最終回のレジュメは、戸籍制度改革問題をメインに取り上げ、その後に、風俗習慣問題、教育問題(留守児童問題を含む)、農民・農民工問題に関する中国側報道で私が興味を感じてファイルしてきたものについて紹介しています。
 私も今回のレジュメを作成する中で認識を深めたのですが、習近平・中国における戸籍制度改革の出発点は2014年3月に発表された「国家新型都市化計画」です。ここでは、「内需は(一国の)経済発展の根本の動力であり、内需拡大の最大の潜在力は都市化にある。しかし、中国の常住人口の都市化率は53.7%、戸籍人口の都市化率はわずか36%前後で、先進国平均80%はおろか、中国と似た水準にある途上国平均60%にも遠く及ばない」という基本的認識に立って、都市化と都市・農村の二元構造解消という課題を一体のものとして捉えています。そして、「人を都市化の核心とし、人口の合理的流動を導き、農業移転人口の市民化を秩序だって推進し、都市基本公共サービスの常住人口全カバーを着実に推進する」ことを指導思想として、「常住人口の都市化率を60%前後に、また、戸籍人口の都市化率を45%前後に到達させて、1億人前後の農業移転人口その他の常住人口の都市定住実現に努力する」という目標を設定しています。
 ただし、農業人口の都市定住・市民化を推進するに当たっては、都市の人口規模に応じて定住条件を定める、つまり戸籍取得条件の差別化を打ち出しています。この点は中国独特であると言えます。というより、「移動の自由」を基本的人権として認める考え方が当たり前となっている西側諸国(日本、韓国を含む)では「あり得ない」政策と言えるでしょう。中国の「国情」を踏まえて他者感覚を働かせないと「ついて行けない」ことになります。
つまり、近場の小都市での戸籍制限は全面的に廃止し、人口規模が大きくなるにしたがって戸籍取得の敷居をより高く設定する、という内容です。しかし、それぞれの条件をクリアして市民としての戸籍を取得した者については「一視同仁」政策が適用され、平等な都市公共サービスを受けることが保障されるのです。平等な都市公共サービスとしては、子女教育、社会保障、医療衛生、住宅保障、養老、労務災害、失業等が含まれます。
 この都市計画には、「城郷発展一体化メカニズム」という項目も設けられています。これも中国らしさを感じさせるものです。都市化だけを考えるのではなく、農村についても、人口管理、土地管理、資金投入、住宅、エコロジーなどの分野について、農村を活性化する方向性を追求しようとしています。戦後の日本の農業・農村の衰退・荒廃をかいま知る私は「まぶしい」思いをしました。
 戸籍制度の改革は、以上の全体的構想の中で進められています。最初の基本的文件は「計画」発表から4ヶ月後の2014年7月に国務院が発表した「戸籍制度改革意見」です。ここでは、「計画」で示された「差別化」計画に従って都市ごとの戸籍取得条件が詳しく定められていますし、他の都市に移住するものに適用される「居住証制度」の創設にも要注目です。この居住証制度に関しては、2015年11月に「居住証暫行条例」が発表され、2016年1月から施行されています。
 以上の基本的な制度の整備に加え、都市と農村における医療保険制度を「整合」するための「意見」が2016年1月、戸籍のないもの(これも中国ならではのこと!)の問題を解決するための「意見」が2015年12月、基本公共サービスを均等化するための「通知」が207年1月、農村部での公共サービスを充実する「意見」が2021年1月、公共サービス計画の最新版が221年12月と矢継ぎ早に発表されました。戸籍制度改革に伴う都市と農村の公共サービスの二元構造解消に向けた動きは急ピッチであることが理解できます。
 以上を総合した、都市化及び都市と農村の融合に関する2022年の「重点任務」が本年3月に発表されました。ここでは、中国における常住人口の都市化率がすでに64.72%に達していること(2014年段階では53.7%でしたから、7年で10%以上増えたことになります)、人口300万人以下の都市では戸籍登記制限が基本的に撤廃されたことをはじめとして、注目すべき数字があげられています。私の強い印象は、中国における戸籍問題は、中国政府の強力な政策によって解決に向けた動きを速めているということでした。
 ただし、長年にわたって蓄積されてきた二元構造に関わる問題が一気に解決されるわけではありません。レジュメは、そうした現状に関して、風俗習慣、農村教育、農民という三つのカテゴリーについて中国側報道を紹介しています。
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中国の農民問題