5月7日にアラブ連盟(以下「連盟」)外相特別会議は「シリア政府代表団が連盟理事会及びそのすべての会議に参加する資格を即日回復する」決定を行いました。これは、3月10日に発表されたイランとサウジアラビア(以下「サウジ」)の関係改善に次ぐそしてそれに匹敵する、正に中東の政治地図を塗り替える重みを持つ出来事でした。もちろん、シリアとの関係改善を目指す動きはその前から静かに進行していました。しかし、イランとサウジの関係改善実現はシリアの連盟復帰を後押しする客観的要因として作用したことは明らかです。特に、これまでアメリカと緊密な同盟関係にあったサウジが、アメリカにとっての「最大の脅威」・中国の仲介により、アメリカにとっての「中東最大の敵」・イランとの関係改善へと大きく方向転換したことは、アメリカの中東覇権の衰退が今や逆戻りできないまでに決定的になっていることを示すものでした。これまでアメリカの強い影響下にあった連盟がシリアの連盟復帰を決定したことは、アラブ諸国がこれからは独自の意志に基づいて行動することを宣言したに等しい行動です。それはまた、アサド政権を2015年以来強力に支援してきたロシアの中東政策をアラブ諸国が肯定した意味合いをも持ち、アサド政権の追い落とし一本槍で突き進んできたアメリカの対シリア政策にアラブ世界が「造反」したという意味も持ちます。ということは、アメリカを筆頭とする西側(いわゆるコレクティヴ・ウェスト)対中ロという世界規模の対決の構図の中で、いわゆる「グローバル・サウス」の中でもっとも「親西側」と目されてきたアラブ世界が中国とロシアの対アラブ・中東政策に軍配を上げたにほかならず、シリアの連盟復帰は単に中東政治だけではなく、国際政治的意味合いをも有する巨大な出来事であったということも可能だと思います。
 アメリカに全面追随する自民党政治、国内政治に埋没して国際的視野が欠落した野党勢力、米欧メディアの中国・ロシア批判に盲従する日本マスコミ、そういう自民党政治・野党勢力・日本マスコミに大きく取り込まれて反中反ロ世論が支配する日本では、シリアの連盟復帰が意味する、以上のような国際政治地図の激変を感知する触覚が完全に欠落しています。しかし、イランとサウジの関係改善を仲介した中国は違います。シリアの連盟復帰が持つ巨大な国際政治上の意味合いをしっかりと見届けているのです。日本及び日本人がいかに「井の中の蛙」であるかを確認する意味で、シリアの連盟復帰にかかわる中国の論調2篇を紹介するゆえんです。
 なお、シリア関連の中国側論調としては、このほかにも例えば以下のような文章があります(時系列順)。
「アサドが12年も耐え忍ぶことができた主因はシリア人民の支持」(原題:"巴沙尔如何熬过艰难12年?俄媒:主要原因是叙多数民众支持") 5月9日付け環球時報。同紙は、12日付けでも、シリアが12年も耐えられた原因を検討する文章を掲載し、2015年以来のロシア、イラン等による支援、アサド政権に対抗する(外国支援を受けた)勢力が国内的支持基盤を持たないことに加えて、2011年までのシリアがアサドの「穏健な改革」により中東地域では経済発展がもっとも早かったことに対するシリア人民の支持があったこと、2018年のアラブ首長国連邦及びバーレーンの在シリア大使館再開を始めとする域内関係修復の動き、本年2月のトルコ大地震で同じく大きな被害に見舞われたシリアに対する同情と支援など、様々な要因が働いたことを指摘しています。それらの結果、「アメリカがアラブと対立する側に立たされ、極めてまずい境地に陥ることになった」(ワシントン・オブザーバー紙)と指摘しています。
「(アメリカの)行き詰まった狭隘排他的功利主義の中東外交」(原題:"狭隘排他的功利外交在中东行不通") 5月10日付け環球時報(上海外国語大学中東研究所教授・劉中民署名文章)
「シリアのラブ連盟復帰が地域情勢に及ぼす影響」(原題:"叙利亚回归阿盟对地区局势有何影响") 5月11日付け工人日報(畢振山署名文章)
「アメリカは直ちにシリアに対する人道主義的災難製造をやめるべし」(原題:"美方应立即停止在叙利亚制造人道主义灾难") 5月12日付け人民日報(鐘声署名文章)
