5月18日、中国の楊潔篪(中国外交トップ)はアメリカ側の求めに応じ、サリバン大統領安全保障担当補佐官と電話会談をしました。報道によれば、サリバンは今回のバイデンの韓日両国訪問の目的は中国を狙ったものではないと、私たちが鼻白むような「説明」をしたそうですが、中国側の発表によれば、楊潔篪は単刀直入に、険悪化する一方の米中関係はアメリカ側の誤った言動によるものであることを指摘し、特に台湾問題に関して、「中国は必ず、自らの主権及び安全上の利益を守るために断固たる行動を取る」と指摘した上で「我们"说到做到"」と付け加えたと紹介されました。5月20日付け(WS掲載は19日23時24分)の環球時報は「"说到做到"これが核心利益を防衛する中国の決意」と題する社説を掲載して、「この4文字はアメリカに対する厳重な警告である」と強調しました。中国の『漢語大辞典』の「解釈」によれば、「"说到做到"」とは「言行一致、言った言葉は必ず行動で実現する」("言行一致,说过的话一定用行动实现。")と説明されており、環球時報社説の表現は「はったり」でも何でもないことが分かります。なにゆえに中国外交トップの口からこの言葉が発せられたのか、米中関係はどれほど危険な状況にはまり込んでいるのか、今回はその点を同社説から確認しようと思います。ちなみに、バイデンは日米首脳会談の後の記者会見で、中国が台湾に対して軍事行動を取った場合におけるアメリカの軍事的関与について問われて、「イエス。それが我々のコミットメントだ」と答えました(昨年10月にも同じ発言をしている)が、ホワイトハウスの報道官(及びオースティン国防長官)はアメリカ政府の台湾問題に関する政策には変化がないと打ち消しに大わらわでした(この点も昨年10月と同じ)。
 まずは、報道された楊潔篪の発言内容を確認しておきます(中国外交部WS)。

 楊潔篪は次のように述べた。習近平とバイデンは中米関係に関して重要な共通認識に達しており、双方は確実にこの認識を実行に移す必要がある。最近、双方は軍事、気候変動、衛生、農業等の分野で一定の対話を行っており、対話の流れを保っていくべきである。同時に指摘しなければならないのは、このところ、アメリカ側は中国の内政に干渉し、中国の利益を損なう一連の誤った言動を取っていることである。中国はこれに断固反対するとともに強力に対応してきた。アメリカ側は言行を一致させるべきであり、約束したことを具体的な政策と行動において実行し、対立することは適切に管理コントロールし、中米関係を安定した、発展的な軌道に戻していくべきである。
 楊潔篪は次のように強調した。台湾問題は中米関係におけるもっとも重要で、もっとも敏感な、もっとも核心的な問題である。アメリカ側は一つの中国政策を奉じ、「台湾独立」を支持しないと度々明確に表明している。しかし、最近のアメリカ側の台湾問題に関する実際の行動は言っていることと雲泥の差がある。もしもアメリカが意図的に「台湾カード」を振りかざし、誤った道をますます進んでいくならば、情勢を危険な境地に引っ張ってくことは必定である。我々は、アメリカ側が情勢を正確に認識し、約束を厳守し、一つの中国原則と中米間の3つの共同声明の規定を厳守することを促す。中国は必ず自らの主権及び安全上の利益を守るために断固たる行動を取り、言った言葉は必ず行動で実現する。(強調は浅井)
 楊潔篪は次のように指摘した。平和を求め、協力を図り、発展を促すことはアジア太平洋地域の大勢であり、民心の赴くところである。中国は親誠恵容の理念を堅持し、周辺国とひたすら友好相処、互利共嬴、命運与共でいく。私利から出発してアジア太平洋地域諸国の根本的、長期的な利益を損なうようないかなる行為も、長続きも成功もできるはずがない。徒党を組み、分裂対抗を図るいかなる企ても目的を達成することはできるはずがない。
 双方は、ウクライナ、朝鮮半島等の国際及び地域問題についても意見を交換した。
