ブラジルのルラ元大統領は『タイム』誌とのインタビュー(5月4日にウェブ・サイト掲載)で、質問に答えてウクライナ問題に関する見解を披露しました(そのほかのテーマもありますが、ここでは省略します)。私にとって特に印象深かったのは、ゼレンスキーに対する実に鋭い、本質を突いた評価を行っていることでした。すなわち、ゼレンスキーが西側諸国の議会にオン・ラインで出まくっていることについて、ゼレンスキーがコメディアン出身であることを指摘しつつ、「彼の振る舞いは前代未聞だ。まるで大がかりのショーみたいだ」、「彼は戦争を必要としていたのだ。戦争を望んでいなかったのであれば、彼はもっと交渉するべきだった」というルラの発言がそれです。私も、日本を含めた西側諸国での手放しのゼレンスキー評価にうんざりして、このコラムでゼレンスキーが政治家の資質ゼロで、しょせんはコメディアン上がりであることを指摘したことがありますが、2003年-2010年にブラジル大統領を務め、優れた実績を残したルラのゼレンスキー評価の辛辣さに我が意を得たという思いです。ルラのそれ以外の発言も彼の優れた政治家としての資質を存分にうかがわせるものです。
 ルラの発言について知ったのは、タス通信の紹介があったからですが、ネットで検索したところ、タイムWSに全文が紹介されていました。ロシア・ウクライナ戦争に関わる部分を紹介します。

(問) ウクライナにおける戦争について話したい。あなたは、(ヴェネズエラの)チャベスとも(アメリカの)ブッシュとも話せる仲だったといつも自慢しているが、今の世界は外交的に分断状態だ。あなたのアプローチ方法が今でも通用するだろうか。ウクライナ(戦争)についてプーチンに話しかけることができるか。
(答) 我々政治家は自分のまいた種は自分で刈るものだ。兄弟愛、連帯、調和(という種)をまけば、よいものを収穫するだろう。不和(の種)をまけばけんかを収穫することになる。プーチンはウクライナに侵攻するべきではなかった。しかし、悪いのはプーチンだけではない。アメリカもEUも悪い。ウクライナ侵攻の理由は何だったか。NATOだろう。だとしたら、アメリカとEUは、「ウクライナはNATOに加盟しない」と言うべきだった。そうしたら問題は解決していただろう。
(問) ウクライナのNATO加盟という脅威がロシア侵攻の真の理由だと考えるのか。
(答) もう一つの問題はウクライナのEU加盟だ。欧州側は「今はウクライナがEUに加盟するときではない。待とう」と言うことができただろう。対立をそそのかす必要はなかったのだ。
(問) アメリカもEUもロシアに説明したと思うが。
(答) いや、しなかった。ほとんど対話がなかった。平和を欲するのであれば忍耐が求められる。解決策を見つけるべく、10日、15日、20日、1ヶ月でも交渉テーブルに座っていることができだろう。対話が効果を上げるのは、真剣に試みられるときだ。
(問) あなたが今大統領だとしたら、何をするか。紛争回避ができていたか。
(答) できたかどうかは分からない。大統領だったとしたら、バイデン、プーチン、ドイツ、そしてマクロンに電話しただろう。戦争は解決にならないのだから。トライしなければ問題を解決することはできない。とにかくトライすることだ。
 時々当惑することがある。アメリカとEUが(ヴェネズエラ議会指導者の)グァイドを擁立したとき、私はとても心配した。デモクラシーを弄ばないことだ。グァイドが大統領になるためには、選ばれなければならないはずだ。
 いま、ウクライナ大統領がテレビで話し、喝采を浴び、すべての(欧州)議会でスタンディング・オベーションを受けているのを時々見ることがある。しかし、彼はこの戦争にプーチンと同じだけ責任がある。戦争においては、一方だけが悪いということはないのだから。2003年のイラク戦争では、フセインはブッシュ同様に悪かった。フセインは「イラクに来れば、大量破壊兵器を持っていないことを証明する」と言えたはずだ。しかし、彼は国民に嘘をついた。さて、ウクライナ大統領は「ヘイ、NATO、EU加盟のことを話すことはやめよう。まず、もっと交渉しよう」と言えたはずだ。
