私は外務省に勤務していたとき、『赤旗』や『前衛』に掲載された、日本共産党のアメリカ帝国主義批判の諸論文に重要な視点を学び、数々の刺激を受けた経験があります。私は外務省にはびこる「アメリカ一辺倒」の風潮には元来なじめず、アメリカの対外政策には批判的見方しかありませんでした。そうした私にとって、当時の日本共産党の鋭い「米帝」批判論調からは多くの学びが得られたのです。残念ながら、それは遠い過去のものとなり、今も『赤旗』は惰性で(というより、上さんが集金に来る方と友達であるため)定期購読していますが、読み応えのある文章にぶつかることもなくなってしまいました。
 私が現在、自らの対アメリカ観について検証材料にしているのは中国研究者の文章です。現在のウクライナ問題に関する日本国内の論調を見れば一目瞭然のとおり、自民党から共産党に至るまでロシア批判一色です。ちなみに、中国に関する報道も批判一色です。ところが、「諸悪の元凶」であるアメリカについては、批判のひとかけらも見受けられない異様な言論状況となっています。おそらく今の「世論迎合型」の日本共産党では、国民の親米感情を思い計り、野党共闘への壁を作らないという考慮からも、アメリカ批判はできないのでしょう。もっといえば、今の日本共産党にはアメリカを本格的に批判するだけの理論的力量もなくなっているのではないかとすら思います。それに引き比べて、中国には舌鋒鋭いアメリカ研究者が目白押しです。
 5月2日付けの光明日報は、中国国際問題研究院の徐歩院長及び習近平外交思想研究中心の陳文兵特約研究員連名の「アメリカとNATOが固執する冷戦思想の『五つの罪』」(中国語原題:"美国北约固守冷战思维的"五宗罪"")を掲載しています。西側及び日本のメディアによって「洗脳」されてしまっている私たち日本人の「対米観」にとっては強烈な刺激剤となってくれると思います。要旨を訳出紹介します。

 ロシアとウクライナの衝突の原因は複雑だが、アメリカをはじめとするNATOが冷戦思想に凝り固まっていることが危機を作り出した主要原因であることについては、国際社会の認識は一致している。そのことは以下の5つの点に表れている。
<強権政治による国際平和の破壊>
 アメリカの歴史は覇権の歴史である。アメリカ独立時の面積はわずか80万平方キロに過ぎなかった。その後、米西戦争、米墨戦争等を経て領土は937万平方キロに拡大した。第二次大戦後は「世界の警察」を自任し、自らの軍事、政治及び経済的覇権を維持しようとしてきた。アメリカはまた、国内法を国際法の上に置いて他国の内政に干渉してきた。
 アメリカは2001年、「対テロ戦争」の名目でアフガニスタンに対する軍事行動を発動し、20年の戦争は24万人以上の死者と100万人以上の難民を生み出した。2003年には、国連安保理のお墨付きも得ないで対イラク戦争を発動し、アフガニスタンと同じように失敗した。この二つの戦争におけるアメリカの失敗が示しているのは、覇権主義と強権主義が国際平和に対する最大の破壊力であること、そして、如何に強大であれ、覇権によって他国の運命を変えることはできないこと、ましてや世界を取り仕切ることなどできないということである。
<NATO東方拡大による対決挑発>
 冷戦終結後、NATOはワルシャワ条約機構のように解体せず、一極支配を目指し、対決的な軍事集団を組織しようとするアメリカの道具に堕していった。アメリカは覇権を維持する目的から、NATOという軍事的道具を利用してロシアを抑え込むとともに、「安全保障」を理由にして欧州を支配し続けようとした。1999年の第1次東方拡大以来、NATOは21年間に5回にわたる東方拡大を続け、加盟国は16から30に拡大し、モスクワ方向に向かって1000キロ以上も前進した。NATOはまた、ロシアの安全保障上の関心を無視して大量の攻撃戦略兵器を東欧に配置し、ロシアに対する戦略的圧力を強化し、ロシアが反撃せざるを得ないように追い込んだ。
バイデン大統領は3月に訪欧した際、ポーランドで演説して冷戦における「勝利」を喧伝し、イデオロギー的対立を鼓吹した。オースチン国防長官は過日ウクライナを訪問して、力の及ぶ限りウクライナに武器援助を行って、ウクライナが対ロシア戦争に勝利するよう支援すると言明した。これまでに、アメリカはウクライナに対して約37億ドルの軍事援助をコミットしている。4月28日、バイデンは米議会に対してさらに330億ドルの資金を要求し、「ウクライナに対する軍事援助、NATOとの協力による欧州の安全保障強化」向けに204億ドルを回すとした。アメリカのこのような行動こそがウクライナ危機がますます嵩じている主要原因である。
<デモクラシーを名目にした他国に対する内政干渉>