 中国がバイデンの日韓訪問を含むアメリカの対外政策の動向に重大な関心を寄せていることは、5月19日に王毅外交部長が主催するオンラインのBRICS外相会議を行うとともに、はじめてとなる「BRICSプラス」外相対話会(正式には「BRICS諸国と新興市場及び途上国外相オンライン対話会」。出席者は、BRICS5カ国外相と、カザクスタン、サウジアラビア、アルゼンチン、エジプト、インドネシア、ナイジェリア、セネガル、アラブ首長国連邦、タイの外相)を行ったこと、また、BRICS外相会議の冒頭に、極めて異例なこと(私の記憶ではついぞなかったこと)ですが、習近平がオンラインでメッセージを寄せて、「他国の安全を犠牲にして一方的に自分の安全を追求するのは、新たな矛盾とリスクを生み出すだけだ」と指摘し、BRICSは「覇権主義と強権政治に反対し、冷戦思考と集団的対抗を防ぎ止める」べきであると強調したことから、ひしひしと伝わってきます。ちなみに、中国が重視するG20参加国で今回の「BRICS+」に参加したBRICS以外の国は、アルゼンチン、インドネシア、サウジアラビアであり、出席しなかったのはオーストラリア、メキシコ、韓国及びトルコでした。
 中国が特に神経をとがらせているのは、ロシア・ウクライナ戦争で味を占めた(浅井:独りよがり)バイデン政権が、台湾にもウクライナと同じ役割を担わせようとする動きを取り始めていることです。つまり、ウクライナに対する軍事的テコ入れによって戦争を長引かせ、ロシアの消耗を強いるという戦略が成功しつつあると考えるアメリカは、対中対決戦略を有利にするために、台湾にもウクライナと同じ役割を担わせようとしているのです。5月22日のコラムで5月14日のラブロフ外相の演説内容を紹介しましたが、その中でラブロフは、「ウクライナは、西側が追求している一極支配の世界秩序を恒久化しようとする路線との関係で、ロシアの平和的発展を封じ込める上での道具として使われている」、「今日、西側諸国は、「ウクライナ人の最後の一人まで」ロシアと対立させようとしている。これは、大西洋越しにこれらのプロセスを取り仕切っているアメリカにとっては特に都合のよい立ち位置である」と指摘しています。中国はアメリカの戦略に関するラブロフの以上の判断を共有しつつ、アメリカが台湾をも対中対決戦略上の「使い捨てのコマ」にしようとする無謀さに、楊潔篪の厳重警告を与えたと理解できます。
 ちなみに、アメリカが台湾にウクライナと同じ役割を担わせようとする考えが如何に無謀、かつ、「走火入魔」(すぐ紹介する環球時報社説の表現)であるかは、素人でも分かる話です。第一、ウクライナの国土面積は60.4万平方キロ(ロシアに次いで欧州第2位。日本の倍近く)、台湾の面積は3.6万平方キロ(日本の約1/10)であり、ウクライナに備わっている戦略的縦深は台湾にはゼロです。第二、ウクライナにはアゾフ軍団に代表される強力な民族主義勢力(ロシアから言わせるとナチ勢力)が対ロシア戦争の主軸を構成していますが、台湾の中にはそういうコアとなる勢力は存在しません(民進党が独立を標榜するのは米日という後ろ盾が頼りとするだけのこと)。第三、ロシアとウクライナの対立の根本的原因はアメリカ・NATOの一貫した対ロ攻撃的な東方拡大戦略であるけれども、中台関係に対するアメリカの基本政策は本来「台湾海峡の現状維持」です。バイデン政権が対中対決戦略に台湾問題まで絡めようとしているのは、ニクソン政権以来の対中政策から完全に逸脱しています(中国もそのことを先刻承知であり、バイデン政権が台湾問題を絡めなければ、事を荒立てる気持ちはないのです)。ましてや、台湾に対する軍事援助を強化しさえすれば、台湾がウクライナと同じような役割を担うだろうとアメリカが「柳の下のドジョウ」を考えるのは、「あいた口も塞がらない」「沙汰の限り」と言わなければなりません。第四、アメリカが台湾にウクライナと同じ役割を担わせるということは、アメリカは直接手を出さないということと同義であり、台湾に対するメッセージ性はあまりにも明らかです。アメリカは自ら墓穴を掘っているに他なりません。
 さて、5月20日付けの環球時報社説は、以上の私の理解を確認する形で、次のように述べています。
