イギリスのフィナンシャル・タイムズ紙は7月18日、6人の消息筋の情報として、ペロシ下院議長が8月に台湾を訪問することを計画していると報じました。4月にも彼女の訪台計画が浮上しましたが、この時は中国の強烈な反応を前にして、コロナ感染を理由として延期が発表されていました。また、7月22日付けの環球時報は外国メディアの報道として、民主党のメネンデス上院議員が8月に上院外交委員会で「台湾政策法」案を審議する予定であると表明したことを伝えました。この二つの動きは、来る中間選挙で劣勢を強いられている民主党が、アメリカ国内で広がっている反中世論を民主党支持に引きつけることを意図したものと受け止められています。
 ペロシ訪台問題については7月20日付け(ウェブ掲載は19日19時)の環球時報社説が、また、「台湾政策法」案審議問題については同22日付け環球時報掲載の沐穹署名文章が厳しい対米批判を行っています。特に沐穹の文章は「台湾政策法」の内容を詳しく紹介しており、それは第三者の私ですら背筋が寒くなるものであり、仮にこの法案が通過してしまうならば、「アメリカの「一つの中国」政策は看板が残るのみで、中身は徹底的に空っぽにされ、中米関係と両岸関係は空前絶後の大津波に見舞われるだろう」と沐穹が最大級の警鐘を鳴らすのもうなずけます。
7月22日付けの環球時報は、ペロシ訪台計画に対するバイデン大統領の反応についても報道しています。バイデンは7月20日に記者から「ペロシ下院議長がこの夏に台湾訪問するのは良いアイディアと思うか」と質問されたのに対して、「軍部は現在良いアイディアではないと考えている。しかし、私はこの問題の状況については分からない」("I don't know what the status of it is")と答えました。
この環球時報の記事は、バイデンの答え方については様々な解釈が行われていることも紹介しています。それによると、21日のニューヨーク・ポスト紙は「バイデンが近く習近平と会談を行うので、ペロシに台湾行き取り消しを促した」という見出しをつけました。同日の香港・南華早報の解説は、軍部の考え方を伝えたのは、バイデンがペロシの台湾行きに懐疑的なことを示すものとしました。アメリカ「ポリティコ」WSは、バイデン発言がペロシの(訪台)取り消しまたは計画変更につながるかは目下のところまだ明らかではないとしました。また、ウォールストリート・ジャーナル紙は、ペロシが訪台すると、中米が緊張関係を緩和するために行っている努力が複雑となり、中米首脳がオンラインで会談できるか疑問を引き起こすだろうとしました。
 なお、7月22日付けのイラン放送・Pars通信英語版WSは、前日(21日)にペロシが台湾訪問計画について確認することを避けた上で、「大統領が語ったことは多分、軍部が心配しているのは我々の乗った飛行機が中国側に撃墜されるという類いのことを心配しているのだと思う」、「正確には分からない」、「私は間接的に聞いただけだ」、「大統領からは聞いていない」と述べたと伝えています。
 7月19日の中国外交部の定例記者会見でペロシ訪台問題について質問された趙立堅報道官は次のように述べました。

 アメリカ議会はアメリカ政府を構成する一部であり、アメリカが奉じる一つの中国政策を厳守するべきだ。ペロシ議長が仮に訪台するならば、一つの中国原則及び中米の3つの共同声明の規定に深刻に違反し、中国の主権と領土保全を深刻に損ない、中米関係の政治的基礎に深刻な打撃を及ぼし、「台湾独立」勢力に対して深刻な誤ったシグナルを送ることとなる。中国はこれに断固反対する。
 中国は、アメリカが一つの中国原則と3つの共同声明の規定を厳守し、ペロシ議長の訪台をアレンジしてはならず、米台のオフィシャルの交流を停止し、台湾海峡情勢に緊張要因を作り出すことを停止し、「台湾独立」を支持しないという誓約を実際の行動で履行することを要求する。仮にアメリカが独断専行するならば、中国は断固たる有力な措置を講じ、断固として国家主権と領土保全を守る。これによって生じる結果のすべての責任はアメリカが負わなければならない。
 以上の背景を踏まえ、7月20日付け環球時報社説「ペロシ訪台は巨大な歴史的誤り」(中国語原題:"佩洛西若去台湾,将是华盛顿的巨大历史错误")と7月22日付け沐穹署名文章「台湾カードに血道を上げる米議員」(中国語原題:"打"台湾牌",美议员越发疯狂")の大要を紹介します。
