フランスのマクロン大統領の今回の訪中(4月5日-7日)は、習近平・マクロン両首脳間の相互理解・相互尊重を増進し、5つのテーマ(「政治対話強化と政治的相互信頼促進」、「世界の平和と安定の共同推進」、「経済交流促進」、「人文交流再出発」、「グローバルな課題への共同対処」)に関する共同声明発出によって、独立自主を標榜する中仏両国の関係を新たな高みに押し上げることを宣明するという、バイデン政権が推進する"アメリカによる世界一極支配再構築"戦略に「待った」をかける色合いが極めて強いものとなりました。マクロンが今回の訪中、特に習近平との6時間以上に及ぶ意思疎通を通じて、欧州の対米自主独立確立及びフランスの独自外交堅持に対する確信を深めたことは、中国滞在中にSNSで発出したメッセージ、帰国途上の専用機内におけるフランス(エコー紙)及びアメリカ(ポリティコ紙)の記者とのインタビュー発言、さらに訪中直後に行ったオランダ訪問(11日)における発言等から明確に読み取ることができます(後述参照)。
 また、西側諸国を束ねて対中国全面対決戦略を推進するバイデン政権の挑戦に直面する習近平は、マクロンの外交思想・政策の中に重要な原則的一致点を見いだし、それらを共同声明としてまとめることができたことを高く評価していると思われます。そのことは、北京での公式会談に加え、広州まで自ら赴き、非公式会談まで設定したことに端的に表されています(ちなみに、このような破格のもてなしをしたのは金正恩の訪中以来のことです)。
 マクロンの訪中時(+オランダ訪問時)の発言に対しては、アメリカ主要メディア、ポーランド、バルト三国などは極めて批判的です。他方、マクロン政権の経済担当閣僚やEU・ミシェル欧州理事会議長などは肯定する発言を行っています。当面の注目点としては、5月のG7広島サミットにおけるマクロンの去就が注目されます。

