9月に入ってから、アメリカの強力な軍事的テコ入れを背景にしたウクライナ軍の反転攻勢に直面したロシア軍が潰走に近い撤退に追い込まれ、ウクライナのゼレンスキー大統領は6000~8000㎢を奪回したと発表したと報道されています。こうした状況を背景に、ウズベキスタンの首都サマルカンドで開催された上海協力機構の第12回首脳会議に出席したロシアのプーチン大統領と中国の習近平主席との首脳会談(9月15日)に注目が集まりました。ちなみに、ウクライナ問題にかかわるプーチンと習近平との会談は、ロシアのウクライナ侵攻直前の2月4日の北京会談、侵攻直後の2月25日の電話会談、6月15日の電話会談(以上3回の会談の内容については6月20日のコラムで紹介)に継ぐ第4回目となります。
 今回の首脳会談の内容に関する中国側発表文(9月15日付け中国外交部WS)では、両首脳が「中ロ関係並びに双方が関心を有する国際及び地域問題について意見を交換した」こと、習近平が「(両国は)国際舞台で緊密に協調し、国際関係の基本原則を擁護している。世界の変化、時代の変化、歴史の変化を前に、中国はロシアとともに努力し、‥変化と混乱が交錯する世界に安定をもたらしたい」、「それぞれの核心的利益にかかわる問題について互いに支持し合いたい」と述べたこと、これに対してプーチンが「世界に多くの変化が生まれているなかで唯一不変なのはロ中の有効と相互信頼であり、ロ中全面戦略パートナーシップは盤石である。ロ中はより公平で合理的な国際秩序を主張し、国際関係のモデルを樹立した。ロシアは一つの中国原則を堅持する(習近平はこれを評価)」と述べたことが紹介されていますが、ウクライナ問題に対する直接の言及はありません。
 これに対して、ロシア側発表文(同日付ロシア大統領府WS)は、両国関係の肯定的評価、国際秩序のあり方に関する認識表明に続いてウクライナ危機への具体的な言及もあります。関係部分は以下のとおりです。

 ロシアと中国の国家間の交流はモデルと見なせるものだ。対外政策におけるロ中二頭立ては世界及び地域の安定を保障する上でカギとなる役割を果たしている。国際ルール及び国連の中心的役割に基づく公正、民主的そして多極的な世界秩序を樹立することを両国が一緒になって支えている。この秩序は何ものかが勝手に作り出して、その中身すら説明しないまま他者に押しつけようとするルールとやらに基づくものではない。最近の一極世界を作り出そうとする試みは醜悪極まるもので、地球上の大多数の国々にとって絶対に受け入れられないものであると断言する。
 我々は、ウクライナ危機にかかわる中国友人のバランスのとれた立場を評価している。この点に関するあなた方の疑問や関心については理解している。前にも話し合ったことだが、今日の会合で詳しく我が方の立場を説明するつもりだ。
 我が方に関していえば、一つの中国原則を遵守している。台湾海峡におけるアメリカ及びその衛星国が引き起こしている挑発を非難する。この点については、先ほどウラジオストックで李戦書全人代常務委員長とも意見を交わした。
 最近はニューヨーク・タイムズ(NYT)とウォールストリート・ジャーナル(WSJ)を毎朝チェックする対象に入れているのですが、両紙揃ってプーチンの「この点に関するあなた方の疑問や関心については理解している」という発言に飛びついて、"ウクライナの反転攻勢という情勢のもとで中国はロシアと距離を置こうとしている"ことの表れだとする「解説」しているのには驚き入りました。ちなみにプーチンは習近平と会った翌日(16日)にはインドのモディ首相とも会談しており、ここでも「ウクライナ紛争に関するあなたの立場と常に表明している関心について知っている」と述べました。するとNYTは「インドはロシアから距離を置く中国に仲間入り」と「解説」する始末です。
 こういう西側メディアの牽強付会的な「解釈」の浅はかさを理解するには、9月16日付け環球時報社説「変乱する世界に安定をもたらす中ロ首脳会談」(中国語原題:"中俄元首会晤,为变乱世界注入稳定性")の中の次のくだりを読むのが一番だと思います。
 中ロはともに強い戦略的定力と自主的能力を備えた国家である。中ロ関係は強い内生的な動力を備えており、国際情勢の激しい変化や第三者の圧力によって初心及び方向性を変えることはあり得ず、一貫して自らのロジックとリズムを保持している。何よりも、中ロ両国元首は様々な形で緊密な交流を維持し、戦略的疎通を進め、両国関係が常に正しい発展方向を保つことを導いている。中ロ関係におけるこのような独立自主は、歴史的経験の総括であるとともに、国際関係に対するイノベーションでもある。
