示しました。ウクライナの反転攻勢が続いている中でのこの行動も、ロシアの余裕ぶりを世界に誇示するものでした。
 私の現段階での大雑把な見通しを言えば、軍事的膠着状態が長引けば長引くほど、情勢はロシアに有利に展開することになるだろう、ということです。その理由は三つです。第一、ロシアは余力があり、外交的にも孤立していない。第二、対するアメリカは、2024年の大統領選挙を控えて苦しい立場に追い込まれている。また、欧州も支援疲れで長期にわたる膠着状況には耐えられそうもない。第三、ロシア・ウクライナ戦争は世界経済にも深刻な影響を与えており、食糧・エネルギー価格の高騰はグローバル・サウスを直撃している(グローバル・サウスでは、ロシアを支持・理解するものが多数派である)。
 以下では、西側報道にも注目しつつ、日本国内に反映されていない(と私には思われる)「実情」を紹介します。

<6月反転攻勢の不首尾>

 私が不勉強のせいかもしれませんが、日本国内メディアで、ウクライナの反転攻勢が不首尾に終わろうとしていることを正面切って報道するものを目にしません。しかし、私が毎朝チェックしているニューヨーク・タイムズ(NYT)、ワシントン・ポスト(WP)、ウォールストリート・ジャーナル(WSJ)、ポリティコ等の中で、特にWSJが早くから,次のようにウクライナの苦戦ぶりを伝えています。
○6月10日:"Ukrainian Troops Face Hard Slog in Offensive's First Days"
○6月11日:"Ukraine Counteroffensive Notches Small Gains After Costly Early Assaults"
○6月19日:"Why Ukraine's Offensive Will Likely Be a Slow, Costly Grind"
 ゼレンスキー自身、6月21日にイギリスBBCのインタビューの中で、ウクライナ軍の侵攻スピードが「期待より遅い」(""slower than desired."")ことを認め、「この作戦がハリウッド映画だと思って、(速やかな)結果を望むものもいる」ことに不満をこぼしました。しかしこの時点では、ゼレンスキーは、キーウに有利な形で紛争を解決するためには「戦場での勝利が必要だ」という従来の立場も繰り返しました(同日付のロシア・トゥデイWS)。これに対してプーチンは同日、既に紹介したように事実上の勝利宣言をしているのです。そして、同日付のWSJ("Ukraine's Offensive Slows Down, Zelensky Says, as Kyiv Rethinks Approach")は、ゼレンスキーのBBCに対する発言を紹介するとともに、記事のタイトルが示すように、ゼレンスキーは、ロシアが強固な防衛線を築いていること、攻撃を難しくする地雷を広範囲にわたって敷設していること、しかも、戦場から離れた距離からウクライナの戦車、装甲車を誘導ミサイルで攻撃できる攻撃ヘリを備えていることなどを挙げて、ウクライナが作戦の見直しを考えている、と報じました。
 翌22日のCNNは、米西側当局者の話として、ロシアの防衛ラインを突破することが難しい原因に関する上記ゼレンスキーの認識を確認するとともに、ロシアの防衛が予想より「優秀」だったことを認めつつ、アメリカはなおウクライナが事態を転換することについて「楽観している」と強調しました(同日付RT)。この22日に、ロシアのパトゥルシェフ安全保障会議書記は、6月4日-21日の間のウクライナ側の損失が兵員13000人、戦車・装甲車800以上という数字を示しました。ただし、西側当局者の一人は、「ウクライナ側の損害は深刻だが、ロシア側が描き出しているほどではない」とCNNに語りました(同)。
 7月1日のミリー統合参謀本部議長の発言内容(ワシントンのナショナル・プレス・クラブ)と7月3日のショイグ国防相の発言内容は、おおむね一致しています。ミリーは、キーウの鳴り物入りの反転攻勢が予想より緩慢なことは「何ら驚くことではない」「私が言ってきたように、6週間、8週間、10週間かかるだろう。とても難しいものになる。非常に長引くだろうし、とてつもなく血なまぐさいものになるだろう」と述べました(7月1日付けRT)。ショイグは、「全体として、敵側はいかなる方面においても目的を達成していない」と述べました(7月3日付けスプートニク通信)。
 7月9日付けの「ウクライナの反転攻勢がかくものろい理由」(原題:"Why the Ukraine Counteroffensive Is Such Slow Going")と題するWSJ記事は、2022年のウクライナの赫々たる反撃成功と今回の反転攻勢の遅々として進展しないことを比較分析した興味ある,次のような内容です。昨年の成功事例があるために、米西側は今回の反転攻勢にも「2匹目のドジョウ」を期待したわけです。
 昨年のウクライナは、兵員数、火力、空軍力において劣っていたにもかかわらず、ロシア侵略軍をやっつけた。それを可能にしたのは、ウクライナ軍の機動力、地形知悉、ドローン及びデジタル技術活用であり、これに対してロシア軍は鈍重かつ官僚主義に汚染されていた。
 しかし今回、ウクライナ軍がやろうとしているのは、塹壕戦に徹した敵を追い出すという、もっとも困難な作戦だ。しかもロシア軍は数ヶ月かけて15マイルの縦深を持つ防衛線(シェルター、戦車に対する仕掛け、地雷敷設区域)を築き上げている(浅井:当初4月にも予定されていたウクライナの反転攻勢が6月まで延びてしまった間に、ロシア軍は強固な防衛ラインを築くことができたと指摘する報道もあります)。
 塹壕戦を挑む敵を攻撃することは、世界最強の軍をもってしても難しいことは、ノルマンディ上陸作戦の成功に2ヶ月以上を要し、1991年の砂漠の嵐作戦の成功にも5週間にわたる空爆作戦を必要としたことからも分かる。ところが今のウクライナ軍は、そうした火力も制空権も備えていない。

