7月29日に中国の習近平国家主席はアメリカのバイデン大統領に求めに応じて電話会談を行いました。習近平は、世界経済と安全保障の2大問題で大きな「赤字」が突出しており、中米両大国が世界の平和と安全に負っている責任は大きいと指摘した上で、パワー・ポリティックスの立場から中国を最大のライバル・挑戦と見なすのは、「中米関係と中国の発展に対する誤った判断であり、国際社会をミスリードするものだ」とバイデン政権の対中政策の根本的な誤りを指摘しました。その上で習近平は台湾問題に関する原則的立場を詳述し、最後に、「民意を違えることは許されない。火を弄べば、必ず自らが焼け死ぬ」("民意不可违,玩火必自焚")と述べて、「アメリカがこの点をはっきり認識することを望む」("希望美方看清楚这一点")と強調しました。
7月29日22時59分及び同30日5時59分に環球網に掲載された記事「ペロシ訪台に対する中国の報復:"民意不可违,玩火必自焚!"」(中国語原題:"佩洛西若窜访台湾中方将如何反制?"民意不可违,玩火必自焚!"")及び「ペロシ訪台計画に対する識者意見:"民意不可违,玩火必自焚!"」(中国語原題:"多位专家谈佩洛西计划访台:民意不可违,玩火者必自焚!")は、中国が講じる可能性がある報復の内容について、中国社会科学院台湾研究所所長の楊明杰、軍事専門家の王雲飛、清華大学台湾研究院院長の巫永平、中国科学院台湾研究所副所長の朱衛東、中国社会科学院台湾研究所選挙研究室主任の冷波、以上5氏の見解を次のように紹介しています。共通するのは、「民意不可违,玩火必自焚」という言葉に込められた含意はただならぬものであるということです。
 「厳陣以待」(中国外交部趙立堅報道官)、「中国軍隊絶不会坐視不管」(中国国防部譚克非報道官)の発言に続く国家最高指導者の習近平のこの発言は、中国人民の意を体したものであり、しかも、火を弄ぶもの(ペロシ)は自ら焼け死ぬ運命にあることを「はっきり認識」しておくように、とまで立ち入ったものであると言えるでしょう。楊明杰、王雲飛、巫永平、冷波の発言をまとめると次のようになります。

○楊明杰:我々の選択肢は、伴奏飛行、インターセプト、飛行禁止区域設定等、すべての「シナリオ」が「開かれている」が、「厳陣以待」という意味は、中国が一切の実戦の準備を行い、危機と挑戦に対応するということだ。アメリカが危機を作り出した以上、中国の反応も説得力と実力を伴ったものになる。中国が最後にやむを得ず執る措置は簡単な「小細工」(中国語:'小打小闹')ではあり得ない。報復は全面的で系統的なものになることは間違いない。
○王雲飛:以前、報復方法について民意を問うたことがある。答は5つに分類できる。①ペロシが登場する軍用機を中国軍機が伴奏飛行し、着陸予定飛行場に着陸させないで通過させること。②台湾海峡に飛行禁止区域を設けペロシ搭乗機の台湾着陸を禁止すること。③中国軍機の台湾島上空威嚇飛行。④台湾を囲む海域に弾道ミサイルを撃ち込むこと。⑤台湾周囲の海域で軍事演習を行うこと。
○巫永平:現在の背景は1996年の台湾海峡危機当時と異なる。1996年前後の段階では、「台湾独立」は頭をもたげ始めたばかりで、現実の脅威なるとは考えられていなかった。今はまったく違う。「台湾独立」を唱える民進党が台湾の執政党となり、「脱中国化」の措置を多々講じ、大陸と対抗している。したがって、大陸民衆の「台湾独立」に対する認識も完全に変わり、現実の問題と捉え、緊迫感を持っている。これが民意だ。正に、習近平がバイデンに提起した「民意不可违,玩火必自焚」である。
 また、中米関係、中米の力関係には変化があり、台湾自身にも変化が生まれた。したがって、今回中国が取る対応の仕方は26年前(1996年)とは異なるし、その結果と影響はさらに複雑となり、波及範囲はさらに広がる。台湾問題に対する国際社会の注目も当時とは違う。これらのことは、中国が今後どんな対応を取るかに対して影響を及ぼすこととなる。
 中国の報復は軍事、外交、経済等を含む総合的なものになることは間違いない。しかし、軍事的な対応がもっとも直接的かつ有効で、相手側に「もっとも分からせることができるやり方」だ。
 ペロシが仮に訪台するとすれば、「悪事を好事に変える」こともできる。つまり、この機会を利用して、台湾問題の本質は何か、なぜ中国は台湾を統一するのか、どんな方式で統一するのか、統一の意義は何か、誰が台湾海峡の平和と安定の破壊者なのか等々をはっきりさせることができる。「台湾は中国の不可分の一部である」ことを分からせ、統一は両岸人民にとっても、周辺諸国にとっても、また世界にとってもいいことであることを理解させ、統一プロセスを半歩でもいいから進めて、アメリカと「台湾独立」勢力にこの現実を受け入れさせ、国際社会にも中国の国家統一を守る意志、決意及び能力をよりはっきりと分からせることができる。
○冷波:外交部の「厳陣以待」、国防部の「中国军队绝不会坐视不管」(注)という表現から、中国の報復に軍事手段が含まれるか否かという設問に対する答は改めていうまでもないことだ。採用する軍事手段は過去のいかなる時よりもエスカレートしたものなるだろう。1996年の台湾海峡危機の時は中国はまだそれほど強くなかったにもかかわらず、ためらいなく軍事手段で対応した。現在の中国の実力からすれば、答は明々白々だ。
(浅井注:7月30日付けの環球時報記事は、この表現について、1950年に米軍が38度線を越えて北に侵攻した際、周恩来総理が仲介したインドを通じてアメリカ側に「我々は坐視して顧みないというわけにはいかない、かかわっていく」(中国語:""我们不能坐视不顾,我们要管"")と告げたことを想起させる、としています。中国が今回の事態を朝鮮戦争並に深刻に捉えていることを示しています。)
 また、7月29日付けの京報網(北京日報WS)が掲載した記事「米中首脳電話会談:尋常ではない10のディテール」(中国語原題:"这次中美通话,10个很不同寻常的细节!")は、習近平が述べた「玩火必自焚」及び「民意不可违」について、以下の解説を加えています。
<玩火必自焚>
 習近平のこの5文字の表現について、多くの国際メディアがヘッドラインに持ってきた。フォックス・テレビでは、「中国はバイデンに次のように告げた:PLAY W/ FIRE & YOU'LL GET BURNED」。ロイター通信のタイトルはDon't 'play with fire' over Taiwanであり、文中ではその訳として、Those who play with fire will perish by it"としている。「玩火必自焚」は極めて厳しい中国語表現だが、ロイター通信が用いたのは"Burned"ではなくて"Perish"であり、さらに厳しい受け止め方だ。
 これは中国の厳しい警告であり、果断にして力強く、率直にして直裁的だ。
<民意不可违>
 "玩火必自焚"の前に置かれた"民意不可违"という5文字も負けず劣らず重要だ。なぜ、「火を弄べば、必ず自らが焼け死ぬ」のか。それは、「民意を違えることは許されない」からだ。14億の中国人の断固とした意志は、いかなる者をもってしても背くことは許されないからだ。
 この5文字の後に「アメリカがこの点をはっきり認識することを望む」が続く。強烈な情感の表現("玩火必自焚")、その後に理性的な解釈・分析("民意不可违")、そしてアメリカが誤った判断をしないようにという希望表明。これもまた表現上の芸術である。