私は3月28日のコラムでアメリカ・バイデン政権の対ロ包囲網戦略の危険な本質について考えていることを述べ、アメリカ盲信に陥ってしまって、世の中のことがまったく見えなくなっている日本国内の状況についてささやかに警鐘を鳴らし、私と同じ認識に立って厳しい対米批判を行った環球時報社説を紹介しました。しかし、現在のアメリカの危険性はもっと本質的かつ深刻であり、その暴走に歯止めをかけないと、世界の平和そのものが破壊される危険な段階にすでに至っていることを直視しなければならないと思います。
 安倍晋三氏が12日付のロサンゼルス・タイムズで、ロシアに侵攻されたウクライナを例に挙げ て、アメリカは中国の脅威に直面する台湾を防衛することを明確にするべきだとする文章を発表した(13日付け日経新聞)のは、バイデン政権を「対中戦争への道」に引きずり込もうとする意図が見え見えです。それなのに、日本国内ではさざ波一つ立たない状況が支配していることは日本政治が「癌のステージ4」に入ってしまっていることを端的に表しています。その一方では、西側メディアに踊らされてウクライナにやみくもに同情し、ロシアを「諸悪の根源」と仕立て上げなければ気が済まない、私にいわせれば「一過性」に過ぎない「政治的世論」が共存しているのです。
 4月17日付け環球時報社説「ますます膨らむワシントンの政治的欲望」(中国語原題:"华盛顿的地缘政治胃口越来越大")は、中国が私の対米認識・対米危機感を共有していることを示すものでした。要旨を紹介するゆえんです。

 この数日間、ブリンケン国務長官、サリバン補佐官等が相次いで、ロシアとウクライナの軍事衝突がいつ収束するかについて発言している。サリバンは「長引くだろう」と言い、ブリンケン等は年末まで続く可能性があるとしている。これはワシントンの判断というよりは、そうあってほしいというホンネの表明という方が正しい。
 国際的には、この衝突は5月中には終わるだろうという見方が普遍的だったのに、ワシントンはそれを7ヶ月先に引き延ばしたことになる。今回の衝突が勃発して以来、ワシントンの動きのほとんどすべては戦争を長期化させようとするものであり、そのために一貫して様々な動員と努力を払ってきた。ワシントンの最近の「予測」が実際に意味することは、ウクライナに対して、「俺たちが後ろにいる」からいくらでも戦いなさい、と言っているに等しい。要するに、ウクライナは捨て駒として最大限に利用されているということだ。
 50日以上続いている今回の衝突から見えてきたことは、「ウクライナを助ける」というのは「大向こう受け」を狙ったアメリカの見せかけに過ぎず、乱に乗じて利をむさぼるのが本当の目的だということだ。ペンタゴンは13日にアメリカの8大軍事請負業者のトップを招いて兵器増産を議論した。軍事産業企業の株価は大幅に上昇している。アメリカの軍産複合体は戦争が長期化することによる最大の受益者である。それに加え、ロシアを最大限に消耗させ、「ロシア脅威論」を利用して欧州を自分の脇に引き寄せ、最大限にNATOを操縦する等々は、アメリカがこの戦争によって獲得できる「地縁政治上のボーナス」となる。
 バイデンは一再ならず、NATOとロシアの直接衝突は「第三次世界大戦」になるからそれは防がなければならないと述べているが、アメリカが実行していることは事態を一歩一歩その方向に押しやっているに等しい。衝突が始まって程なく、ロシアとウクライナは交渉を通じて戦火を終息する姿勢を明らかにし、何度も交渉した。第5回の交渉では双方の立場が接近し、いいニュースも伝えられた。ところが、ウクライナは「NATO加盟」などの核心問題で急に態度を変え、交渉は膠着状態に陥ってしまった。そこにはウクライナ側の戦術的考慮も働いたかもしれないが、根本原因は、このドラマがワシントンの台本に従ったものではなく、アメリカが交渉をぶち壊したことにある。
 ウクライナ危機が勃発してから人々は「新冷戦」の到来を心配してきたが、現下の情勢は「新冷戦」よりさらに危険な方向に向かって進んでいる。「冷戦」においては、対峙する双方が安全は相互的なものであることを認め、行動を抑制することによって、軍事的イデオロギー的な対峙状況の下で「長期的な(冷たい)平和」を維持してきた。しかし、今アメリカが推し進めている「ロシアをやっつける」政策は「デタランス」の域を通り越してしまっている。アメリカにとって、ウクライナの平和は優先考慮事項ではない。今のアメリカの思考を支配しているのは、冷戦終結初期の「一極支配」の単独覇権であり、それを裏打ちする傲慢さなのだ。
 しかも、ロシアとウクライナの衝突が長引くにつれて、ワシントンの地縁政治の胃袋はますます大きくなっている。アメリカ・メディアの報道によれば、バイデン政権と欧州の同盟諸国はロシアを孤立させ、弱体化させる「まったく異なる世界」を作り出すことを企んでいるという。アメリカが盛んに喧伝する「安全保障に対する懸念」から、スエーデン、フィンランドといった中立国がNATOに加盟しようとし、欧州諸国とロシアの安全を巡る対立は悪循環の軌道にはまり込みつつある。アメリカが進めるこの策略が思い通りにいくか、それともバイデン政権が企んで失敗した「民主的変革」のように挫折するかどうかはともかく、バイデン政権が意識的に推進する世界分裂の策略は「予想不可能な結果をもたらす」というロシアの警告を招いている。
 さらに危険なのは、ウクライナ危機で甘い汁を吸ったワシントンがこの策略をグローバルに展開する衝動に駆られていることだ。公知のごとく、ワシントンは今回の衝突を最大限に利用して、ロシア・ウクライナ情勢をインド太平洋情勢に絡めようとしている。すなわち、アメリカはNATOがこの地域に関心を持つように引っ張るとともに、アジア太平洋で波風を立てることにも余念がない。その表れは、日本と韓国をはじめてNATO外相会議に招請したこと、日本をAUKUSに参加させようとしていること、台湾問題で政治的動きを露骨に強めていること等々である。地縁政治のゲームにどっぷりつかったワシントンは日増しに「乱を生み、戦を生む」策源地になっていることに、すべての人が警戒し、身構える必要がある。