 最近、アメリカが「台湾カード」を持ち出す勢いは日増しに「走火入魔」(『现代汉语词典』:「あることに取り憑かれて理性を失ってしまうこと」"痴迷于某种事物到了失去理智的地步")の域に入り込んでいる。ペロシ下院議長訪台がコロナ陽性で「延期」になった馬鹿騒ぎ、米国務省WSが「台湾は中国の一部である」等の重要な記述を削除したことなどはすべて赤裸々な挑発である。それだけではなく、バイデンの今次日韓訪問において、「台湾」が重点議題の一つになっている。さらに、日米首脳会談の共同声明では台湾とウクライナを併記するという。アメリカとそのカバン持ち(中国語:'跟班')の台湾問題における「サラミ・スライス」のスピードはますます急ピッチであり、「スライスされるサラミ」もますます分厚くなっている。
 対中貿易戦争発動から新コロナ・ウィルス発生源に関する政治的大騒ぎへ、香港(における「民主化運動」)を「美しい風物詩」(浅井:ペロシ下院議長発言)とする美化騒ぎから新疆を「ジェノサイド」とするでっち上げへと、中国をおとしめようとする一連の動きはすべて意のままにならず、ワシントンは次第に台湾問題を動かすことを「本命」と見なすようになった。同時に、ロシア・ウクライナ戦争の進展で刺激を受けたワシントンの政治屋とジャーナリズム世論は想像力を掻き立て、台湾海峡問題をロシア・ウクライナに関する叙述の中に突っ込んで論じる熱に浮かされ、その結果、さらに傲慢、好戦的となり、中国の核心的利益(浅井:台湾)に対するアプローチはますます軽蔑的、軽はずみになってきた。
 アメリカが仮に、ウクライナ問題でうまい汁を吸ったと勘違いして得意絶頂となり、その結果として中国の意志及び能力を見下すようなことがあるならば、後悔先に立たずの重大な戦略判断の誤りであることが必ずや証明されることになるだろう。台湾問題を弄ぶということは、「中米間の最大の火薬庫」の傍らでマッチを擦るということである。ワシントンがこの機に蔡英文等の敵陣突撃の「士気」を奮い立たせようとしても、縁木求魚に他ならず、民進党当局を断頭台への道を歩ませることになるだけである。
 最近、ワシントンは民進党当局に対して、大量の機動力があり、殺傷力が高い武器を購入し、中国大陸と「非対称戦争」を戦うように説得を試みており、中には、「大陸が台湾を攻撃するときには、米軍は台湾のインフラを破壊して台湾を救う」などの謬論を吐くものまで現れている。どうやら、アメリカは、対中戦略におけるコマとしての台湾の価値をとことん利用した上でポイ捨てにするため、中国大陸の統一への努力に対して民進党当局をして「焦土」及び「市街」作戦で対応させる考えになっているようだ。本心は極めて陰険であるのに「台湾を救う」という看板を掲げるアメリカが同盟国及び民進党当局の「安全」を守れるのだろうか。また、ワシントンにくっついて台湾問題をあげつらう勢力は自業自得の結果となるだろう。
 新中国の歴史に理解があるものであれば、「あらかじめ断っていなかったと言うなかれ」(中国語:"勿谓言之不预")が意味することを誰でも知っている。中国の厳重な口頭警告は未だかつて脅すものであったことはなく、確固たる行動を取る決意と具体的な行動プランを必ず内包している。言うことと行うことが違うことに慣れきっているワシントンとは違い、中国は言ったことは必ず行う国家であり、これは骨まで刻み込まれた文化的遺伝子である。台湾問題は中国の核心的利益に関わることであるから、なおさら「例外」ではあり得ない。中国は最大限の努力によって台湾問題の平和的解決に努めるが、同時にまた、最強の決意と完璧な準備をもっていかなる「台独」のリスクにも対応するだろう。
 別の言い方をするならば、国家の統一と主権を擁護するためには、我々は決戦に向かうことをためらうものではなく、いかなる侵略者との戦いをも恐れることはない。かつて、武器と装備が十分でなく、ロジスティックスにも事欠いた中国人民志願軍は意気軒昂として鴨緑江を渡り、アメリカ軍の不敗神話を打ち破った。今日の人民解放軍の国家防衛の意志は当時と同じく堅固不抜であり、実力に関しては昔日の比ではない。我々はアメリカに対して、「台湾問題の処理を誤れば、両国関係に転覆的影響を作り出す」という言葉の重みを真剣に考慮することを促す。我々はまた他の関係筋に対しても、「中華民族は敵に対してはとことん戦う気概を持っている」ことへの注意を促す。この精神はいかなる時においても誤った判断の余地を与えることを認めない。