ロシア(モスクワ)では5月20日から25日にかけて、外交、安全保障そして経済に関する重要な会議が行われました。すなわち、5月20日には対外及び防衛政策協議会第31回会合、同24日には安全保障問題高級代表第11回国際会議、同日から翌日にかけてのユーラシア経済フォーラム(昨年末に定期化を決定)です。非常時に際して緊急に招集・組織されたものではなく、ルーティン的な性格です。このこと自体、ウクライナに対して特別軍事行動を行っているにもかかわらず、ロシア政治が基本的に安定的に運営されていることを物語っています。
 プーチン大統領は、24日に始まった安全保障問題高級代表の会合にはビデオ・メッセージを寄せ、ユーラシア経済フォーラムは自ら主催しました。また、ラブロフ外相は前2者の会議で発言を行っています。プーチン及びラブロフの発言から理解されるのは、ウクライナ問題に重要な位置づけが与えられていることはもちろんですが、しかし、同問題はあくまで全体の中の一部ということです。
 また、コラムで取り上げようと思いながらついつい先送りになってしまっている、私にとっての宿題の一つに、3月31日にプーチンの決裁を得た「ロシア連邦対外政策概念」(改訂版)という基本文書があります。この文書は、「ロシア連邦安全保障戦略」を部分的に詳しくしたもの(第3項)という位置づけです。この文書の内容については、プーチンが直々に目を通し、その指示により書き直しが行われ、3月31日にようやく決裁にこぎ着けたことは、ラブロフ自身が明らかにしています。ウクライナ問題は深く影を落としています(第13項)。とは言え、ウクライナ問題が文書全体を覆っているということではありません。以上の3つの会議におけるプーチン及びラブロフの発言の中でもこの文書への言及があるように、ウクライナ問題はロシアの対外政策における「重要な一部」という位置づけです。
 私は、プーチン(及びラブロフ)の国際情勢認識の基本を以下のようにまとめることができると判断します。注目すべきは、「昔取った杵柄」というか、プーチンもラブロフも歴史の弁証法を自家薬籠中のものとしていることです。パワー・ポリティックスの発想に凝り固まったアメリカの政治家には欠落しているものです。したがって、物事に一喜一憂せず、歴史的枠組みの中でロシアを位置づけ、捉える視点が備わっており、ロシアは歴史的潮流に即して動いているという確信が自信とレジリエンスを生んでいるのだと思います。
 第一、世界は多極化に向かって進んでおり、この流れは歴史的に不可逆である。
 第二、アメリカは西側諸国を従えて多極化の流れをひっくり返そうと、必死にあらがっている。
 第三、アメリカは多極化の流れの中心に座るのは中国(総合力)とロシア(軍事力)であると見なし、両国を叩くことで一極支配を実現しようとしているが、孤立を深めており、歴史的に形勢挽回は不可能である。
 第四、ロシア(及び中国)は、多極化(国際関係の民主化)という歴史的趨勢を肯定し、その実現に積極的に加わり、貢献していく。
 第五、多極化か否かの闘いは、「国際法(国連憲章)に基づく秩序」(グローバル・サウス+中ロ)か「ルールに基づく秩序」(米西側)かの争いとして具現している。
 (第六、ウクライナ問題は、米西側とロシアとの多面的争いにおける当面の焦点の一つではあるが、すべてではない。)
 西側メディアの支配・影響下にある日本のメディアの報道に日夜さらされている多くの日本人は、ロシアが明日にも崩壊するのではないか、と受け止めがちです。しかし、そのような受け止め方は間違いであると私は判断します。「ロシア連邦対外政策概念」(改訂版)の一般規定及び国際情勢判断の部分を紹介するとともに、以上の3つの会議におけるプーチンとラブロフの発言内容を紹介するゆえんです。

