6月15日午後、習近平とプーチンは今年2回目となる電話会談を行いました(ちなみに、6月15日は習近平の誕生日(1953年生))。両首脳は、2月4日に北京で首脳会談を行った(プーチン:北京冬季オリンピック開会式出席)あと、ロシアがウクライナに侵攻した直後の2月25日に今年第1回目の電話会談を行って「重点的」にウクライナ問題について意見交換しており、6月15日の電話会談でもこの問題について意見を交換したと発表されています。タイミング的に私が引っかかるものを感じるのは、3月15日(於ローマ)と6月13日(於ルクセンブルグ)に楊潔篪とサリヴァンが対面で会談していることです。3月の会談の際には、両者は米中関係(特に台湾問題)のほかには「ウクライナ、朝鮮核、イラン核、アフガニスタン等」について意見交換したと発表がありましたが、6月の会談では「ウクライナ、朝鮮核等」について意見交換したと発表されました。3月の会談においては、中国外交部WSは、会談全体についてのプレス・リリースに加え、楊潔篪がウクライナ問題に関して述べた中国側の立場についても別途プレス・リリースを発表しましたが、6月にはありませんでした。それだけに、楊潔篪・サリヴァン会談直後の6月15日の習近平とプーチンの第2回目の電話会談で習近平がウクライナ問題について述べた内容が発表されたことに、私は注目するわけです。また、今になって思えば、2月4日はロシアのウクライナ侵攻が迫っていたわけで、プーチンの北京冬季オリンピック開会式への出席は前から決まっていたとはいえ、北京での首脳会談でこの問題が話し合われなかったことはあり得ません。ということで、首脳会談及びそれを受けた共同声明を改めてチェックする必要性も感じた次第です。
 もう一つ私が気になっていることがあります。習近平とプーチンの間では緊密な意思疎通が行われていることは明らかですが、中国外交部WSによる限り、習近平がウクライナのゼレンスキーと電話会談を行ったという公式発表はありません(王毅外交部長とクレバ外相との間では、3月1日及び4月4日に電話会談が行われています)。しかし、5月25日にオン・ラインで行われたダボス・ウクライナ朝食会(the Davos Ukrainian Breakfast)で、ゼレンスキーは次のように、中国の立場について好意的に述べています(出所:ウクライナ・マルティメディア・プラットフォームーUKRINFORM-。ちなみに、6月12日付けの中国新聞網もゼレンスキーのこの発言を紹介しています。ただし、ウクライナ大統領府WSが載せているダヴォス演説では中国への言及はない)。この発言から見て、中国がウクライナとの間でも意思疎通を怠っていないと判断して間違いないでしょう。

 ゼレンスキーは、中国はロシア・ウクライナ戦争に近づかない政策を選択しており、ウクライナは今のところこの政策に満足している、と述べた。
 「中国は近づかない政策を選んでいる。今のところ、ウクライナはこの政策に満足している。とにかく、ロシアを助けるよりはいい。また、中国が違った政策をとらないことを信じたい。正直に言って、現状に満足している」とゼレンスキーは述べた。
 ロシアとの戦争の前は、中国はウクライナの最大の貿易相手国だった、と彼は付け加えた。ゼレンスキーによれば、今まで中国はウクライナに反対する動きは見られない。同時に彼は、中国はウクライナを支持する動きも取っていないことを認めた。
 彼は、「両国間には良好な長い歴史がある。したがって、ロシアとの対比において、この関係に利点を有している」と述べた。
 そこで、2月4日から6月15日までのウクライナ問題関連の習近平、プーチン及び楊潔篪の発言を中国外交部WSの発表文によって確認します(強調は浅井)。
(2月4日首脳会談)
 習近平は次のように強調した。深刻かつ複雑に変化している国際情勢に直面して、中ロは揺らぐことのない背中合わせの戦略協力を深め、肩を並べて国際の公平と正義を擁護している。これは、中ロ両国及び世界に対して深遠な影響のある戦略的選択であり、過去、現在、将来とも動揺することはあり得ない。双方は、密接なハイレベルの交流を引き続き保ち、「4つの相互確固支持」の共通認識を終始堅持し、主権、安全及び発展利益を維持することを互いに支持し合い、外部の干渉及び地域の安全に対する脅威に効果的に対処し、国際の戦略的安定を維持していく。…