<足並みの乱れを露呈したNATO首脳会議>

 G7及びNATOのサミットに臨んだバイデン大統領の言動は支離滅裂でした。バイデンはサミット終了後にヴィルニュス大学で講演し、プーチンを厳しく非難するとともに、この戦争に訴えたことは「運の尽き」だ(he had made a "bad bet"in pursuing the war)と断じました。そして、「プーチンはまだ、我々のコミットメント、価値観、自由は、我々が絶対、絶対、絶対に放棄することのあり得ないものだということを理解していない。しかし、それが我々だ」と大見得を切ったのです(7月12日付けWP)。バイデンは13日にも、ヘルシンキで行った記者会見の席上で、「プーチンはこの戦争に負けた」「彼がウクライナ戦争に勝利する可能性ももはやない」と豪語し、「私が希望し、皆さんが見届けることになるのは、ウクライナの侵攻が大きな進展を見せ、この方向で進んで、ある時点で交渉による解決策が達成されるということだ」と述べました(7月14日付け環球網)。
 ところがNATOサミットにおいては、ポーランド、バルト3国などがウクライナのNATO加盟承認を主張したのに対して、バイデン・アメリカ(ドイツ、NATO事務総長などが同調)は、ロシアとの直接軍事対決を回避する立場から慎重論に徹したのです。バイデン・アメリカのホンネはロシア側からすれば「先刻お見通し」でした。その点を分析しているのが、7月12日付けのRTに掲載された、ティモフィ・ボルダチェフ署名文章「アメリカがウクライナのNATO加盟を絶対に認めない理由」(原題:"Here's why the US will almost certainly never allow Ukraine to join NATO")です。正鵠を射ているので紹介します。
 ウクライナ危機は、アメリカの欧州における軍事プレゼンスの限界を定義するという深刻なリスクにアメリカが直面する、歴史上初めてのケースである。ワシントンがキエフを本気でNATOに招き入れるということは、ロシアと直接軍事対決する用意があるということを意味する。しかし、多くの見方では、ゼレンスキー政権に特別な二国間の保障を約束するというもっと穏便な選択となるだろう(浅井:バイデン政権が今回ゼレンスキーに与えた約束)。
 冷戦終了後のNATOの東方拡大は、誰も争おうとはしない領土を手に入れるというケースである。しかし、ウクライナというケースに関しては、アメリカにとっての問題は、単なる領土取得という問題ではなく、ワシントンを排除しておきたいライバルの大国から領土を取り上げるという問題となる。このケースはNATOの歴史ではついぞなかったものであり、あり得る結果について真剣に考慮するべきだとする西欧及びアメリカの論者がいることは理解できることだ。
 キエフをNATOに招き入れるということは、ロシアという敵と戦う用意があるという、アメリカの対外政策におけるまったく新しい事態を意味する。これまでの歴史の全過程において、アメリカはこの選択を避け、アメリカの利益のために進んで犠牲になる、あるいはやむなく犠牲にされる、身代わりとなる国を使ってきた。第一次大戦、第二次大戦のいずれもそうだった。したがって、もっとも可能性があるシナリオとは、キエフ政権がロシアとの間で何らかの方法で問題を解決した後に、アメリカはウクライナ問題を取り上げるという約束をするにとどめるということである。それまでの間は、二国間での何らかの「特別」な取り決めが約束されるだけだろう。
 ボルダチェフの以上の分析の正しさを100%確認したのはサリヴァン安全保障担当補佐官でした。7月16日付けのポリティコは、ケリー・ガリティ(Kelly Garrity)署名文章「ウクライナの将来はNATOであることを確認した補佐官」(原題:"Ukraine's future is in NATO, U.S. national security adviser affirms")を掲載し、サリヴァン発言を次のように紹介しています。
 サリヴァンは、NATOがサミットで合意したことについて、7月16日のCBS番組の中で次のように話した。「我々はNATOで、ウクライナの将来はNATOに入ることにあるとシンプルに明確にした。二言はない。これは交渉ごとではない。」「NATO31加盟国すべてがコミットしたことだ。」
 しかしサリヴァンは、ウクライナが正式にNATO加盟国となるためには条件があること、その条件の中には、ロシアとの戦争を終わらせることが含まれることを認めた。サリヴァンは、「戦争継続中にウクライナがNATOに入るということは、NATOがロシアと戦争状態に入ること、アメリカがロシアと戦争状態に入ることを意味することになる。しかし、NATOにもアメリカにもそうする用意はない」と述べた。