<「ロシア連邦対外政策概念」(改訂版)>

(一般規定)
○この概念は、対外政策、基本原則、戦略目標、及びロシア対外政策の主要目的と優先分野におけるロシアの国益に関する体系的ビジョンを規定する戦略計画文書である(第1項)。
○この概念は、ロシア憲法、国際法の原則・規範、国際条約及び対外政策を規律する連邦法規に基礎を置く(第2項)。
○ロシア世界の文化的文明的共同体に属するロシア人等を結びつけるユニークな国家・文明体としてのロシアの特別な地位を決定するのは以下の諸要素である:千年以上の独立国家;先行する時代の文化的遺産;伝統的な欧州文化及びその他のユーラシア諸文化との深い歴史的結びつき;様々な民族の調和的共存を確保する能力(第4項)。
○ロシアの世界における地位を決定するのは以下の諸要素である:あらゆる分野における重要資源;国連安全保障理事会常任理事国というステータス;指導的国際機関の参画者;二大核保有国の一つ;ソ連邦の継承国。第二次大戦勝利への決定的貢献、国際関係システム形成及び植民地主義システム消滅に対する積極的役割に鑑み、ロシアは、世界的なバランス・オヴ・パワーを維持し、多極的な国際システムを形成するとともに、人類の平和的進歩的発展のための条件を保障するという、歴史的にユニークなミッションを遂行する、世界的発展における主権的中心の一つである(第5項)。
○ロシアは、国益及び平和と安全を維持する特別な責任に対する自覚に基づく、独立した多元的な対外政策を実行する。ロシアの対外政策は、平和、オープン、予想可能、一貫、現実的である。それは、普遍的に承認された国際法の原則と規範の尊重及び、共通の問題を解決し、共通の利益を推進するための公平な国際協力に対する願望に基礎を置く。ロシアの諸外国及び国家間機関に対するアプローチは、ロシアに対するこれらの国家・機関の政策が建設的か、中立的か、または非友好的かによって決定される(第6項)。
(今日の世界:主要な傾向及び発展の可能性)
○人類は今、革命的変化の中にある。より平等で多極的な世界秩序の形成が進んでいる。数世紀にわたって続いた、アジア、アフリカ、ラ米の殖民地資源の略奪を通じて経済成長を維持してきた植民諸国の不均衡な世界発展モデルは過去のものになろうとしている。非西側世界諸国及び地域的に指導的な国々の主権と競争機会が強まっている。世界経済の構造変化、そのニュー・テクノロジー基盤への移行、民族的自覚の増大、文化的文明的多様性その他の要素は、経済成長及び地政学的影響力の新たな中心に向かって発展的な移行プロセスを加速し、国際関係の民主化を促進している(第7項)。
○しかし、現在起こりつつある好ましい変化は、世界支配及び新植民地主義のロジックになじんだ国々にとっては歓迎されていない。これらの国々は、多極世界の現実を認めることを拒み、多極的世界秩序の特性及び原則に同意することを拒んでいる。歴史の必然的な流れを抑え込み、政治軍事及び経済分野における競争相手を潰し、異なる意見を抑圧しようとする試みが行われている。そのために、広範囲にわたって不法な手段及び方法(国連安保理を迂回する制裁、クーデター及び軍事紛争の挑発、脅迫、恐喝、特定グループさらには国民全体に対する意識操作、情報分野における攻撃的で破壊的な活動等)が使われている。主権国家の内政に干渉する形態として、精神的及び道徳的な伝統的価値に背馳する、新植民地的なイデオロギーを押しつけることがおおっぴらに行われている。その結果、国際関係のあらゆる分野にその破壊的な影響が及んでいる(第8項)。
○国連その他の国際機関に対する深刻な圧力が加えられている。国際法システムは試練に見舞われている。少数の国々が、「ルールに基づく世界秩序」なる概念で国際法システムに取って代わろうと企んでいるからだ。国際問題においては対話の文化が衰え、平和的紛争解決手段である外交も減っている。国際関係における信頼性及び予測性の欠落が著しい(第9項)。
○経済のグローバル化に危機が深まっている。エネルギー市場及び金融セクターにおける問題は、(西側主導の)無責任なマクロ経済的解決策、不法な一方的制限措置、そして不公正な競争によって引き起こされている。支配的地位を乱用する特定の国々が世界経済の分断プロセスを強め、国家発展における不均衡を増大させている。(このような事態に対処するべく)新たな決済システムが広がりを見せるとともに、新しい国際基軸通貨に対する関心が増大し、国際経済協力メカニズムを多様化するための条件が形成されつつある(第10項)。
○国際関係におけるパワーという要素の役割が増大し、戦略的に重要な地域における紛争が拡大している。国際法に違反する武力行使、宇宙及び情報空間の軍事利用の動き、国家間対立における軍事手段と非軍事手段との境界の曖昧化、多くの地域における軍事紛争のエスカレーションなどは、大国間の衝突の危険性を高めている(第11項)。
○世界秩序の危機に対する論理的対応手段は、外からの圧力にさらされている国々の間の協力の強化である。地域的及び地域を越えた経済統合・協力メカニズムの形成、共通の問題を解決するためのマルチの形態のパートナーシップの設立が強まっている。死活的な国益を守る手段も講じられつつある。相互依存が高まり、挑戦・脅威の性格がトランスナショナルとなっているため、伝統的な同盟関係では対応する能力が限られている。今日の多くの問題を効果的に解決し、大小様々な国々及び人類全体が平和的に発展するためには、パワー及びインタレストのバランスに立った国際社会全体の努力を結集することが不可欠である(第12項)。
○アメリカ及びその衛星諸国は、現代世界発展の指導的センターの一つであるロシアの強化及びその独立した対外政策を西側のヘゲモニーに対する脅威と見なし、ロシアがウクライナに対してとった行動を長期にわたる反ロシア政策を推進する上での口実とし、新しい形のハイブリッド戦争を発動した。この戦争が目指しているのは、すべての可能な方法を用いてロシアを弱体化し、ロシアの役割、パワー、能力を損ない、内外政策に関するロシアの主権を制限し、その領土的統一を侵害することである。この西側の政策は包括的であり、今やドクトリンの域にまで高められている。これはロシアが選択したことではない。ロシアは、西側の敵であると考えていないし、西側から孤立する意思もなく、敵対的意図も持っていない。ロシアが望むのは、西側に属する国々がこの対決的かつ覇権的な野望に基づく政策には先行きがないことを将来的に自覚し、多極世界の複雑な現実を考慮に入れ、主権の対等平等及び互いの利益に対する尊重という原則に従ってロシアと現実的な協力を再開することである。ロシアは、以上の基礎の上における対話と協力の用意がある(第13項)。
○西側の非友好的な行動に対し、ロシアは、可能なすべての手段を講じて国家的存続及び発展の自由の権利を防衛する。ロシアは、互恵的国際協力を拡大するべく、対外政策分野において創造的なエネルギーを集中する。人類の大部分は、ロシアと建設的関係を持つことに関心があり、また、ロシアが、世界の安全を維持し、諸国の経済発展を確保する上で決定的貢献を行う影響力あるグローバル・パワーとして、国際関係で立場を強化することにも関心を持っている。このことは、ロシアが国際関係で成功裏に活動するための豊富な可能性を提供するものである(第14項)。