「ますます人心が離れるアメリカの中東政策」(原題:"美中东政策日益不得人心") 5月13日付け解放軍報(上海社会科学院国際問題研究所・趙国軍署名文章)

<中央電視台国際鋭評評論員「「アメリカのシナリオ」から再度飛び出した中東」(原題:"中东再次跳出了"美国剧本"") 5月9日>
 12年間の孤立の後、シリアはついにアラブ連盟に復帰した。連盟は1945年成立、メンバー国は22、シリアは創始国の一つだった。2011年にシリア危機が勃発、連盟はシリアの資格を停止し、サウジ等多くが在シリア大使館を閉鎖、シリア外交は孤立に陥り、同時に米西側諸国の制裁に見舞われた。
 だが、シリアの連盟復帰は実のところ別に意外というわけではない。シリアは2018年以後領土の70%以上を支配し、反対派は日増しに勢力が衰えていた。戦後復興が日程に上るにつれ、アラブ諸国はシリア政府との接触を始めた。特に本年に入ってから、アラブ首長国連邦がアサド大統領の訪問を丁重に受け入れ、チュニジアとシリアは共同声明を出して大使館を再開し、サウジのファイサル外相がシリアを訪問するなど、シリアの連盟復帰は時間の問題とみられるに至っていた。
 中東情勢の変化という大きな角度から見れば、中国の仲介のもとでサウジとイランが握手したことは、シリアの連盟復帰を直接的に促す働きをした。なぜならば、シリア危機の中で、サウジとイランは対立しあう政治勢力を支持してきており、その両国が和解したことはシリアと連盟諸国との関係を緩和することにチャンスを作り出すことになったことは疑いないからである。
 さらに重要なことは、現下の世界が新たな変革期に入っていることである。世界の大勢を見極めたアラブ諸国は競って「覚醒」している。アメリカは長期にわたって中東問題に干渉し、対決・分裂を作り出し、延々と続く衝突・戦乱を引き起こしてきた。中東の人民は、自らの命運を掌中に収めなければならないことをますます自覚するようになっている。連盟のアブルゲイト事務総長が述べたとおり、「アラブ諸国の共通の利益から言って、シリア問題をこれ以上放置することはできない」のである。
 国際社会はシリアの連盟復帰を軒並み歓迎している。この賢明な行動は、シリアの地域協力強化、経済改善、戦後再建に資するとともに、連盟が国際発言力を高め、アラブ諸国が政治的に協力し合い、国際場裏でさらに重要な役割を発揮することにも資するし、シリア危機の政治的解決に関する共通認識を醸成し、中東情勢の一層の緩和を促進することにも資するだろう。
 連盟がシリアの資格を回復したその日に、アメリカのサリバン補佐官がサウジを訪問した。ブルームバーグ通信は、「アメリカを無視した」連盟の決定はアメリカの中東地域に対する影響力の低下を反映していると指摘した。
 「アメリカの台本」に従おうとしない中東を前にして、ワシントンはせわしなく動いている。CIAのバーンズ長官はサウジを訪問して、サウジ・イラン関係の変化に「失望」を表明した。多くの国際場裏で、いわゆる「人権問題」を理由にシリア政府を非難している。ワシントンはまた、「アメリカがアサド政権と関係を正常化することはあり得ず、ほかの国々がシリアと関係を正常化することも支持しない」としている。
 しかし、アメリカのこうした動きは中東和解の大勢を阻止することはできない。サウジとイランの握手、シリアの連盟復帰は、中東諸国が「平和を欲し、発展を欲し、自らの道を歩むことを欲する」という明確なシグナルの発出である。フリーマンはニューズウィーク誌とのインタビューで、「今日の状況は、アメリカの圧力をかける能力が下がり続けているということだ」と述べた。モダン・ディプローマシー(WS)は、「アメリカの中東における影響力が下降することで、中東の問題は解決され、中東の春もまたやってくる」とコメントしている。著名な記者であるファリード・ザカリアもワシントン・ポスト紙で次のように指摘した。アメリカは、冷戦時代の「外交実績」から抜け出せず、外部世界で起こっている変化を受け止めることもできない。現在、中東で巻き起こっている「和解の流れ」は、時代は確実に違っているということをアメリカにリマインドしている。
