8月17日に天津で日中ハイ・レベル政治対話(中国側:楊潔篪中央外事工作委員会弁公室主任、日本側:秋葉剛男国家安全保障局長)が行われました。2015年に第1回目が行われてから今回で第9回目になります。第8回目が2020年2月28日(東京)でしたから、約2年半ぶりの開催・岸田政権下では初となります。「両国間のハイ・レベルでの戦略的意思疎通を強化する重要な制度的アレンジメント」と位置づけの紹介(中国側発表文)があるということは、中国側が岸田政権になってから初めての今回の政治対話に寄せる重視の程が窺われます。約7時間に及んだという今回の対話では、両国が共通で関心を寄せる国際及び地域の問題についても意見交換が行われましたが、中国側の関心が台湾問題に集中していたことは、中国側発表文の内容から一目瞭然です。まずは、その発表文を紹介します。ちなみに、日本側の発表文もあると思い、官邸や外務省さらにはGoogleまで検索しましたが、ヒットしませんでした。

 2022年8月17日、中共中央政治局委員、中央外事工作委員会弁公室主任の楊潔篪は天津で日本国家安全保障局長の秋葉剛男と第9回ハイ・レベル政治対話を共同で主催した。
 楊潔篪は次のように述べた。中日の2000年以上に及ぶ交流の歴史及び中日国交正常化50周年の歴史的過程が示すのは、平和共存と友好協力が両国関係における唯一の正しい選択であるということである。双方は、指導者の重要共通認識を政治的ガイダンス及び行動の指針とし、高度の責任感と使命感を堅持し、歴史を深刻に総括し、主体的見識を保ち、内外の干渉を排除し、新時代の要求にマッチした中日関係の構築に共同で力を致すべきである。
 楊潔篪は次のように強調した。世界の複雑な情勢を前にして、中日関係の地域的及びグローバルな意義はますます突出している。習近平主席は、グローバルな発展と安全保障に関するイニシアティヴを提起し、平和を求め発展を図る各国の普遍的アピールに応えた。中国の発展は、この地域及び世界の発展を推進する重要な牽引力である。台湾は中国領土の不可分の一部である。台湾問題は、中日関係の政治的基礎及び両国間の基本的信義にかかわる問題だ。日本は、両国及び両国人民の根本的長期的利益に着眼し、正しい対中認識を確立し、積極的実務的理性的な対中政策を奉じ、平和的発展の正しい方向を堅持し、中日4政治文件及び政治共通認識を厳守し、中国とともに政治的相互信頼を増進し、ゼロ・サム思考を放棄し、違いを適切に管理コントロールし、両国関係のさらなる成熟的安定と健康的強靱を推進するべきである。
 双方はまた、共通に関心がある国際及び地域の問題について意見を交換した。双方は、対話は率直で、突っ込んだ、建設的なものであると考えており、いくつかの有益な共通認識を達成し、引き続き対話と意思疎通を継続していく。
 中日ハイ・レベル政治対話は、両国間のハイ・レベルでの戦略的意思疎通を強化する重要な制度的アレンジメントであり、2015年に第1回を開催した。対話のタイミングは双方の事前の打ち合わせにより、第8回対話は2020年2月28日に東京で行った。
 8月19日付け(ウェブ掲載は18日23時32分)環球時報社説「中日関係に対処する態度を正すべき日本」(中国語原題:"日本应端正对待中日关系的态度")は、台湾問題に関する日本の誤った認識とアプローチに最大限の警鐘を鳴らし、「日本は国家主権と領土保全を防衛する中国の対立側に立ってはならず」、仮に立つとしたら「中華民族の敵に成り果てることとなる」とまで断言しています。社説の大要は以下のとおりです。
 第8回対話から第9回対話までの2年半の間、中日関係は少なからぬ紆余曲折を経たが、その主な原因は、日本の対中政策に際立った消極的変化が現れたからであり、なかんずく台湾問題における言動は劣悪というべく、ペロシ訪台後の言動に至っては中国民衆の対日印象を深刻なまでに悪化させた。中日間の戦略的相互信頼は総じて急速に低下する流れにあり、速やかに歯止めをかけることができなければ、両国関係及び地域の情勢に深刻な破壊的影響を及ぼすに違いない。同時に、世界の複雑な情勢を前にして、中日関係の地域的及びグローバルな意義はますます突出している。中国が「高度の責任感と使命感を堅持」すべきであるとするゆえんは正にここにある。
 中国側は「台湾問題は、中日関係の政治的基礎及び両国間の基本的信義にかかわる問題だ」と強調する。この点はいくら強調してもしすぎということはなく、日本は中日関係に対処する態度を正さなければならず、信頼を実践し約束を守り、中国内政に干渉して中日関係の政治的基礎に挑戦する衝動をコントロールしなければならない。さもなければ、何を話しても無意味になるだけではなく、中日関係そのものがさらに悪化するリスクに直面し、その結果は日本にとって耐えがたいものになるだろう。