<安全保障問題国際会議へのプーチンのビデオ・メッセージ>

*ロシア・トウデイWS(5月24日付け)がメッセージのさわりを要領よく紹介しています。以下はその大要。なお、この会議には100ヵ国以上の代表の参加があったそうです。
 プーチンは、公正な多極世界をともに構築していくと述べた。モスクワは、利害をともにする国々と協力して共通の脅威及び挑戦に取り組んでいく用意がある。「私は、私たちが力を合わせれば、もっと公正で多極的な世界の形成を実現できるし、排除のイデオロギー及び新植民地システムを過去のものにすることができると確信している。」
 プーチンは、ロシアが多くの地域及び大陸にパートナーを持っていると述べた。「我々は、アジア、アフリカ及びラ米の国々との間に、歴史的に強力で、友好的で、真に信頼できる結びつきを持っていることを重視しており、あらゆる方法でこの結びつきを強めていく。」
 プーチンは、アメリカ及びその同盟諸国は世界に対する支配を維持しようと躍起になっており、そのために国際関係における不安定さが増していることを指摘した。しかし、プーチンは、「脅迫と不法な制裁」という西側の政策に代わるべきものがあることをロシアは確信している、と強調した。プーチンは、「世界の安定と不可分の安全保障を保障するシステムの構築とを強化し、経済、テクノロジー、社会の発展を確保するための主要課題を解決するべく」諸国はともに協力していくべきである、と強調した。