<甘くない前途>

 米西側が熱望し、また、ウクライナのNATO加盟のための必須前提条件とする、ウクライナの反転攻勢の勝利を期待するのは「狂気の沙汰」(definition of 'insanity')、あるいは、プーチンの戦略の読み違えに起因する、と指摘する2人の専門家の意見を紹介したのは、7月27日付けのUSAトゥデイ紙です(同日付RT)。私も同感なので紹介します。
○シーン・マックフェイト(Sean McFate。ジョージタウン大学教授):ゼレンスキーは今や、キエフの西側寄付者に対する「主要資産」であるクレディビリティを失い始めている。ゼレンスキーは今や、「勝つことはできない、しかし、負けるわけにもいかない」立場に追い込まれている。NATOは、寄付疲れに陥っているし、ゼレンスキーの空威張り(*)にも失望している。ゼレンスキー政権が勝つだろうと期待して数百億ドルの兵器を送り続けるのは「戦略的狂気の沙汰」である。
(*浅井注)確かにゼレンスキーやクレバ外相は、米西側の兵器供給が遅すぎるし、足りなさすぎると言い続けています。今回の反転攻勢が遅々として進展しないことについても、F-16戦闘機をはじめとする軍事支援が行われないために,ウクライナは制空権をロシアに奪われているからだと、米西側を非難しています。「ゼレンスキーの空威張り」とはそういうことを指しています。ただし、私から見ると、2022年3月の時点でウクライナがロシアとの休戦協定に応じようとしたときに、それを牽制し、徹底抗戦を力説したのは米西側であることは間違いありません。ゼレンスキーからすれば、「自分たちは米西側の徹底抗戦支持確約があったからこそ今まで戦ってきたのだ。そしてウクライナ全土は甚大な被害を被った。我々は米西側の代わりにロシアと戦っているのだ。確約したことは最後まで実行しろ」と言いたいところでしょう。
 しかし、米西側のホンネはウクライナをロシアから守ることではなく、「ウクライナ人の最後の一人まで戦わせて、ロシアを疲弊させ、あわよくばロシアをたたきのめし、最悪でも、自分たちに傷がつかない形でロシアを弱体化させる」ことにしかないのですから、ゼレンスキーが米西側を信じすぎたことに根本的誤りがあり、したがって今日の事態を招いた政治責任も免れることはできません。
 ノルドストリーム・パイプライン爆破事件に関しても、ウクライナの仕業であるという報道をアメリカ・メディアに流させたバイデン政権ですから、アメリカのメンツを保つためには、ゼレンスキー政権を見限ることは選択肢の中にあり得ることは容易に想像がつくというものです。
○スティーヴン・マイヤーズ(Steven Myers。国務省に助言している元空軍ヴェテラン):西側で流布されている分析とは逆で、プーチンは戦争に勝つことを考えたことはない。NATO諸国は、プーチンがキエフを征服しさらに西進する計画だから、ウクライナを支援しなければならないと議論しているが、この戦争におけるロシアの軍事作戦は「征服とはまったく別物」だ。プーチンの狙いはウクライナをNATOに入れさせないことだけだ。だから、戦争は膠着することになるし、プーチンの狙いは最初からそれだ。