(環球時報社説)
 ペロシが本当に台湾に行くとなれば、中米国交樹立以来、台湾問題でアメリカが中国に対して行う挑発の中でもっとも悪質なものとなる。今年の4月にも、ペロシ「訪台」の茶番劇があった。まずはメディアを通じて探りを入れ、旅行直前になってコロナ感染と称して計画を延期した。当時ネット上では、「戦術的感染」と皮肉られた。前回も今回も、民進党当局と米議会はともに抑えた表現をとっている。ということは明らかに、火を弄ぶことで台湾海峡に嵐を引き起こすことについて両者がまったく無知というわけではないということだが、しかし、その認識はまだ透徹したものになっておらず、僥倖心すら抱いている。明確に指摘するが、一つの中国原則にはどんな些細のいいわけも悪巧みもあり得ない。魏風国防部長は先月のシャングリラ対話で力強くかつ重々しく3つの「絶対」を提起した。すなわち、①祖国統一は絶対に実現する。②「台湾独立」には絶対に良い終わりはない。③外部勢力の干渉は絶対に思い通りにならない。魏風部長はさらに、「仮に台湾を分裂させようとするものがあれば、我々は戦いを惜しまず、犠牲を惜しまない」とも述べた。ワシントンがこれらの発言を馬耳東風と聞き流すならば、巨大な歴史的誤りを犯すことになるだろう。
 82才のペロシはかつて、30年この方自分は中国からもっとも歓迎されない人物であると述べたことがあるが、このピッタリのレッテルを恥ずかしく感じるべきである。中米関係に面倒を起こすことに関しては、ペロシが加わっていなかったことはほとんどない。特に台湾問題に関しては、2000年に陳水扁が選挙に勝利したとき、ペロシはアメリカの指導者の中で彼に祝意表明の電話をした最初の一人だった。本年初めには、訪米した頼清徳(台湾「副総統」)とオンラインで会見した。本年後半には中間選挙があり、民主党の形勢は芳しくなく、ペロシがこの時に台湾海峡に目を向けるのには、危険を賭して賭けてみようという意志がある。
 しかし、台湾訪問はペロシが絶対に踏むことができない高圧線である。国家主権と領土保全を防衛する中国の態度は確固たるものであり、情勢の変化に応じていつでも、「台湾独立」分裂勢力及び域外干渉勢力に対して断固として有力な措置を執る権利を持っており、それはアメリカの航程及びペロシ本人に対するものも含まれる(浅井注:21日にペロシが、「大統領が語ったことは多分、軍部が心配しているのは我々の乗った飛行機が中国側に撃墜されるという類いのことを心配しているのだと思う」と述べたことは、「アメリカの航程及びペロシ本人に対するものも含まれる」という社説の指摘に符合します。ペロシ発言は社説発表前に行われていますから、中国国防部から米国防省に対して同趣旨の警告が行われ、社説はそれを公にしたと理解することも可能だと思います)。中国はすでに、ペロシ議長の訪台をアレンジしてはならず、生じる結果のすべての責任はアメリカが負わなければならないと要求している(浅井注:「ペロシ議長の訪台をアレンジしてはならず、生じる結果のすべての責任はアメリカが負わなければならない」というくだりも上記趙立堅報道官発言のまま)。仮にアメリカの政治屋どもが台湾問題で政治的得点稼ぎをしようとするならば、「火遊びして自ら焼け死ぬ」という中国の古くからのことわざについてより深刻な認識と実感とを得ることとなるだろう。
 我々は次のように考える。第一、ペロシが行く行かないにかかわらず、ワシントンは中国に明確な説明を行い、(一つの中国という)大原則問題で二股膏薬及び言葉遊びをやめなければならない。第二、ペロシが本当に台湾に行くならば、ペロシは中国の制裁リストに載せるべきである。以前、アメリカメディアはペロシの夫が中国大陸で商売関係があることを暴露したことがあるが、ペロシが制裁リストに載れば、家族の中国にある資産は即刻凍結されるべきである。第三、「台湾独立」分子に至ってはなおさらいかなる幻想も持つべきではない。昨年、アメリカ議員の訪台は3回あり、解放軍の威嚇行動はその都度エスカレートし、ますます実戦に近づいている。こういう背景下でペロシが独断専行するならば、彼女がもたらすものは「台湾独立」に対する悪夢となる。
