習近平が「中華文化は和諧を尊び、中国の「和」の文化は天人合一の宇宙観、協和万邦の国際観、和而不同の社会観、人心和善の道徳観を内包している」と述べたことを受けて、6月20日付けの人民日報はこれら4つのテーマに関する4つの文章を紹介しました(6月22日のコラム参照)。「和」の文化は日本独自のものという私たちの理解からすると、習近平の「中国の「和」の文化」という提起そのものに戸惑いを感じるのではないでしょうか。恥ずかしながら、中国の古典には高校の漢文をかじったとき以外にはまったく接点がないまま今日に至った私は、習近平のこの発言に接してまず驚きが先行しました。しかし、人民日報の4つの文章を読むことで、中国文化・思想に占める「和」の重要性を学び、認識することができました。
 同時に、中国における「和」と日本における「和」との本質的違いについても学ぶことができました。すなわち、「君臣の間では異なる(不同の)意見及び見方を許すべきであり、互いに十分に意見を述べる基礎の上で共通認識を達成すること、これを「和」と呼ぶ」、「和而不同の社会観は…違いを承認、尊重し、多様性の中に統一を求めることによって「和」という目的を到達する」、「和而不同の社会観はまた、人類の異なる文明の和諧的発展と各国間の平和共存という思想をも促進する」、「「和」の基礎は、和而不同、互相包容、求同存異、共生共長にある」などの指摘が示すように、中国における「和」は、"「違い」の存在を積極的に肯定し、その基礎の上で議論を侃々諤々戦わせることを通じて、共通認識を達成する"というプロセス全体を指して「和」というのです。しかし、日本における「和」は、「違い」を異端視し、周りの雰囲気を忖度して(自分の意見はあるとして胸の内にしまい込んで)大勢に従うことで実現する「和」です。「政治意識の執拗低音」(丸山真男)が中国における「和」の本義を、日本社会に適合するように変形させた典型例であるとも言えます。
 「和而不同」の社会観及び「協和万邦」の世界観に関する人民日報所掲文章の大要を紹介します。

<社会観:「和而不同」>
 中華文化は和諧(=和睦協調)を尊重し、中国の「和」の文化は長い歴史を持ち、内容豊富である。和而不同の社会観は中国の「和」の文化の社会領域における表れである。中国古代思想家は早くから和同の辨という命題を提起していた。西周末年の史伯は、"和実生物、同則不継"という思想を提起した。彼によれば、不同の要素が相互に融合することによってはじめて万物を生み出すのであり、単純に同じものを重ね合わせても新たな事物を生み出さないのみならず、世界を生気のないものに変えてしまうのである。《左伝》は晏嬰と斉侯の対話を記載して、政治の角度から「和」と「同」との区別を論じている。すなわち、君臣の間では異なる(不同の)意見及び見方を許すべきであり、互いに十分に意見を述べる基礎の上で共通認識を達成すること、これを「和」と呼ぶのである。孔子は《論語》において"君子和而不同、小人同而不和"と指摘して、和而不同の主張に人倫関係における新しい意味を付与した。
 和而不同の社会観は、事物及び社会関係の発展法則に合致しており、哲学的倫理的な深い判断を包含しており、それ故に中国人の遵守する行為原則となった。この社会観は違いを承認、尊重し、多様性の中に統一を求めることによって「和」という目的を到達する。尊老愛幼、夫婦和睦、隣里団結、諒解寛容、与人為善、これらは人と人との間の「和」である。社会の各階層、各群体の平等和諧、兼容而不衝突、協作而不対立、制衡而不掣肘、有序而不混乱、これらは社会の分業及び社会内部の「和」である。このような状態のもとでは、人と人、人と社会、人と自然の間さらには社会内部の諸要素の間で均衡、安定、有序、相互依存、共生共栄が実現する。
 5000年以上の文明の発展の中で、中華民族は一貫して和平、和睦、和諧の理念を追求し、伝承してきた。以和為貴、与人為善、己所不欲勿施与人などの理念は代々受け継がれ、中国人の精神に深く根を下ろし、中国人の行為に現れてきた。和而不同の社会観は、人際関係における和解を促進し、異なる要求を尊重し、多様な需求を整合し、矛盾を調整解消するなどの積極的、社会的な機能を発揮することにより、長い歴史の発展の中で、各社会各階層の普遍的な承認を獲得し、強大な生命力を備えることとなった。
 中華の優秀な伝統文化における思想、理念及び価値観念は、時間の推移及び時代の変遷とともに不断に更新されるとともに、連続性と安定性をも維持してきた。和而不同の社会観は、新しい時代的条件の下で不断に豊富となり発展し、新しい理論形態及び実践スタイルを生み出している。例えば、和而不同の社会観が提唱する求同存異、兼収并畜、沟通協商などの理念は中国の社会主義協商民主に豊富な文化的滋養を提供している。習近平曰く、「中国社会主義制度の下では、ことがあればよく協議し、衆人の問題は衆人が協議し、全社会の意向と要求の最大公約数を探し出す。これが人民民主の要諦である。」中国の民主の実践においては、選挙民主の役割を強調するとともに、協商民主の優位性を発揮することをも重視し、人民は国家及び社会の問題に対する広範な協商参与を通じて、異なる思想及び観点の十分な表明及び立ち入った交流を促し、相互尊重、平等協商、押しつけなしを実現し、規則を遵守し、おのおのが勝手に話すのではなく秩序ある協商を行い、思いあって包容し、激さず固執しないで真剣に協商し、社会的共通認識を広範囲に凝縮し、社会の和諧と安定を促進する。