 プーチンは次のように表明した。…今日発表する共同声明は、露中両国の重要国際問題における高度に一致した立場を体現している。露中関係の戦略的性格は空前に突出しており、世界の大きな注目を集めている。露中が全面的な戦略的協力を深化させることは、両国それぞれの発展の実現と両国の共同の利益を擁護することに資するものであり、世界の戦略的安全及び安定の維持に重要な意義を備えている。ロシアは、中国とさらに戦略的意思疎通を密接にし、主権及び領土保全の擁護を確固として支持し合い、国連の核心的協調的役割を確固として擁護し、国際法及び国際の公平と正義を確固として擁護し、さらに公正で合理的な国際秩序の構築を推進したい。
(浅井注) 「4つの相互確固支持」の共通認識:①主権、安全、領土保全等の核心的利益を擁護する努力に対する相互支持、②国情に合致した発展の道を歩むことに対する相互支持、③発展振興に対する相互支持、④自国の事柄を処理することに対する相互支持
(中ロ共同声明)
三 (国際安全保障情勢)
 双方は、国際安全保障情勢が厳しい挑戦に直面していることに重大な関心を表明し、各国人民は命運をともにしており、いかなる国も世界の安全から離脱することも、他国の安全を犠牲にして自国の安全を実現することもできないし、そうするべきではないと考える。…
 中ロは、外部勢力が両国の周辺地域の安全と安定を破壊することに反対し、いかなる口実をもってするにせよ外部勢力が主権国家の内政に干渉することに反対し、「カラー革命」に反対し、以上の分野における協力を強化していく。…
 双方は次のように考える。個別の国、軍事政治連盟・同盟が直接的または間接的に一方的な軍事的優位を追求し、不正な競争等を通じて他国の安全を損ない、地縁政治競争を激化し、対立対決を喧伝することは国際安全秩序を深刻に破壊し、グローバルな戦略的安定を破壊する。双方は、NATOの拡張継続に反対し、NATOが冷戦時代のイデオロギーを放棄し、他国の主権、安全、利益、文明の多様性、歴史文化の多様性を尊重し、他国の平和的発展を客観的かつ公平に見ることを呼びかける。…
 中国は、ロシアが提起した法律的拘束力のある、欧州長期安全保障を構築する関連提案を理解し、支持する
(2月25日中ロ首脳電話会談)
 双方は当面のウクライナ情勢について重点的に意見を交換した。
 プーチンは、ウクライナ問題の歴史的経緯及びロシアがウクライナ東部地域で取っている特別軍事行動に関する状況と立場を紹介し、アメリカ及びNATOが長期にわたってロシアの合理的な安全に対する関心を無視し、コミットメントに一再ならず背き、不断に東方に対する軍事的配置を推進し、ロシアの戦略的ボトムラインに挑戦してきたと表明した。ロシアはウクライナとハイレベルの交渉を行うことを望んでいる。
 習近平は次のように指摘した。最近、ウクライナ東部地域の情勢が急激に変化したことは国際社会の高度な関心を引き起こしている。中国は、ウクライナ問題自身の是非曲直に基づいて中国の立場を決定する。冷戦思考を放棄し、各国の合理的な安全に対する関心を重視し、尊重し、交渉を通じて、均衡的、効果的で持続可能な欧州安全保障メカニズムを形成するべきである。中国は、ロシアがウクライナとの交渉を通じて問題を解決することを支持する。各国の主権及び領土保全を尊重し、国連憲章の精神と原則を遵守するという中国の基本的立場は一貫している。中国は国際社会関連方面とともに、共同、総合、合作、持続可能な安全観を唱道し、国連を核心とする国際システム及び国際法を基礎とする国際秩序を確固として擁護する。
(3月15日楊潔篪・サリヴァン会談-楊潔篪のウクライナ情勢に関する立場表明-)
 楊潔篪は次のように指摘した。ウクライナ情勢が今日の段階にまで至っていることは、中国として見届けたくないことである。中国は一貫して各国の主権及び領土保全の尊重、国連憲章の精神と原則の遵守を主張している。中国は勧和促談に力を致し、国際社会はロシアとウクライナの和平交渉が速やかに実質的成果を収めることを共同で支持し、情勢が速やかに収まることを推進するべきである。各国は最大限に抑制し、平民を保護し、大規模な人道的危機が出現することを防止するべきである。中国はすでにウクライナに対して人道主義援助を提供し、今後もこのために努力を行っていく。
 楊潔篪は次のように表明した。ウクライナ問題の歴史的経緯、原因と結果を整理し、元を正し、各国の合理的関心に応えるべきである。…関係方面が平等な対話を行い、安全保障の不可分性原則に基づき、均衡的、効果的、持続可能な欧州安全保障メカニズムを構築することを探求し、欧州及び世界の平和を擁護することを促す。
(6月13日楊潔篪・サリヴァン会談)
(6月15日中ロ首脳電話会談-ウクライナ部分-)
 両国元首はウクライナ問題について意見を交換した。習近平は次のように強調した。中国は一貫してウクライナ問題の歴史的経緯及び是非曲直から出発し、独立自主で判断を行い、世界平和を積極的に推進し、グローバルな経済秩序の安定を促進している。各国は責任感を持ってウクライナ危機が妥当に解決されることを推進するべきである。中国はこのために引き続き行うべき役割を発揮していく