<「伍之管見」文章>

正直、私にとってもマクロン訪中の中仏両国にとっての「大成功」の結果は想像を超えています。しかし、4月11日付けの環球時報が掲載した文章を読んで、その謎(?)が解けたような気がしています。その文章とは、中国版のLINEともいうべきWeChatの公式アカウント名「伍之管見」による「訪中後に深まったマクロンの対米認識」(原題:"访华之后,马克龙对于"美国陷阱"的认识更深刻了")です。この文章は、マクロンが帰国途上の専用機内でのインタビュー発言(エコー紙の報道に基づくもの)を取り上げ、「欧州の向かうべき方向について深く考え、欧州の戦略的自主性に対する決心を深め、欧中関係にとって競争より協力がはるかに重要であることについて認識を深めた」と指摘した上で、この3点に関するマクロンの認識とは、「台湾問題に関するアメリカの欧州に対する難題押しつけに対する警戒」(原文:"警惕美国在台湾问题上给欧洲制造陷阱")、「欧州による戦略的自主性実現の決意」("欧洲要坚定实现战略自主的决心")、「欧州の対米依存縮小のカギは国防工業建設」("欧洲减少对美依赖关键在于加强国防工业建设")、以上3点にまとめられるとしています。私が特に注目し、納得したのは、第一点及び第二点に関する、この文章の以下の指摘でした。
 ちなみに、WeChat・公式アカウント名「伍之管見」とは何者なのかについて中国検索サイト「百度」などで当たってみたのですが、ヒットしませんでした(どなたかご存じの方は是非教えてください)。実は、「伍之管見」名での文章に気がついたのも今回が初めてでした。「百度」にはこの公式アカウント名による文章が3月と4月に集中して何編か紹介されていますが、それによる限りでは3月8日付けの文章「タイ旅行の熱(ブーム)からインド太平洋戦略の冷(実態)を見る」(原題:"从泰国游之热,看印太战略之冷")が最初であり、しかもこの文章は新華社(WS)が掲載しています。したがって、新華社と深い関わりがあることは間違いないと思われます。「官」色の強い「新華社」名の記事は人気がありませんが、4月9日付けで中仏共同声明の内容を紹介したこの公式アカウント名の文章(やはり新華社(WS)に掲載)へのアクセス数は59.2万とありますように、新華社の「ホンネ」を伝える「伍之管見」文章は人気上々のようです。
 脇道にそれました。「伍之管見」文章の紹介に戻ります。
(第一点)
 マクロンは次のように述べる。「我々は我々の団結に関心がある。中国人も彼らの団結に関心がある。彼らの角度から見れば、台湾は中国の一部だ。中国人がどのように考えているかを理解すること、これは非常に重要だ。」この発言は換位思考の精神を体現している。欧州の政治家とメディアがよくよく学ぶべきはこの精神ではないだろうか。
 台湾問題がエスカレートすれば欧州には如何なるメリットもない。マクロンはこの点を明確にわきまえている。彼は次のように言う。「我々欧州人が直面している問題は台湾問題(激化)を加速させる歩みは我々の利益に合致するかということだ。答はノーだ。」「我々はなにゆえに他人が選択した段取りに従う必要があるのだろうか。時に当たっては、我々の利益とは何かについて自らの心に問いかけなければならない。」  今次訪中の中で、マクロンは何度もフランスが一つの中国政策を堅持すると強調した。台湾問題においてアメリカの火中の栗を拾おうとする欧州諸国は、マクロンの発言に耳を傾けるべきではなかろうか。
 「欧州が陥る可能性がある落とし穴とは、自らの戦略的ポジションをわきまえてコロナ勃発前よりも自主性を強化しているときに、世界の混乱に巻き込まれ、我々自身のクライシスに縁もないことに巻き込まれる危険性だ。」マクロンは直接名指ししなかったが、欧州に落とし穴を設けようとする動機があるのはアメリカしかない。
(第二点)
 フランスは独立自主の外交的伝統があり、EU諸国の中では戦略的自主を追求している国である。欧州は如何にしてアメリカ従属に陥ることを避け、世界の第三極となるべきかについて、マクロンは一貫して考えている。今回の中国訪問によって、彼のこの問題に関する認識はさらに深まった。「中米対立激化が加速すれば、我々は戦略的自主確立の時間と手段がなくなり、アメリカの属国になってしまうだろう。しかし、数年のうちに戦略的自主を確立することができれば、我々は世界の第三極になることができる。」この発言の意味するところは明確である。つまり、欧州がアメリカの要求のままになって他国を圧迫することだけにエネルギーを使っているならば、欧州は世界の第三極になるチャンスを見逃してしまうということだ。
 マクロンの見方に従えば、戦略的自主とは、欧州がアメリカと見方を同じくする問題であっても、欧州独自の戦略を備えるべきであるということだ。「我々はブロック対立のロジックを採用しないだけではなく、「リスク回避」を重視しなければならない。」
 ロシアとウクライナが衝突してからの欧州の現状は、マクロンにとっては切歯扼腕とも言うべき事態である。「欧州が真の戦略的自主のために頑張らなければならないときに、我々はパニックに陥ってしまい、アメリカ追随の政策を始めてしまったのは正に自己矛盾である。」この発言は至言というべきである。ウクライナ戦争勃発後、EUは集団的パニックに陥り、ごく一部の国々を除き、アメリカに従ってロシア制裁を開始した。その結果は如何。エネルギー価格の暴騰、生産コストの大幅な上昇、多くの製造業のアメリカへの流出、欧州産業の空洞化の加速であり、EUが今日直面している危機は盲目的対米追随の所産以外の何ものでもない。