 和而不同の社会観はまた、人類の異なる文明の和諧的発展と各国間の平和共存という思想をも促進する。今日の世界においては、各国の前途命運は緊密に関連し合っており、異なる国家、異なる文明を尊重する基盤の上で交流し、相互に学び合うことによってのみ、ともに発展し、互利共嬴することができる。習近平曰く、「世界各国の人民は'天下一家'の理念を堅持し、互いに理解し、求同存異で人類運命共同体を共同で構築するために努力するべきである。」また曰く、「対話を堅持して対抗せず、壁を築くのではなくてこれを取り除き、融合してディカップリングせず、包容して他を排除せず、公平と正義を理念としてグローバル・ガヴァナンス・システムの変革を導くべきである。」「不同」を尊重する中で「共同」を求め、「不同」を包容する中で「大同」を追求すること、これこそが和而不同の社会観の現代的解釈説明である。
<世界観:「協和万邦」>
 中華文明は、他の文明との不断の交流互鍳の中で形成されてきたオープンなシステムである。親仁善隣、協和万邦は中華文明の一貫した処世の道である。天下一家、世界大同は中華民族の長い歴史を持った思想的伝統である。"克明俊徳、以親九族。九族既睦、平章百姓。百世昭明、協和万邦。"《尚書・堯典》 ここでいう堯の「徳」とは家族の和睦を実現することである。家族和睦の後に百姓協調、すなわち各家族間の関係を協調させることによって社会の和睦を実現し、社会和睦の後に各国の利益を協調させ、和諧合作ができるようにする。ここにいう「協和万邦」は、今日的には、国家間の関係を協調せしめ、各国の相互尊重、相互合作、共同発展を促進することと理解できる。
 習近平曰く、「以和為貴、和而不同、化干戈為玉帛、天下大同などの理念は中国に代々伝わってきた。」協和万邦の世界観は「和気」を含み、「和風」を立ち込め、中華文明の「和」の文化を顕彰している。"中者、天下之大本也;和者、天下之達道也。"《中庸》 「和」の文化は中華文明の精髄である。「和」の核心精神は相互承認、彼我尊重、和諧円融である。「和」の基礎は、和而不同、互相包容、求同存異、共生共長にある。「和」の道のりは、対話を以て理解を求め和睦相処し、共識を以て団結を求め和衷共済し、包容を以て和諧を求め共同発展することである。「和」の佳境は、各美其美、美人之美、美美与共、天下和美にある。
 協和万邦の世界観は、麗しい世界に対する各国人民の追求と合致する。西側近代の人本主義思潮は人の個体としての自由と権利を強調し、人の本能欲望を尊重することを強調する。この思想は資本主義経済の発展を促進したが、個人主義の膨張をももたらした。今日、自己優先の一国主義、保護主義、覇権主義を奉じる国もあるが、それは西側人本主義の極端な表現という側面もある。しかし、今日の時代は、各国が相互に依存し合い、互いに融合し合う利益共同体であり、他国の利益を犠牲にして自国の利益を追求することはできない。人類文明は百科絢爛多彩であり、それぞれの文明はそれぞれの歴史を持っており、平等、互鍳、対話、包容の文明観を発揚し、文明隔絶を文明交流で超越し、文明衝突を文明互鍳で超越し、文明優越を文明共存で超越するべきである。故に、協和万邦の世界観は今日なお燦然たる思想的光芒を放っている。
 習近平曰く、「5000年以上の文明発展の中で、中華民族は一貫して平和、和睦、和諧の理念を追求し、伝承してきた。」協和万邦の世界観の感化召喚の下、以和為貴、与人為善、己所不欲勿施于人などの理念は代々相伝され、中国人の精神に深々と根を下ろし、今日の中国人の行動に十分に体現されている。中国が平和発展の道を歩むのはその場しのぎの方策ではなく、歴史、現実、未来に対する客観的判断から得た結論であり、思想的自信と実践的自覚との有機的統一である。今日の中国は協和万邦の世界観を伝承し、発揚して、平和な国際環境の獲得を通じて自ら発展するとともに、自らの発展を通じて世界の平和を促進し、価値の内実に関する認識が文明によって異なることを理解し、各国人民が自らの発展の道を模索することを尊重している。事実が証明するように、中国が平和発展の道を歩むのは、誰かを説得し、誰かに取り入り、誰かを慰めるためではなく、自国の国情と文化伝統に基づき、全人類の根本的利益と長期的利益に基づいて行った正しい選択なのである。
 協和万邦の世界観は、民胞物与、立己達人、家国一体、天下大同などの中華伝統文化の奥深い理解を内包しており、深甚な現実的意義を有している。今日の世界は百年来かつてないような大きな変化を経験しており、不確実性が充満している。しかし、多くの不確実性の中でも一点だけ確かなことがある。それは、人類が前途命運をともにしている度合いはかつてないものがあり、各国の相互関係及び相互依存は過去のいかなる時代にも増して頻繁、緊密であり、世界全体がますます「あなたの中に私がおり、私の中にあなたがいる」運命共同体になってきているということである。中国は確固として開放を拡大し、「一帯一路」の質の高い発展を共に建設することを着実に推進し、自国を発展させると共に、世界に福をもたらしている。中華文明の中の協和万邦の理念を語り尽くすことを通じて、中国が人類の共同発展、共享未来の推進に積極的に貢献し、人類運命共同体構築のために各国の認識を凝集させ、力を合わせ集めることに不断に力を尽くしていくことを世界に見届けさせることができるだろう。