<環球時報社説「独りアメリカを不興にさせたシリアのアラブ連盟復帰」(原題:"叙利亚重返阿盟,让谁不高兴了") 5月9日>
 シリアの連盟復帰は、シリア問題の政治的解決が「シリア政府との直接対話によってシリア危機全面解決の方法を実現する」という正しい軌道に乗り始めたことを示している。それは、アラブ諸国の団結と強化が新しい高みに到達したこと、また、かつては「世界の火薬庫」と見なされた中東地域に和平に対する確信をもたらしていることを象徴するものである。
 多くの分析によれば、シリアの連盟復帰には二つの大きな背景がある。一つは、本年2月にトルコとシリアの国境近くで発生した大地震である。このことはアラブ諸国とシリアが外交的交流を回復する歩みを速めた。もう一つは、中国の仲介のもとで、シリア危機で対立していたサウジとイランが歴史的に和解したことである。このことは、連盟の今回の決定に直接的動力を提供した。
 過去12年のシリアの歴史は慚愧に堪えないものである。2011年に「アラブの春」の影響のもと、シリア危機が勃発した。当時、米西側の圧力のもとで、連盟はシリアの資格を停止した。その後、外部の政治的軍事的介入によってシリア情勢は不断に悪化し、それによって起こされた甚大な被害が今日まで続いている。この12年間、中東諸国は戦乱、社会分裂、衝突頻発という苦難に見舞われ続けた。しかし、それ故に、団結、平和、発展に対する希求は、今日かつてなく強烈に高まっている。シリア外務省の最新の声明は、「対話、相互尊重及びアラブ諸国の共通の利益」を強調しているが、これは正に地域諸国の共通の願いを代表している。
 如何なる角度から言ってもシリアの連盟復帰は喜ばしいことだが、例外的に喜ばないものがいる。すなわち、アメリカとイギリスは公然と「批判」し、シリアは「(連盟に)受け入れられるべきではない」と公言した。これについてブルームバーグ通信は、連盟は「アメリカの警告を無視」し、10年以上に及ぶシリアの孤立を終わらせたと述べた。ウォールストリート・ジャーナル紙は、アメリカの中東における影響力は弱まっていると形容した。ワシントンが中東地域の独立自主表明を受け入れられないのにはわけがある。これらの年月にシリア及び中東地域で起こった多くの悲劇はすべてアメリカの中東政策に起因しているからだ。
 しかし、事実が証明するとおり、アメリカの投じてきた陰影は去り、和平の輝きが増した。アラブ諸国は独立自主の外交政策によって何ものも失わず、逆に、対話、和解そして尊重を獲得した。エジプト外相は7日に次のように述べた。シリア危機の各段階が「軍事手段によって危機を解決することはできず、勝ち組と負け組を作り出すこともできない」ことを証明している、と。この発言は、地域の内輪もめを煽り、軍事力を乱用するアメリカのアプローチに対する婉曲な回答と見なすことが可能である。だが、この見方こそ今日の国際社会ではますます普遍的になっている。アメリカのメディアも、連盟がシリアの復帰を認める決定を行ったことは、アメリカの中東支配拒否を象徴するものであり、中東諸国が西側とは独立した政策を行うことを表明するものであることを認めざるを得なかった。ただし、中東諸国が「西側から独立する」とする彼らの見方は誤りであり、西側が国際社会全体から孤立しつつあるというのが真実である。
 シリア戦争12年の際に、国連のグテーレス事務総長は和平のために新たなエネルギーを注入することを呼びかけた。シリアの連盟復帰はシリア危機の政治的解決にとってチャンスを切り開くものであるが、前途には依然として多くの障害がある。特に、アメリカがシリアに対して不法な一方的制裁を科していることは、この地域がさらに協力を進めることに対して多くの障害を作り出している。我々はアラブ諸国の団結自強を断固支持するとともに、和平の陽光と発展の希望が世界の隅々を照らすこと、特に覇権主義の陰影が覆っている地域を照らすことを、国際社会とともに希望するものである。