日本国内では、ロシア・ウクライナ危機に対する正確な理解はほとんど存在せず、「ウクライナ=善・かわいそう、ロシア=悪・けしからん」という受け止めがまかり通っています。そういう受け止め方が支配するもとでは、政府・自民党がロシア批判一辺倒になることを当然視する「世論」が圧倒的になりますし、「ロシアによるウクライナの悲劇」を「中国による台湾の悲劇」に結びつけることで日本の軍拡を主張する安倍晋三等右翼勢力の主張が公然とまかり通ることを許す「世論」にもなります。そういう「世論状況」を利用して、政府・自民党がますます対米軍事協力路線を突っ走る状況ですが、野党勢力はそれを阻止するどころか、一緒になって暴走する始末です。
 しかし、中国は日本の動きを冷静にかつ警戒感を膨らませながら見つめています。環球時報は、4月22日に黒竜江省社会科学院東北アジア研究所の笪志剛所長署名文章「火薬の匂いプンプンの日本経済安全保障法」(中国語原題:"日本经济安保法案火药味很浓") を、また24日には社説「アメリカにこびを売って軍国主義復活をもくろむ日本右翼」(中国語原題:"讨好华盛顿,日本右翼就能复活军国主义吗?")を掲載しています。私たちが備えるべき視点を指摘しています。紹介するゆえんです。

○笪志剛「火薬の匂いプンプンの日本経済安全保障法」
 法案の特徴と内容から三つのことが指摘できる。一つは、あまり例を見ないことだが、与野党が一致して承認しており、超党派の戦略であるということだ。第二に、法案の4つの柱はことごとく極めて敏感かつ特定の領域に関わるものだ。第三に、核及び兵器開発に関わる特許情報は法的にブロックする権利が認められていることだ。それと同時に、この法案を巡るこれまでの流れから、日本が入念に追求する3つの方向性が浮かび上がる。
 第一に、法案の対中対決色である。あからさまにいっていることではないが、産業競争力、重要物資供給チェーン、先端技術開発等に関する記述ぶりからは中国に対する火薬の匂いを嗅ぎ取ることができる。第二に、韓国で保守派の人物が大統領になる機会に、米日韓協力に経済安保を加味することである。第三に、安保2+2を通じて経済2+2を本格的に稼働させることである。
 法案の包含する内容及び実施後の影響から見て、中日の多元的な競争の中で先手を取り、グローバルな産業チェーン及び地域供給チェーンにおける「脱中国化」を速めようとするものである。今回の法案に関わる日本の動きは、中日国交正常化50年の良好なインタラクションという基礎を傷つける可能性がある。
○環球時報社説「アメリカにこびを売って軍国主義復活をもくろむ日本右翼」
 最近、日本国内には憂うるべき動きが出ている。自民党は「国家安全保障戦略」等の文件の中で、中国を「重大な脅威」とし、5年以内に防衛費をGDPの2%以上に高め、他国のミサイル基地を攻撃する、等々。外務省が最近発表した2022年版外交青書については、「20年近くに及ぶ対ロ穏健姿勢から強硬姿勢に転じた」とする分析もある。
 外交青書では、「中国の脅威」を喧伝する以外に台湾海峡でも騒ぎ立て、ロシアのウクライナ「侵略」を厳しく批判するとともに、2003年以来でははじめて「北方4島」をロシアが「不法に占拠」していると明記し、韓国と共同して朝鮮に「対応」すると述べるとともに、「竹島」は「日本の領土」と主張して、韓国外務省の抗議を浴びた。日本と周辺諸国の領土紛争には歴史的な経緯があるが、世界政治上の衝突とリスクが高まっている背景のもと、このような「機関銃乱射」の挙動を見ると、日本は乱に乗じて漁夫の利を得ようとしているのではないかと考えざるを得ない。
 ロシアとウクライナの衝突が起こってから、欧州の多くの国々が慎重な姿勢を維持している中で、日本は対ロ強硬姿勢で尋常でないほど活発であり、アジアではアメリカに最大限に歩調を合わせる同盟国となっている。同時に、日本国内の政治屋、さらには防衛省をはじめとする政府部門も、「中ロの脅威」を喧伝することに余念がなく、中国とロシアを一緒くたにする勢いである。彼らがそうする目的は明確であり、そうやって「成績」をあげることでアメリカの受けを狙い、それにより「平和憲法」を改正して「専守防衛」を突破する「融通」を利かしてもらおうという魂胆なのだ。
 特に警戒する必要があるのは、ウクライナ危機発生後、日本国内にはこの問題と「台湾有事」を同一視する声があり、その声の影響力が増していることだ。安倍晋三等を含む政治に影響力がある右翼政治屋は繰り返し、「台湾有事」は即「日本有事」だと言い張り、日本の国内世論ひいては国家の政策を誤った方向に導こうとしている。これは愚の骨頂だ。彼らはホンネとしては、日本が「台独」と「安全な距離」を保ち、自衛隊が台湾海峡から遠く離れてさえいれば、なんの「危険」もないことを知り尽くしている。
 彼らの本当の目的は、一歩ずつ軍事的な縛りを解きほぐし、最終的には「平和憲法」を改正することにある。ロシア・ウクライナ衝突が起こってから、彼らはいわゆる「核共有」の宣伝を強化しているが、その背後には軍国主義復活、第二次大戦後の国際秩序書き換えという意図がうごめいている。例えば、5年以内に防衛費をGDPの2%以上に引き上げるとはどういうことなのか。それは、短期間に武衛費を2倍にするということであり、そうなれば、日本の防衛支出は世界第3位になるということなのだ。
 彼らのそろばん勘定からすると、中米対立という状況のもと、「危機」のたびに軍事上の縛りを解いていこうとしている。日本の右翼は第二次大戦の結果に「恨みと憤り」を持っている。つまり、軍国主義思想はこの国ではまだ徹底的に清算されていないのだ。今のワシントンは地縁政治的な目先の考慮から日本の右翼の行動に対して見て見ぬふりをしており、アメリカ国内には日本が「武装」することをはやし立てる声さえある。こういうやり方は最終的に飼い犬に手をかまれることになる。
 岸田首相は21日に靖国神社に奉納して、中韓等近隣諸国の強い批判を受けた。近年、日本の右翼の軍国主義復活の動きはますます顕著であり、そのことは周辺近隣諸国との齟齬を不断に掻き立て、深刻な対立にまで至っている。日本の右翼勢力が束縛を振りほどこうとどんなにもがいても、それに対する反作用の力は同じように大きくなっていくだろう。