中国の農村・農民問題の本質は、都市と農村、市民と農民という二元構造を如何に解消するか、という問題です。中国では、歴史的にもこの二元構造が支配していましたが、1949年の中華人民共和国成立以後、中国共産党の採用した重工業化建設路線によってこの二元構造が制度的、政策的に固定化されることになりました。1978年以後の改革開放路線の採用によって重工業化建設路線は清算されましたが、二元構造問題の深刻性が認識されるのは21世紀に入ってからであり、「目の色を変えた」本格的取り組みは習近平体制になってからのことでした。
 今回はまず、中国社会科学院農村発展研究所の研究者の発表した、都市と農村の関係の歴史的変遷を分かり易く解説した論文を読み解くことで、問題の所在を確認します(レジュメの第1番目の柱)。この論文によれば、二元構造解決のカギは、①戸籍制度の改革、②都市と農村との間における要素(土地、資本、人材等)市場の一体化、③農村における多角的融合的な産業発展、という3点に要約されています。戸籍制度は、都市と農村の分離固定の根本原因の一つではありますが、その詳細は次回の農民問題の中で詳しく見ることにします。したがって、②と③に関係する問題を主に今回見ることとなります。
 国際的な経験を踏まえるとき、人口都市化率が70%に達すると、都市と農村の全面的な融合が実現すると言われているようです。その時になると、農村人口が大幅に減少し、都市の農村扶養能力が大幅に向上するというわけです。しかし、習近平は、人口都市化率が70%に達したときでも、14億人の人口を抱える中国では、農村になお4億人以上が居住しているわけであり、それを踏まえた「三農」(農業・農村・農民)問題を考えなければならないと強調します。それが中国の国情だというのです。また、習近平の発言を見るとき、「農耕文明は中華伝統文化の根源」dえあり、その伝統文化の遺伝子は「今日なお重要な役割を発揮している」という認識が停留に座っていることを見ることができます。したがって、習近平においては、農村振興は戦略的、長期的な課題なのです。
 日本では、高度経済成長時代に大量の農村人口が都市に移り住み、農業の衰退、農村の過疎化が進行しました。習近平のような問題意識は、一部の識者を除けば、日本社会ではほぼ無縁だといえるでしょう。私はド素人ながら、自民党政権の農業農村政策にはかねてから大きな疑問を持ってきました。そういう私には、習近平の問題意識には共感を覚える点が多々あります。
 したがって、そういう習近平の問題意識が政策・方針としてどのように具体化されているのかを確認することが、今回のレジュメの第2番目の柱となります。まず、習近平が中央政治局の学習会で行った発言内容をご紹介します。その上で、2018年9月に発表された「郷村振興戦略計画(2018年-2022年)の中身を詳しくご紹介します。その後の「三農」政策は、ほぼこの文件で示された内容・道筋にしたがって進行しています。  この戦略計画が中国農村の改革プロセスの中にどの程度具体化されつつあるか。このことを農村改革の具体的事例について垣間見ることが今回のレジュメの第3番目の柱となっています。中国の報道では正に無数の事例が紹介されていますが、ここでは7つのケースを紹介します。

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中国の農村問題