<ユーラシア経済フォーラムにおけるプーチンの基調発言>

*スプートニク通信(5月25日付け)が基調発言のさわりを要領よく紹介しています。以下はその大要。なお、このフォーラムの主要参加者は、ベラルーシ、カザフスタン、キルギスの大統領、アルメニア首相、また、特別参加としてアゼルバイジャン大統領など。
 プーチンは、世界的変化に関する見解を次のように披露した。「我々は、世界を舞台に極めて奥行きの深い基本的な変化が起こりつつあることを見届けている。ますます多くの国々は、国家主権を強化する方向を目指しており、独立した内外政策を遂行し、固有の発展モデルを大切にするようになっている。」
 クレムリンは3月に対外政策ドクトリン改訂版を公表した。文書では、ロシアの国際的役割を改訂し、すべての国家の安全と平等な機会を保障する、国際関係の多極的かつ公平なシステムの確立を目指すことに力点を置いた。新ドクトリンは、アメリカその他の非友好国による国際関係に対する支配を根絶し、如何なる国家も新植民地的、覇権的な野心を拒否することを可能にする条件を作り出すという目標を設定している。
(脱ドル化による世界経済の非政治化の促進)
 プーチンは、国際金融分野でも劇的な変化が起こりつつあることを強調するとともに、ロシアはこの変化に適応できるだけではなく、このプロセスにおけるリーダーになることができることを強調した。プーチンは特に、ロシアが非友好諸国との決済においてこれらの国々の通貨のシェアを減らしているとともに、世界のパートナー諸国との間で自国通貨の全面的使用に移行する方向で積極的に動いていることを強調した。  プーチンは以前、アメリカが、他国に服従を強要するべく、事実上、ドルを武器化していることを非難したことがある。プーチンはフォーラムで、世界金融システムを非中央集権化することによって、「経済分野における活動の非政治化」に導くことができるという確信を表明した。プーチンによれば、非中央集権化により、基軸通貨諸国を襲う経済危機からの影響を少なくすることができるし、金融取引ひいては世界経済全体の安全も確保できることとなり、非政治化を促進することにつながるだろう。
(新物流ルートとテクノロジー主権)
 プーチンは、ロシアが新物流ルートを創造することに力点を置いていることを指摘した。新物流ルートを開拓し、国際ルートを発展させることは急務である。プーチンは特に、セントペテルブルグからインド・ムンバイ港に至る南北運輸回廊の建設に言及した。プーチンは、「つい先日、イランとの間でラシュト・アストラ鉄道敷設について協定を交わした」と述べた。「これにより、バルト海のロシアの港湾とペルシャ湾及びインド洋沿岸のイランの港湾とを結ぶことが可能となる。」
 プーチンはまた、ユーラシア経済連合の優先課題の一つとして、テクノロジー主権を確保することの重要性を強調した。経済連合諸国は、科学、人材、産業の分野で、高品質でハイテク、したがって世界市場で競争力を有する製品を製造するための十分なポテンシャルを有している。プーチンは、テクノロジーにおける独立は経済的政治的独立のためのカギであると強調した。

<外交防衛政策会合におけるラブロフ発言要旨(5月20日)>

 我々は今、アメリカ、EU、NATOの侵略的ブロックと厳しく対立しており、このブロックは、その目標が「戦場でロシアを敗北させることだ」と公然と述べている。ただし、このブロックはロシアを敗北させても、そこでストップすることはなく、ロシアを「地政学的ライバル」の地位から完全に追い落とすまで突き進もうとしている。このブロックはまた、国際的に独立で存続したい如何なる国をもライバルと見なして「抑圧する」だろう。広島サミットはロシアと中国を抑え込む決定を行った。
 西側の専門家コミュニティは、ロシア分割シナリオに関して(上から降りてきた)「命令」をオープンに議論している。この議論においては、ロシアが独立したセンターとして存在することが西側の世界支配実現という目標とは両立しないということが秘密ではない。アメリカが西側を支配していることはハッキリしている。ロシアの対外政策概念改訂版では、はじめて「アングロ・サクソン」という用語を使っている。これは、アングロ・サクソン世界が欧州大陸全体に対する支配を確立した事実を反映したものである。また、アジア諸国を含むいわゆる「コレクティヴ・ウェスト」の国々も欧州大陸の命運を共有している。誰もが新しい現実に直面している。文書はそのことを表している。
 しかし、世界のトレンドを見るならば、ウクライナを取り巻く情勢の発展は、国際関係の多極システムへの移行を加速させている(ことが分かる)。ワシントンは、ウウライナ危機を利用して陣営を固めようとした。しかし、それと同時的に起こっているのは、コレクティヴ・ウェストと世界の多数派すなわちグローバル・サウス及びイーストとの間に分断線が現れているということである。多くのグローバル・サウスの国々は、公然と態度表明する一部の指導者を除き、公然かつ断固としてではないとしても、押しつけがましい、攻撃的な西側の要求に対して、実際の行動で抵抗しようとしている。この分断線は、ロシアが議長国を務めた安保理での、多国間主義及び国連憲章擁護を議題とする議論の場で極めて明確になった。西側は、G20などのマルチの場におけると同様、ここでも議論を「ウクライナ問題」に集中しようとした。しかし、彼らのロシア嫌いに熱中する態度は、世界多数派の間に根強い、しかも次第に高まる反感を生むこととなった。多くのサウス及びイーストの代表は、アフリカ及びアジア諸国の社会経済開発計画がさらなる支援を必要としているという死活的な問題に対して、西側が無関心を決め込んでいることに対する不満を昂じさせている。そういう不満が今回の議論の場でも明らかに示された。
 高慢かつ尊大な西側のアプローチにより、国際関係は難しい状況に置かれている。一極支配から多極世界に移行することに関しては、妥協を含め如何なる可能性も思いつかない。しかし、確かなことは、現代が多極化への移行期であるということだ。この歴史的時期は長期間にわたるものとなるだろう。この課題に取り組むに当たって、我々には多くの同盟者がいる。誰もが知っているように、中国、インド、ASEAN諸国、湾岸諸国、イラン、トルコ、アフリカ連合、そしてラ米・カリブ海諸国との関係がある。ほかにも、旧ソ連のCIS、CSTO、EAEUがある。もちろん、最近もアメリカ及びEUが中央アジア諸国を訪れるなど、多くの挑戦もある。しかし、長期的に見れば、西側特にアメリカは、IMF、世界銀行、さらには世界経済におけるドルを含め、これまでの既得権益を自分で傷つけている。脱ドル化は、概念上も現実においても進行中である。  我々には多くの同盟者と共鳴者がいる。我々は誰との間でもけんかをふっかけたりはしない。しかし、我々に対して宣言された戦争に対しては、断固として対応しなければならない。