以上から読み取れることは以下の諸点です。
 第一、2月4日の共同声明は、ロシアがアメリカ及びNATOと2021年12月から行ってきた交渉の内容を色濃く反映しており、中ロ首脳が突っ込んだ意見交換をしたことを示していること。「他国の安全を犠牲にして自国の安全を実現することもできないし、そうするべきではない」は、ロシアがアメリカ、NATOに強硬に法的確約を求めた「安全保障の不可分性」原則そのものであり、「個別の国、軍事政治連盟・同盟が直接的または間接的に一方的な軍事的優位を追求し、不正な競争等を通じて他国の安全を損ない、地縁政治競争を激化し、対立対決を喧伝することは国際安全秩序を深刻に破壊し、グローバルな戦略的安定を破壊する」「NATOの拡張継続に反対」のくだりはロシアの主張そのものです。
 第二、中国は、ロシアの対米・NATO交渉ポジションを全面的に支持していること。そのことは、「中国は、ロシアが提起した法律的拘束力のある、欧州長期安全保障を構築する関連提案を理解し、支持する」という一文に集約されて示されています。
 第三、2月25日の両首脳の電話会談で、プーチンが「ウクライナ問題の歴史的経緯及びロシアがウクライナ東部地域で取っている特別軍事行動に関する状況と立場を紹介」したのに対して、習近平は「ウクライナ問題自身の是非曲直に基づいて中国の立場を決定」すると応じているが、6月15日の電話会談では.習近平は「ウクライナ問題の歴史的経緯及び是非曲直から出発し、独立自主で判断」するとして、2月25日のプーチンの「歴史的経緯」という言葉も取り入れていること。ただし、2月24日の王毅・ラブロフ電話会談で王毅は「ウクライナ問題には複雑で特殊な歴史的経緯があり、ロシアの安全問題上の合理的な関心を理解する必要があることも見届けている」と発言しています(2月27日のコラム参照)。
 第四、6月15日の電話会談で習近平は、ウクライナ問題解決に「中国は引き続き行うべき役割を発揮していく」と発言していること。このような発言は2月25日の時点ではないことから見ても、中国が問題解決にすでに「首を突っ込んで切る」ことを窺わせます。
 3月15日の楊潔篪・サリヴァン会談で、楊潔篪は「安全保障の不可分性原則」に言及しており、ロシアの主張を受け入れることをサリヴァンに要求したことが窺われます。しかし、この時点でのアメリカの立場は、ウクライナをロシアとの戦争に駆り立てることに重点が置かれていましたので、「聞く耳を持たず」だったでしょう。
 しかし、6月16日のコラムで指摘したように、アメリカはもはやウクライナがロシアに対する戦争で勝利を収めるという当初の甘い考え方は捨てつつあり、むしろ、どのような形で停戦を実現するかに重点を移しているとも考えられます。6月13日の楊潔篪・サリヴァン会談に関する中国外交部のプレス・リリースはその点について判断する手がかりを与えていませんが、6月13日の電話会談で習近平が問題解決に「役割を発揮していく」と述べたことは、米・西側の手詰まり感に確かな感触を得た中国が、ロシアとウクライナの間で仲介の労を執る用意があることを表明したと可能性はあると思います。
 トルコのエルドアン大統領も停戦調停に積極的ですが、停戦後のウクライナの復興再建という巨大な課題を考えると、トルコには荷が重すぎます。やはり、中国の出番ということになると思われます。また、冷え切った米中関係の中で、ウクライナ問題の収拾に手を焼き始めたバイデン政権に対して中国が調停役を買って出ることは、結果次第では米中関係の雰囲気を和らげることにつながる可能性もあります。ゼレンスキーにとっても、NATOのストルテンベルグ事務総長が無遠慮に言い放った内容の「不名誉な停戦」を強いられることは万難を排して回避したいでしょう(不名誉な停戦を迫られる場合、ゼレンスキーが国内の民族主義強硬派に突き上げられ、進退窮まる可能性があると指摘する中国専門家の文章もあります)。「両国間に良好な長い歴史がある。したがって、ロシアとの対比において、この関係に利点を有している」と述べたゼレンスキーの中国に対する期待感の表明も、中国の外交努力を後押しする可能性もあると考えられます。
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 想像力をたくましくすることは好きではありません。しかし、6月15日の習近平・プーチン電話会談内容から、ついつい不得手な想像力を働かせてみました。