 私にとって特に「目からうろこ」だったのは、「我々は我々の団結に関心がある。中国人も彼らの団結に関心がある。彼らの角度から見れば、台湾は中国の一部だ。中国人がどのように考えているかを理解すること、これは非常に重要だ。」というマクロンの発言を、「伍之管見」が「この発言は換位思考の精神を体現している」と言い表していることでした。「換位思考」についてはこのコラムでも取り上げたことがありますが、丸山真男の「他者感覚」の中国的表現です。確認しておけば、「他者感覚」あるいは「換位思考」とは「他者を他者としてその内側から見る目」であり、他者である外国を正しく理解する上で不可欠の要素です("世界はアメリカを中心にして回っている"と思い込んでいるアメリカのエスタブリッシュメント層の思考・発想とは無縁のもの)。習近平はマクロンがそういう他者理解の目・資質を備えていることを認識したが故に、広州まで赴いて手厚くもてなすという破格の待遇を行ったのに違いありません。
 ちなみに私は最近、ニューヨーク・タイムズ紙(WS)に4月14日付けで掲載された、同紙コラムニストのトーマス・フリードマンの署名文章「米中と信頼危機」(原題:"America, China and a Crisis of Trust")に接する機会がありました。出だしの文章が「私のジャーナリズムの第一ルールは、行かなければ分からない("If you don't go, you don't know")である」だったこともあり、彼はひょっとして他者感覚を備えているのではないかと興味をそそられたのです。しかし、読み始めてすぐに分かったのは、フリードマンも他者感覚(換位思考)と無縁ということでした。彼もまた典型的なアメリカ的な知的エリートの一人だということです。彼はインタビューを通じて中国人の考え方を理解しようと努めます。しかし、相手(中国人)の発言の意味合いをアメリカ人的思考の枠組みにはめ込むのです。アメリカ(人)がパワー・ポリティックスの発想であるように、中国(人)もパワー・ポリティックスの発想に立っているに違いないという思い込みです。これでは「真の中国理解」ができるはずがありません。
 閑話休題。4月7日に広州で行われた習近平とマクロンの非公式会談の模様については、中国外交部(WS)が紹介しています。庭園を語らいながら散歩し、時に足を止めて景色を愛でた後、腰を落ち着けて「縦論古今」したとして、二人の発言を次のように紹介しています。習近平とマクロンの間に培われた相互理解と相互信頼の深さが十分に伝わってきますので、紹介する次第です。
-夕食会前-
(習近平)
 今日の中国を理解するには中国の歴史を理解することから始める必要がある(として、1000年前、100年前、40年前そして現在の広州について紹介)。
 習近平はマクロンに中国式現代化の本質、特徴及び核心的内容について紹介した。そして次のことを強調した。中国は今中国式現代化を全面的に推進している。これは、改革開放及び創新発展を通じて徐々に形成してきたもので、現代化の一般的法則に合致するとともに、独特な特徴をも備えた中国の特色ある社会主義現代化の理論と実践である。我々は中国の発展の前途に対して確信に満ちている(と述べた上で、フランスが広州交易会、上海輸入博覧会、中国国際サービス貿易交易会に積極的に参加し、中国市場を開拓することを歓迎する、と付言)。
(マクロン)
 真のフレンドシップは相互理解と相互尊重である。フランスは、フランス及び欧州が独立自主及び団結統一を堅持することを中国が一貫して支持していることを賞賛し、互いの主権及び領土保全などの核心的利益を中国とともに相互に尊重し、テクノロジーと工業の協力を強化し、相互に市場を開放し、AI等の科学技術協力を強化し、それぞれが発展振興を実現することを助け合うことを願っている。
-夕食会上-
 両者は、ウクライナ危機等の共通の関心がある問題について踏み込んだ意見交換を続けた。
(習近平)
 ウクライナ危機の原因は複雑であるが、長引くことはいずれの側にとっても不利であり、速やかに停戦することは関係方面及び世界全体の利益に合致し、政治解決のみが正しい出口である。ウクライナ問題に関しては、中国は私利によって問題を処理することは絶対になく、一貫して公平公正の立場に立脚している。関係方面はすべからく責任を担い、同じ目標に向かって歩み寄り、政治解決のための条件を作り出すべきである。フランスが政治解決について具体的提案を出すことを歓迎し、中国はこれを支持するとともに、自らも建設的役割を発揮したいと思う。
(マクロン)
 フランスも同じく、ウクライナ危機の政治解決に当たっては各方面の合理的関心(浅井注:「各方面の合理的関心」とは、ウクライナのみならずロシアの関心の所在をも指す表現。マクロンが中国の認識を共有したことを表している)を考慮する必要があると考えている。フランスは中国の国際的影響力を非常に重視しており、中国と緊密に意思疎通及び協力し、危機の速やかな政治解決を推進するために共同の努力を行いたい。
-別れに臨んで-
(習近平)
 この二日間、我々は北京と広州で突っ込んだ、中身の濃い交流を行い、理解と相互信頼を増進し、今後の中仏両国の二国間及び国際レベルにおける協力の方向性を明確にした。中仏、中欧関係そして多くの国際及び地域問題について、同じまたは類似の見方を持っていること(が確認できたこと)をとても嬉しく思っている。このことは、中仏関係のレベルの高さと戦略性を体現している。貴方と引き続き密接な戦略的意思疎通を保ち、中仏全面戦略パートナーシップを新たな高みに引き上げることを推進していきたい(浅井:後述するように、元首定期協議合意に結実)。
(マクロン)
 この二日間、我々の交流と友好は深まり、私自身は中国の悠久にして輝かしい歴史と文化をさらに深く理解し、現代中国の治国理政の理念に対する理解を増進することができた。今回の旅行は大成功であり、豊富な成果を得た。このことは仏中関係のさらなる発展を力強く推進するに違いない。私は、習近平主席と密接な戦略的意思疎通を保ち、来年には習主席のフランス再訪を歓迎できることを期待している。