<途方もない対ウクライナ支援額>

 アメリカのウクライナに対する年間支援額はアフガニスタンで12年間に投じた金額を上回っており、2023年末までにはマーシャル・プラン支出総額をも上回るだろうという驚くべき指摘も出ています。米議会が設置したアフガニスタン再建特別監察官(SIGAR)局の特別監察官であるジョン・ソプコ(John Sopko)は7月28日、クインシー・インスティテュート(Quincy Institute for Responsible Statecraft)主催のオン・ライン討論会で、「アメリカが1年間にウクライナで支出している金額は、アフガニスタンで12年間に支出した金額よりも多く、また、2023年末までのキエフに対する援助総額は第二次大戦後のマーシャル・プラン全体の援助総額よりも多くなるだろう」と述べました。具体的数字にも言及し、アフガニスタンにおける安全保障支援月額は375百万ドルだったのに対して、バイデン政権は今ウクライナにおける安全保障支援に月額25億ドル支出していると述べました。彼によると、アメリカは、2022年2月以来、ウクライナに対する様々な援助として750億ドル約束しており、その大部分を占める500億ドルは兵器及び関連軍事装備に支出されたそうです(同日付スプートニク通信)。
 ちなみに、ドイツのキール世界経済研究所(IfW)が6月に明らかにした調査は、2022年1月から2023年2月までのウクライナに対する軍事・財政・人道支援が1700億ドルを上回ったとしています。この調査は、米西側を主体とする主要援助国41ヵ国がウクライナに提供した援助をカバーしています。
 この調査によれば、アメリカは最大の援助国で全体の45%以上を占め、その約60%が兵器(471.6億ドル)です。EU(EU自体とEU構成国の2国間支援をあわせたもの)は全体の約40%を占めます。イギリスは第2位の兵器支援国で、金額は71億ドルです。また、人道支援の負担が重い国としてはポーランド、ラトビア、エストニアが挙げられ、ポーランドは二国間支援としてGDPの0.6%プラスウクライナ難民受け入れにGDPの2.2%、ラトビアとエストニアもGDPの2%超となっています。(以上、6月30日付けRT)。

<苦境に陥るバイデン政権>

 7月25日のWSJは、3人の記者連名による「反転攻勢不発で政治的苦境のバイデン」(原題:"Ukraine's Stalled Offensive Puts Biden in Uneasy Political Position")という記事を掲載しました。大要は以下のとおりです。
 西側当局者によれば、陣地戦のロシア軍に対するウクライナの反転攻勢はのろく、今年中に戦争を終わらせる交渉が始まるだろうという希望をしぼませ、戦争は果てしなく続くという見通しが高まっている。
 行き詰まりとなれば、数百億ドルをつぎ込むことでキーウが強者の立場でロシアと交渉することを可能にすることをうたい文句にしてきたバイデン大統領の戦略が試練に直面するだろう。そのことはまた、既に不足状態の西側の兵器供給能力に試練を課し、また、アメリカの戦争支援に反対する勢力を政治的に力づけることにもなる。
 元駐ウクライナ大使のジョン・ハーブスト(対ウクライナ軍事支援拡大論者)は、事態が楽観できないことを認めつつも、バイデン政権としては兵器提供継続以外の選択肢はないと指摘した上で、ウクライナから距離を置き、部分的にせよロシアの勝利を認めることとなれば、「アフガン撤退(という失敗)がかすんでしまうような、バイデン外交の大失敗になるだろう」と付け加えた。
 とは言え、現状維持戦略にもリスクがつきまとうことになる。というのは、バイデンは、この戦いは民主主義と権威主義との戦いであると称し、この戦いに賭けてきたからだ。彼は既に430億ドル以上をつぎ込んできたが、議会共和党からはこれに反対する声も出てきている。
 バイデンが2024年に大統領選挙を迎えるのに対して、プーチン大統領は西側よりも長続きすることにうまみを感じている。というのは、共和党大統領候補のトランプ及びデサンティス双方が対ウクライナ軍事援助の見直しを示唆しているからだ。外交問題評議会のトーマス・グラハムは、「ロシアはウクライナの降伏を望んでおり、それ以外の解決策を話し合うことには関心がない」と指摘した。
 バイデンはヘルシンキで、「私が希望し、皆さんが見届けることになるのは、ウクライナの侵攻が大きな進展を見せ、この方向で進んで、ある時点で交渉による解決策が達成されるということだ」と述べた。しかし、ロシアもウクライナも交渉する用意がない以上、バイデン政権としては、現行政策を維持しつつ、戦局の突破的打開あるいはモスクワの政治的異変を期待する以外の選択肢はない。しかし、欧州高官が認めるように、戦局におけるサプライズの可能性はあるとしても、ありそうにはない。この高官はさらに、「我々はウクライナが失った領土すべてを回復できるとは思っていない。クリミアはもちろんだし、2014年にドンバスで失った地域もそうだ」と付け加えた。
 問題は、今回の反転攻勢が期待以下である場合に、米西側は支援を続け、さらには拡大する決意を持ち続けられるかどうかだ。アスペン安全保障フォーラムで、カナダのフリーランド副首相は、西側が現行政策を続ける能力があるかどうかについて公然と憂慮を表明し、「ウクライナに関する私の最大の心配は我々自身についてである」と述べた。