 今の日本は何事につけても「台湾海峡の平和と安定」を持ち出すが、台湾問題に関して自らが負っている歴史的罪責を忘れてしまっている。台湾は中国の一部であり、台湾海峡の平和と安定を維持することを大切にし、努力する点において、中国に勝るものが他にあり得るはずがない。外部の者が今更注意喚起するまでもないことだ。「台湾独立」分裂分子及び外部の干渉勢力こそが台湾海峡の平和と安定の破壊者であることは明々白々なことであり、中国はこれと断固闘争するであろうし、必ずや勝利するという確信がある。日本は国家主権と領土保全を防衛する中国の対立側に立ってはならない。より厳しくいうならば、仮にそうなれば、日本は中華民族の敵に成り果てることとなる。
 客観的にいって、中日間には長期にわたる相互の疑心暗鬼があり、近年においては、複雑な内外の要因によって拡大強化されている。日本は中国の急速な発展に対してますます不安と焦慮を深めている。我々からすれば、それはまったく不必要なことなのだが、日本人にとっては解消することが極めて難しく、そのために、中国の一挙手一投足に対して極めて敏感になり、もうほとんどノイローゼになってしばしば過度の反応を示すまでになっている。
 しかも日本は歴史問題に対する反省が一貫して不徹底であり、「改憲軍拡」問題では焦りを抑えきれず、米西側の軍事力の「道案内人」となるとともにこれと積極的につるむなど、周辺諸国としてはその意図に疑念を持たずにはいられなくなっている。今日では、中国の核心的利益にまで手を染める動きを示すまでになっており、中国人としてはますます警戒心を高めることとなっている。「台湾有事は日本有事」などの発言に至っては、中国人からすれば傲慢と無知の極みである。
 以上に述べた状況は中日が戦略的意思疎通を強化する重要性を反映している。中国が重点を置いて詳述した立場を、日本はじっくりと吟味するべきである。中国の態度はその実終始一貫しており、明々白々であって、隠し立てすることは一切ない。我々は両国の平和共存、友好協力を希望しているが、中国の核心的利益を損なう行為に対してはためらうことなく反撃する。日本が心を正し、意を誠にしてその本分を守りさえするならば、経済が低迷しているときに大金を使って軍拡し、戦争の備えをする必要などまったくないのだ。戦略判断を誤ることのみが日本に対して巨大なリスクと不確実性をもたらす。
 本年は中日国交正常化50周年であり、9月はまさにその時に当たる。齢50にして天命を知る。中日関係は成熟的安定と健康的強靱を推進するべきである。日本がこの重要な節目の時に過去50年ひいては中日2000年以上の交流の歴史に真剣な総括を行い、将来に向かった関係発展にとっての啓示を求めることを希望する。我が方が強調したように、新時代の要求にマッチした中日関係の構築に共同で力を致そうではないか。
 ちなみに、8月18日付けで中国網に掲載された、中国社会科学院アジア太平洋及びグローバル戦略研究院博士であり、中国人民大学国家安全研究院高級研究員の楊丹志の署名文章「対中強硬政策変化期待薄の内閣改造」(中国語原題:"日本内阁成员大调整,对华强硬政策或难改变")は、岸田政権による内閣改造は「日本の対外政策特に対中政策に重要な調整を行うことを意味するものではない」とし、林外相について、「外相就任以来一貫してこれまでの知中派というイメージを拭い去ろうとしており、日中友好議員連盟会長の職務も辞任して、その任期中に中国に対して「ことを丸く収めようとする」のではないかという国内の疑いの目を消し去ろうと努めている。林芳正は中国と建設的で安定した関係を樹立する重要性を強調しているが、同時に中国に対して「毅然とした行動をとる」ことも強調しており、地域情勢の緊張原因を中国の責任として咎めてもいる。今回の留任で、林芳正が中国を警戒し、用心し、圧力をかけようとする立場を改めることは期待薄である」と厳しい判断を示しています。また、岸田首相についても、安倍晋三の「親米制中」政策を基本的に継承しており、安倍晋三任期中よりもさらに甚だしくなってさえいる」という判断を示しています。その上で、楊丹志は「今次内閣改造後も、日本の防衛外交部門の主要な人物は対中強硬政策を含む強硬な対外政策を引き続き貫徹していく確率が高い」という結論を下しています。
楊丹志がこの文章を発表した8月18日には、中華日本学会2022年年会が開かれ、「国交正常化50周年:中日関係の回顧と展望」と題する学術シンポジウムが北京大学で行われました。程永華前駐日大使(中日友好協会常務副会長)、中国社会科学院日本研究所の閆坤党委員会書記、中華日本学会の高洪会長、崔天凱前駐米大使(元駐日大使)等が発言し、中国社会科学院日本研究所の楊伯江所長がメイン・スピーチを行いました。同日付の中国新聞網が各発言の簡単な紹介を行っていますが、総じていえば楊潔篪の発言内容(上掲)と軌を一にしています。楊丹志が示した岸田首相及び林外相に関する評価内容は中国対日関係者の基本判断を反映しているとみるのが自然でしょう。
 秋葉剛男国家安全保障局長が楊潔篪の対日メッセージを重く受け止め、岸田政権の対中政策に反映させる努力を行うことを願うばかりです。