<マクロンのSNS投稿記事>

 4月10日付けの環球時報(WS)は、「マクロンの訪中総括の動画投稿」(原題:"马克龙发视频总结访华:深信法中友谊,促进"和平、稳定与繁荣"")と題して、彼の7日及び8日のツイートそして10日にツイッターにアップロードした1分51秒の動画について紹介しています。
(5月7日夜)
 マクロンは中国語、フランス語及び英語の3カ国語で仏中のフレンドシップを賛美し、次のように述べた。「北京から広州にやってきて、フランス語を学んでいる大学生たちに出会った。彼ら青年は情熱を抱き、遠大な抱負を抱いている。イノベーション精神に満ちた企業家たちにも会い、フランスの芸術的スピリットに啓発されている芸術家たちとも会った。我々が一緒になれば大いになすことができる。仏中フレンドシップ万歳!」
(5月8日0時頃)
 中国語とフランス語で広州に対する謝意を次のように記している。「広州、ありがとう。仏中フレンドシップ万歳! Merci Canton, Vive l'amitieentre la Chine et la France!」その後に、広州・猟徳大橋イルミネーションの動画がつけられており、その動画では中仏両国国旗と平和の鳩を確認できる。
(5月10日)
 「「平和、安定、及び繁栄」という互いのモチベーションを促進する。」という文章に続いて、訪中に関する動画が続く。動画の中の字幕は次のように綴っている。「我々の本日の会合(浅井注:広州での非公式会談)の目的は、すべての衝突のエスカレーションを避けることそして、平和で安定した国際秩序を守り、作り出すことに会った。我々の共通認識は、国際法を尊重すること、同時に、平和、安定及び我々の共同利益のために努力するということである。」(浅井:アメリカが「ルールに基づく国際秩序」を唱えてパワー・ポリティックスを正当化するのに対して、中国とロシアは国連憲章・国際法に基づく国際秩序を主張して対立しており、マクロンが「国際法の尊重」を明言しているのは極めて重要な意味合いが込められていると思います)。

<中仏共同声明>

 中仏共同声明における「一 政治対話強化と政治的相互信頼促進」、「二 世界の平和と安定の共同推進」における注目すべき内容は以下のとおりです。

(政治対話強化と政治的相互信頼促進)

○両国元首による年次会合メカニズム。中国が元首年次会合を行っているのは、これまではロシアとのみですから、中仏間でも行うことに合意したのは画期的です。
○中仏間のハイ・レベル協議メカニズムとしては、戦略対話、経済財政金融対話、人文交流の3つがありますが、年内に3大メカニズムの会合を行うことに合意。
○相互の主権及び領土保全の尊重確認。フランスは一つの中国政策堅持を再確認。
○戦略問題に関する交流深化に同意。「特に、中国人民解放軍南部戦区とフランス軍太平洋海区との対話を深化し、国際及び地域問題における相互理解を強化」することを特記。フランスの南シナ海への進出はこれまで、アメリカのインド太平洋戦略の一環として理解されてきましたが、今回の合意により、フランスは中国の戦略的関心をも尊重することとなり、中国の"戦略的巻き返し"という意味合いを持ちます。

(世界の平和と安定の共同推進)