<安全保障問題国際会議におけるラブロフ発言(5月24日)>

 国際関係は重大な地殻変動のただ中にある。一国またはグループを作る国々が世界を支配するという考え方は忘却の彼方に埋没しつつある。世界は、より公正で多極的なシステムに向かって力強く歩み続けている。しかし、アメリカに率いられた西側少数派はこの客観的な流れを真っ向から拒否している。彼らは、国連憲章が定める主権平等原則に刃向かい、世界を「民主主義諸国」と「権威主義諸国」とに人為的に分けようとしている。G7広島サミットは、ロシアと中国を西側支配にとって存亡にかかわる脅威と見なしている。西側は今や、国連中心の世界秩序を「ルールに基づく秩序」とやらに変えようと企んでいる。彼らの目的とするところは明らかで、それは現存する法的システムを破壊し、新しいいくつかの世界的センターが発展していくことを阻止し、他国を犠牲にして自分たちの植民政策にしがみついていこうとするものだ。
 ウクライナ問題に関し、ロシアは、国連憲章第51条が定める自衛権を発動して、特別軍事行動を遂行することを余儀なくされた。この行動は、NATOが作り出したロシアに対する安全保障上の脅威を絶滅するためにも必要な措置であった。いわゆるコレクティヴ・ウェストは、ロシアを戦略的に敗北させる意図を隠しておらず、そのためにキエフ当局を使っている。彼らがウクライナ問題を利用するのには、もう一つの理由がある。それは一極世界秩序を取り戻したいという野望である。そのために彼らは、競争相手を除去することに賭けているのだ。これが、通貨貿易分野を含む西側流グローバリゼーションの目的である。
 ロシアと同じく、世界のほとんどの国々がこの西側の脅威と脅迫に直面している。アメリカは、いわゆるインド太平洋戦略の一環として台湾海峡で意図的に緊張を作り出している。AUKUSもその一環だ。また、長年にわたり、コレクティヴ・ウェストは中東及び北アフリカに緊張の種を蒔いてきた。今彼らは、コーカサス南部及び中央アジアなどにも自分たちの支配を植え付けようと企んでいる。アフリカ、ラ米も例外ではない。国際緊張を緩和するため、我々はワシントンとブラッセルに対して一方的な解決の押しつけをやめ、国連を矮小化し、その枠組み外で物事を企むことをやめるように呼びかけている。しかし、彼らには我々の呼びかけに応じる意思はない。
 今日の緊急課題は、世界の安全保障構造を更新し、国連憲章の諸原則に対する無条件の尊重に基礎を置く、より安定的な構造にすることである。しかし、西側がこれに協力する意思はないため、当面の目標は、西側によって支配されない地域的及び地域間の安全保障メカニズムを作ることとなる。この点に関しては、CSTO、EAEU、CIS、SCO、ASEAN及びCCASを含む拡大ユーラシアにおける多国間機構間の多目的な結びつきを強化していくことが有意であろう。我々が一貫してよって立つ前提は、今日の地政学的な乱気流によって人類全体に対する多くの脅威に効果的に対処する国際的努力の結集が妨げられてはならない、ということである。
 ロシアは、ユーラシア及びユーロパシフィックの最大の国家並びに世界有数のセンターとして、緊急の安全保障上の挑戦に対処するべく、国際社会が団結することを一貫して呼びかけてきた。ロシア外交は、バランス・オヴ・インタレスト及び相互尊重に基礎を置く実際的な取り決めを結ぶべく、パートナー諸国と対話することに常にオープンである。成功のカギは、国際法の普遍的規範、特に国家の主権的平等原則に依拠することである。