 中ロ関係は、西側が期待し、推し進めようとするような仲違いひいては対立を生み出すことはあり得ないし、しかしだからといっていわゆる「反米同盟」を結成するということもあり得ない。中ロが団結して米西側の政治的ウィルスに抵抗し、覇権主義に反対するのはすべて、現在の国際情勢のもとで独立大国として発出する正義の声であり、西側的意味における集団政治的「反米同盟」とはまったく異なる事柄である。米西側は疑心暗鬼に襲われて、中ロを「離間」させて各個撃破しようとしたり、中ロを「一縛り」にして集中的にやっつけようとしたりする。しかし、米西側がいかに心を砕こうとも、中ロは「パートナーにして同盟にあらず」という正しい方向を一貫して把握している。
 中ロの以上の選択は平和と協力とが強力な慣性となったものであり、そのグローバルな意味合いは今日格別に大きい。このような中ロ関係に不安ひいては恐れを感じるものがいれば、反省して問い直すべきは自らの内心であり、中ロに対して汚水を浴びせることに全身全霊を傾けるべきではない。近年アメリカが「ファイブアイズ」を強化し、QUADを売り込み、AUKUSをでっち上げ、インド太平洋版小NATOを作り上げようとすることこそ、国連を核心とする国際システムに対する最大の破壊力であることについては、国際社会は万事お見通しである。ロシアとウクライナの衝突の爆発も、根本的にいえば、西側軍事集団が地域大国との平等な関係の処理を誤った結果に他ならない。
 考えてみるがいい。以上の状況の下で、国際社会に今ひとつの強大な力が存在して世界の平和と安定を維持し、マルチな協力を推進する方向で介入し、バランスをとり、ヘッジし、局面打開を図るということがなかったならば、この世界の未来は悲劇的であろう。ロシアとウクライナの衝突の徹底的解消は遙か彼方であり、他の地域の潜在的危機も触発されて爆発する可能性もある。こういうことは、中国を含む多くの国々が見届けたくなく、なんとかして回避したいことである。中ロ首脳会談の重要な意義の一つはここにもある。
 この社説を読めば、プーチンの指摘した「中国の不安と関心」の所在も明らかです。それは、"ロシアがウクライナの反撃で足下が怪しくなった"ことで逃げ腰になっていることに対する不安といった類いのことでは毛頭なく、「ロシアとウクライナの衝突の徹底的解消は遙か彼方であり、他の地域の潜在的危機も触発されて爆発する可能性もある。こういうことは、中国を含む多くの国々が見届けたくなく、なんとかして回避したいことである」、要するにウクライナ問題の早期の平和的解決が遠のく可能性に対する不安であり、しかし、なんとしてでも平和的解決を導きたいとする関心であるのです。
 もう一つ紹介しておきたいのは、上海協力機構首脳会談のためのウズベキスタン訪問を終えるに当たってプーチンが記者会見を行った際の発言です(9月16日付けロシア大統領府WS)。私が注目したのは、今回の中ロ首脳会談に関する位置づけ(ルーティン的なもので大騒ぎする性質のものではない)と、ウクライナの反転攻勢に直面したロシアのウクライナに対する特別軍事行動に関する質問に対するプーチンの発言(これまでは抑制的だったが、すでにいくつかの警告的意味合いの攻撃を行ったし、状況次第ではもっと効果ある対応を行う)です。
 特に「いくつかの警告的意味合いの攻撃を行った」というプーチンの発言と符合するとも思われる内容のNYTの報道(9月16日)もあります。プーチンはこの記者会見で特別軍事行動の主要目的はドンバスの解放にあることを再確認していますが、NYTは、「ロシアが先週ウクライナ東北部で壊滅的打撃を受けた後でも」バクムート(ドンバス全体をロシアが掌握する上でのカギとなるかつて人口7万人だった都市)に対する作戦行動を強化していることを報道しています。私には真偽の判断のしようがありませんが、NYTはバクムート攻撃の主体は正規兵ではなく、前科者で構成される「ワグナー・グループ」であるとして、ウクライナ軍が警戒を深めていると伝えています。
 正直、今の私はウクライナの反転攻勢がウクライナ側の主張するような「情勢の転換点」であるとは思えません。「短期的にはウクライナの抗戦継続能力、中期的にはドル・ユーロの支配力、長期的には西側と非西側の総合力比がこの争いの帰趨を左右するだろう」という判断に至った9月11日のコラムの見方を維持するゆえんです。