(問) 10万のロシア軍が国境にいるのに、ゼレンスキーはプーチンともっと話すべきだったというのか。
(答) ウクライナ大統領のことは知らない。しかし、彼の振る舞いは前代未聞だ。まるで大がかりのショーみたいだ。彼は、朝、昼、晩とテレビに出ている。彼はまるで政治キャンペーンをしているかのように、イギリス議会、ドイツ議会、フランス議会、イタリア議会に出ている。しかし、彼は交渉のテーブルにいるべきだろう。
(問) そんなことをゼレンスキーに言えるか。彼は戦争を望んでいなかった。戦争を仕掛けられたのだ。
(答) 彼は戦争を必要としていたのだ。戦争を望んでいなかったのであれば、彼はもっと交渉するべきだった。そういうことだ。私は(3月に)メキシコ・シティでプーチンに、侵略は誤りだと批判した。しかし、平和のために努力しているものは誰もいないと思う。プーチンに対するヘイトをあおるものばかりだ。それでは問題は解決しない。必要なのは合意を達成することだ。ところが、戦争をあおるものばかりだ。ゼレンスキーをあおるから、彼はケーキの上のチェリーだと有頂天になっている。だが、我々は真剣な会話をするべきだ。「確かにあなたは素敵なコメディアンだ。しかし、あなたがテレビで演技するための戦争はしないことにしよう」とね。また、プーチンに対しては、「あなたはたくさんの兵器を持っている。しかし、ウクライナに対して使うことはないだろう。話をしよう」と語りかけるべきだ。
(問) バイデンについてはどう思うか。
(答) 彼が経済計画を発表したときに、彼を褒める演説をしたことがある。だが、計画を発表するだけでは十分ではなく、それを実行しなければならない。バイデンは難しいときにあると思う。ロシアとウクライナの戦争についての彼の決定は正しかったとは思わない。バイデンはそそのかすのではなく、回避することができたはずだ。彼はモスクワに飛行機で乗り込んでプーチンと話すことができただろう。指導者に求められるのはそういう態度だ。脱線しないように介入するということだ。彼がそのように動いたとは思わない。
(問) バイデンはプーチンに譲歩するべきだったというのか。
(答) そうではない。1961年に、アメリカがキューバにミサイルを持ち込まないようにとロシアを説得したように、バイデンは、「もう少し話し合おう。我々はウクライナがNATOに入ることを望んでいない。終わり」と言えただろう。それは譲歩ではない。こうも言えるだろう。もし私がブラジル大統領だったとして、「ブラジルはNATOに参加できるよ」と言われたら、私はノーと言うだろう。
(問) なぜ?
(答) 理由は、私が考えるのは平和であって戦争ではないからだ。ブラジルはどの国とも争いはない。アメリカとも、中国とも、ロシアとも、ボリヴィアとも、アルゼンチンとも、メキシコともね。ブラジルが平和国家であるということは、2003年から2010年にかけて作り上げた関係を再構築することを可能にするだろう。ブラジルは再び世界で主人公になるだろう。なぜならば、我々はよりよい世界にすることは可能だということを証明するだろうから。
(問) どうやって?
(答) 我々に必要なのは新たなグローバル・ガヴァナンスだ。今の国連はもはや何ものをも代表していない。今の国連は誰からも大切にされていない。誰もが国連を尊重しないで決定を行っている。プーチンは国連と相談しないでウクライナに一方的に侵入した。アメリカは、誰とも相談せず、また、安保理にも敬意を払わないで他国を侵略することが習い性になっている。だから、我々は国連を作り直し、もっと多くの国、人民を含むようにする必要がある。そうすれば、世界をよりよくすることを始めることができるだろう。