 あわよくば式に探りを入れるワシントンとは違い、中国は選択肢をすべて明確にテーブルの上に並べている。「台湾独立」勢力の首に回った縄はますますきつくなっており、ペロシの足は正に絞首刑台の踏み版を踏もうとしている。「対中強硬」を演じることに熱心なペロシについては、まっしぐらに暗闇に進もうとするのであれば、我々は必ずや彼女に見合うだけの「結果」を準備することになるだろう。
(沐穹署名文章)
 メネンデス上院議員の「台湾政策法」案は、1979年の「台湾関係法」以後、台湾関連のもっとも全面的な見直しとなると見なされている。これまで明らかになっている情報によれば、この法案は極めて挑発的で攻撃的な内容である。例えば、①米台相互関係のレベルを引き上げ、台湾の「中米経済文化代表所」の名前を「台湾代表所」に変え、アメリカ側の「在台協会」責任者には駐外大使と同等の肩書きを与えるとともに、その必要経費は上院の批准を経ることにする。②台米防衛協力のレベルを引き上げ、台湾向け武器売却に関する「台湾関係法」の制約を緩め、「防衛的武器」を「人民解放軍の侵略行為を抑止するのに有利な武器」に拡大し、台湾に「重要な非NATO盟友」のステータスを与え、4年以内に台湾に対して数十億ドルの軍事資金援助を与える。③台湾の対外活動のスペースを広げるべく、台湾との経済協力関係をレベル・アップし、台湾が国際機関に参加することを支援し、台湾を「国境事前クリアランス」(border preclearance)計画に組み込む。④一連の制裁制度を設立して、台湾におけるまたは台湾に対する中国の敵対行動(台湾当局の破壊、転覆、解散、台湾の「領土保全」に対する干渉を含む)を阻止する、等々。中国の統一プロセスに真っ向から反対するものであることは明白だ。
 仮にこの法案が成立し、米行政部門がそのまま実行するとなったら、アメリカの「一つの中国」政策は看板が残るのみで、中身は徹底的に空っぽにされ、中米関係と両岸関係は空前絶後の大津波に見舞われるだろう。
 もちろん、近年のアメリカの「台湾カード」を操るテクニックから見るとき、議会の強度、頻度、力の入れ具合と、行政部門のそれとの間には明らかな落差がある。議会は、背後の様々な利益集団の必要に対する考慮から、往々にしてより過激的、より挑発的であるのに対して、行政府は、中米関係におけるレッド・ラインの所在、台湾海峡問題の敏感性、中国側の対抗措置及びその結果に対する感度はより明確なため、その行動は比較的に抑制的である。加うるに、「台湾政策法」案はまだ初期段階にあり、今後の変数はかなり多い。
 しかし、米議員がこの法案を持ち出し、「台湾支持」を明確にしたこと自体及び法案の中身から、台湾問題をめぐる中米の争いは今後不断に激化し、アメリカは全方位、全領域で台湾との結託を深め、中米関係及び両岸関係のレッド・ラインに迫ってくるだろうことを見て取ることができる。
 すなわち、アメリカの朝野をあげて中国との競争の中で「台湾カード」を使うことについては高度のコンセンサスができあがっている。台湾を「準国家」さらには「準同盟国」と見なし、台湾経済をアメリカ主導の「排中産業チェーン」に組み入れ、西太平洋における制中システムで役割を担わせる等々に関しては、アメリカの政治エリート層では広く受け入れられている。違いがあるとしても、具体的なステップ、ペース、強度程度のものでしかない。バイデン政権が中国に対して行った、「中国と新冷戦を戦うことは求めない」、「中国の体制を変えることは求めない」、「同盟関係を強化して中国に反対することは求めない」、「「台湾独立」は支持しない」、及び「中国と衝突する意図はない」(「4つのないと1つの意図はない」)はまだ記憶に新しいが、その後の挑発的行動は次々と現れており、アメリカの言に信用はなく、言行不一致であることがさらけ出されている。
 また、アメリカが「台湾カード」を使うことと、アメリカ国内の政治的な生態変動とは共鳴作用を起こしている。すなわち、一連の「台湾カード」は、アメリカの中間選挙が近づいているのにバイデン政権と民主党の支持率は低迷しており、対中問題で強硬姿勢を打ち出すことによって選挙情勢を挽回するために必要とされている。今後もインフレが続き、経済的苦境が和らぐことがなく、人種的矛盾がさらに深まり、バイデン政権に対する支持率がさらに低下し、「内憂外患」がさらに高まるとなれば、民進党当局と結託する動きはますます多くなり、ますます密接になっていくだろうことが見込まれる。