 アメリカは覇権主義の本質を覆い隠すために「デモクラシー」「人権」などの口実を使って好き勝手に他国の内政に干渉する。すなわち、1999年にNATOは「人権」保護を名目にして当時のユーゴスラビアに対して78日間に及ぶ空爆を行い、8000人以上の民間人の死者、100万人に近い難民を生み出した。アメリカはまた「民主的改造」を名目にしてイラク及びシリアに出兵し、これらの国々の人権を踏みにじり、無辜の民を惨殺し、血にまみれた悲劇を作り出した。また、不完全な統計によれば、2001年以後にNATOが発動または参加した戦争で90万人の命が奪われ、1000万単位の難民が生まれた。アメリカはさらに世界各地で「カラー革命」を策動して、混乱の中で漁夫の利を得ようとしてきた。これらの事実が証明するとおり、アメリカは戦争中毒の国家である。アメリカの「戦争史(War History)」WSは、アメリカは建国以来の93%の時間が戦争状態だったと指摘する。『スミソニアン協会ジャーナル』の統計によれば、アメリカが2001年以後に発動した戦争及び軍事行動は地球上の約40%の国家をカバーしている。
 アメリカの振る舞いから分かるのは、アメリカの「デモクラシー」は真のデモクラシーではなく、デモクラシーの名を騙った単独覇権の地位回復、他国の内政に対する干渉、地縁政治的利益獲得がその本質だということである。
<「インド太平洋戦略」によるアジア太平洋情勢攪乱>
 アメリカの「インド太平洋戦略」という考え方は2010年に提起され、その後何度も手が加えられてきた。本年2月にバイデン政権が発表した「インド太平洋戦略」に関しては、ブリンケン国務長官がこの地域に赴いて大宣伝を行った。このことから分かるように、ロシア・ウクライナ衝突という背景のもとでも、アメリカはこの地域の緊張を高め、情勢を攪乱しようとする意図を放棄していない。この戦略の本質は、地域の「同盟国」「パートナー国」を募り、いわゆる「中国の脅威」に共同で対処することにある。アメリカはさらに、地域協力の旗印の下、アジア太平洋地域で地縁政治上の駆け引きや企みを弄び、「ファイブ・アイズ」を強化し、AUKUSを売り込み、「三国間安全保障パートナーシップ」をかき集め、二国間軍事同盟を引き締める等々、地域の平和と安定に深刻な脅威をもたらしている。
 アメリカの「インド太平洋戦略」「インド太平洋版NATO」の企みは、この地域でアメリカ主導の覇権システムを守ろうとするものであり、ASEANを中心とする地域の協力の枠組みに深刻な打撃を与えており、この地域の国々の全体的及び長期的な利益を損なっている。それは、この地域の国々が求める平和、発展、協力、ウィン・ウィンという共通の願望と背馳するものであって、必ずや失敗するだろう。
<冷戦の遺産による国際社会分断>
 国際的な力関係の消長、特に新興大国の台頭により、アメリカはもはや国際関係を単独で牛耳ることはできない。本来であれば、アメリカは歴史の潮流と世界の発展の大勢に順応して、グローバル・ガヴァナンス・システムの改革を積極的に推進するべきである。しかし、アメリカは相変わらず「ヘゲモニー」の夢に溺れたままであり、自らが主導するG7等の小グループの復活を企て、同盟諸国の中での覇権を回復し、「自由世界のリーダー」というイメージを復活しようと企んでいる。昨年月、G7はイギリスでサミット首脳会議を行ったが、その主要テーマの一つは連合して中国に対抗することであり、その前に開催されたG7外相会議では台湾、新疆、香港などが主要議題となり、中国の「経済的脅威」、「デモクラシー対専制主義」が議論されて、その矛先は中国とロシアに向けられた。昨年12月には、アメリカがいわゆる「デモクラシー・サミット」を主催したが、世界の半分近い国々は除外され、世界を公然と分裂させるというアメリカの本性がさらに暴露される結果となった。
 イデオロギーによって線引きをし、派閥作りするというやり方はとっくの昔に時代にそぐわないものとなっており、冷戦の遺産によって国際社会を分断しようというアメリカ外交の一面を反映している。そのことが世界の平和と安全にもたらす破壊的な影響はますます明らかである。
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 人類は今、ガヴァナンス、信頼、平和及び発展の赤字という試練に直面しており、コロナ・ウィルス、気候変動、エネルギー資源、テロリズム、ネット犯罪等の安全に関わる問題はますます増えている。日増しに深刻になるグローバルな挑戦を前にして、一国だけは安全ということはあり得ず、世界は合作共嬴を求めている。アメリカとその同盟国は冷戦思考と単独主義を捨て、集団政治と陣営対抗を放棄するべきである。国際社会は団結強化を必要としている。