○安保常任理事国として、両国が「国際の安全及び安定に関して直面する挑戦と脅威に関して、国際法に基づく建設的解決策を追求すること」、「対話と協議を通じて国家間の問題・紛争を解決すべきこと」、「多極世界の中で国連を中心にしたマルチの国際システムの強化を探究すること」を明記(浅井:いずれも、アメリカに「待った」をかける意味合いが強い)。
○ウクライナ和平に関して、「国際法及び国連憲章の精神及び原則の基礎の上で平和回復に努力することを支持」(浅井:フランスが中国の主張・立場に全面的に歩み寄っている)。
○イラン核問題の政治的外交的解決。JCPOAを積極的に評価。これまた、アメリカに対する中仏共同対処の意味合い。
○朝鮮半島問題に関する緊密な意思疎通継続。

(「伍之管見」文章)

 すでに紹介したように、「伍之管見」は、今回の中仏共同声明をも、「情報量ハンパない、喜ばしい共同声明」(原題:"信息量巨大!这份联合声明给中法人民带来什么惊喜")と題して取り上げています。中仏間ではこれまで、2014年3月27日、2018年1月9日、2019年3月25日、2019年11月6日の4回にわたって共同声明が発出されてきましたので、今回は第5回目の共同声明となりますが、「伍之管見」は、今回が「もっとも内容豊富」と自画自賛しています。すでに紹介した政治外交面での成果に加え、「伍之管見」は、経済貿易面でも大きな具体的成果があったことを紹介した上で、「特に力づけられ、期待を増すこと」として、中仏両国が「企業に対して公平で差別的でない競争条件を提供すること」、さらにフランスは、「5Gを含むデジタル経済分野」で法令(安全保障に関するものを含む)の基礎の上で「中国企業の許可申請を差別なく処理する」と明記したことを特筆大書しています。そしてさらに次のように指摘しています。
 5Gという文言を見て真っ先に連想するのは華為のことである。このことは、西側に包囲され、圧迫されている華為その他の中国企業の境遇がフランスさらには欧州で改善されることを意味するのだろうか。今後の実施状況を見る必要があるのだろう。しかし少なくとも、フランスは法令に基づいて処理することを約束した。道理、法治から言って、状況は少し安定し、物事は少し良くなるのではないか。
 5Gそして華為こそは、中米経済紛争の集中的表現・シンボル的存在です。共同声明の表現は決して歯切れのよいものではありません(それ故にこそ、「伍之管見」の評価も以上のように慎重となっている)。しかし、問題の深刻性を百も承知した上で、マクロン・フランスがなおかつ「三 経済交流促進」の最初の項目で「企業に対して公平で差別的でない競争条件を提供すること」を取り上げ、かつ、「5G」という文言の明記に同意したことの意義はやはり大きいものがあると思います。

<オランダ訪問時のマクロン発言>

 4月11日にオランダに2日間の国賓訪問したマクロンは、初日(11日)にハーグで演説し、中国訪問時及び帰国時・機中発言に続く率直な発言で、再び大きな反響を招きました。この演説全文には接していないのですが、同日の中国新聞網、中国中央テレビ(WS)等はこの演説の概要を次のように紹介しています。断片的ですが、中国訪問を踏まえて欧州の対米自主独立に関する確信がさらに強まっているマクロンの昂揚した姿勢を窺うことは可能だと思います。
 マクロンは「欧州の主権」の将来像に言及し、欧州の主権とは、欧州大陸が「自らの協力パートナーを自主的に選択し、その命運を自ら作り出すこと」を意味するのであって、「世界の劇的変化の目撃者に留まる」ことを意味するのではないと述べた。経済に関しては、欧州は開放を堅持すると同時に、経済主権も堅持するべきであり、そうしてのみ、協力パートナーを自主的に選択し、命運を欧州人の掌中に収めることができるとした。そして、「我々はルールの制定者となるよう努力しなければならず、ルールの受容者たることに甘んじてはならない」とした。マクロンは、欧州大陸が他の大国に過度に依存することは危険だとした。過度に依存すれば、欧州は不利な立場に追い込まれ、自主的に選択することが難しくなる。
 マクロンは、彼が長年にわたって一貫して主張してきた欧州の「戦略的自主」という概念を強調した。彼は演説の中で、欧州は自給自足が必要であり、他の強力な貿易パートナーに依存することを避けるべきだとした。
 マクロンはまた、「雇用を造出し、社会に資金を提供し、独立自主の上で相互に協調することを可能にする新しい経済ルールを樹立すること」に言及した。そうすることは、危機に陥ったときあるいは経済が「武器化」に遭遇したとき(浅井:バイデン政権の保護政策)には特に重要である。